磁性の不思議
Q1. 「磁化」というのが分からない→A. 定義もせずに使ってご免なさい。でも、定義からやっているとなかなか実際の話までいかないので、「磁化」という言葉はこのように使うのだという感じをつかんで貰おうとしました。電磁気学では、外部磁界H,
磁化M, 磁束密度Bとすると、B=μ0(H+M)と書かれますから、磁化Mは物質(磁性体とは限らない)があることによって付け加わった磁束密度
(に対応する磁界) の大きさです。
Q2. 初磁化状態の磁気モーメントが磁力の強さになるか→A. 初磁化状態は全体として磁気モーメントは打ち消していますから、それから磁力を見積もることはできません。
Q3. 磁化は磁界に逆らう向きに変化するのか→A. 磁界に平行になるように変化します。
Q5. 保持力とは何が何を保持するのか→A. Bad Question! 「保持力」ではなく「保磁力」ですから間違えないようにという私の注意を聞いていなかったね。保磁力の意味はQ4参照。
Q6. 保磁力の大きさHcはどのような性質できまるのか→A. 自由に回転する微粒子磁石からなる磁性体の保磁力は、磁気異方性定数Kuに比例し、磁化の大きさMsに反比例します。磁気異方性というのは、磁性体の磁化が結晶や薄膜の特定の方向を向こうとする性質です。磁気異方性エネルギーが大きいと、外部磁化の方向に向こうとする力より、異方性で決まる向きを保とうとする力がまさります。その結果大きな磁界をかけないと磁化が反転しません。従ってHcが大きくなるのです。一般の場合のHcを理論的に導くのは困難だと言われています。
Q7. 磁区ができる原因は何か→A. 授業で説明したように、磁極が生じることによる静磁エネルギーを下げるために、ストライプ磁区に分かれたり、磁極を作らない環流磁区になるのです。
Q8. 磁壁が欠陥などにピン留めされるというのが分からない→A. 磁壁の中では、原子の磁気モーメントの向きが、徐々に回転していきます。原子の磁気モーメントどうしの間には交換相互作用が働いていて、1つが傾くと隣の磁気モーメントも傾けようとするのですが、途中に欠陥があると、1つが傾いてもそれが伝わらないことがあります。これがピン止めなのです。
Q9. 永久磁石の磁化反転による磁気の減少は本当にゼロなのか。限りなくゼロと言うだけか→A. 完全にゼロと言うことはありませんが、Hcが大きなものでは、半永久的です。
Q10. 飽和磁化の大きさは物質毎に決まっているか。何によって大きさは決まるのか→A. その通りです。鉄は105A/m程度ですが、永久磁石材料のSmCo5では106A/m近くあります。金属強磁性体の磁化の強さは、↑スピンバンドの電子数と↓スピンバンドの電子数の差で決まります。個々の磁性体のバンド構造に基づいて決まります。
Q11. 磁界の単位で「ステッド」というのが出たが基本単位ではどうなるのか→A. 「ステッド」ではなく「エルステッドOersted」でOeと表し、cgs単位系における磁界の強さを表します。1 Oe=79.6A/mです。地磁気の強さは、0.3
Oe=24A/mです。
Q12. 飽和前に磁界をゼロにするとどうなるか→A. Good Question.マイナーループを描きます。
Q13. HがマイナスとはNSの向きが逆ということか→A. その通りです。
Q14. ヒステリシスループ1周にどれくらいの時間がかかるか→A. 1ns程度の速さで応答します。
Q15. 軟質と硬質の使い分けがいまいち分からなかった(児玉)→A. 永久磁石はHcが大きくないと困るので硬質磁性体、磁気ヘッドや変圧器(トランス)の磁心は、ヒステリシスがあると困るので、Hcの小さな軟磁性を使う。磁気記録には、メモリーのためには残留磁化が必要であるが、記録磁界で書き替えられなければならないので半硬質磁性体を使います。
Q16. 方位磁石に永久磁石を近づけないほうがよいと聞いたが今日の問題と関係あるか→A. その通りです。方位磁石の磁針は弱く磁化されていますが、強い磁石を近づけると、磁針の指す方位が逆転してしまうこともあります。
Q17. 現在最強の磁石よりもっと強い磁石は発明可能か→A. 原理的にはナノコンポジット磁石という複合磁石を作るともっと大きな磁化を期待できるので、東北大学や米国のアルゴンヌ研究所などではそのような磁石を研究していますが、今のところ成功していません。
Q18. 磁気記録で「硬質磁性」はどこに利用されているのか→A. 磁気記録媒体のメモリ作用に利用します。
Q19. ディジタル記録は分かったがアナログ記録が分からない→A.Q12にあるマイナーループを描かせて、中間の残留磁界として記録します
Q20. 上書きのメカニズムが分からない→A. 前に書いてあるものもHc以上の磁界で書き替えられます。磁性体の良いところです。アナログでは、そのままでは困難ですが、高周波バイアス法を使うので可能なのです。
Q21. アナログのテープは重ね録りをつずけると映像がわるくなるのか→A. テープはトラックとよばれる経路に沿って信号が記録されていて重ね録りをすると、今までの記録磁化の上に重ね書きしますが、テープのジッターなどのため、完全に同じトラックを通るわけでないので、前の分が消えずに残ってそれが画質の低下につながります。
Q22. ハードディスクでは、電気信号→磁気信号(書き込む)、(読み出す)磁気信号→電気信号という流れなのですか。→A. その通りです。(当然、知っていると思って講義していました)
Q23. ハードディスクが100GBになるのはどれくらい先か→A. 今年の磁性の国際会議で、今年中に40Gbit/inch2までいくということですから、今年中に2.5”径で20GBというのが出るでしょう。100GBは2-3年後でしょう。
Q24. HDDの密度を上げるには粒子を小さくする必要があるのか。→A.
それも1つですが、1つ1つに1ビット記録するには、隣のビットと十分に離れていなくてはなりません。そこで1つの粒子の周りを非磁性体で囲むなどの方法が採られます。さらに、面内磁気記録では、互いの磁界で減磁してしまうので、垂直磁気記録にしないと行けないのではないかと言われています。また、磁気モーメントの熱揺らぎの問題をどう解決するかが議論されていますが、話はそれほど簡単ではなく、もっと難しい磁性物理が関係するので、世界中の多くの研究者が研究に取り組んでいます。
Q25. HDDが壊れる原因と予防法→A.
ヘッドクラッシュによる磁性体あるいは磁気ヘッドの損傷が主因です。予防法はなるべく衝撃を与えないことです。
Q26. ハードディスクでヘッドを磁気ディスク上に載せてしまうという話があったが、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)でも削れるのではないか→A. だから潤滑剤を塗布するのです。
Q27.
誘導ヘッドとは何か(通地)→A. 磁気の変化をコイルによって磁気誘導による起電力として検出する普通のヘッドです。カセットテープもビデオレコーダも誘導ヘッドを使っています。これに対し、磁気によって抵抗値が換わるヘッドをMRヘッドというのです。
Q28.
MRヘッドでは誘導ヘッドの何倍記録できるのか→A. MRヘッドは読みとり専用で記録できません。MRヘッドにも異方性磁気抵抗を用いたAMRヘッドと、人工格子の巨大磁気抵抗を利用したGMRヘッドがあります。GMRだと誘導型の100倍以上高密度の記録磁区を読めます。
Q29. CD,
MDの読みとりはHDDの読みとりと同じか→A. CDはレーザ光の強度を読みとります。MDはレーザ光の偏光の回転を読みとります。
Q30. CDRの記録媒体は何か→A.
色素です
Q31. 中松氏のフロッピーの発明はどれくらい凄いことなのか→A. それまでは、コンピュータ用磁気記録と言えばしっかりした硬い基板の上に磁性体が載っているという固定概念がありましたが、ソレを崩したところがすごいと思います。
Q32. 磁性体には、授業中に挙げたものの他にどんなものがあるか→A. 本日の講義で話します。
Q33.
はさみの刃を素早く開いたり閉じたりすると、クリップがくっつくが、やはり磁石の働きか→A. ウチのはさみでやってみましたが起きませんでした。よく分かりませんねー。
Q34.
磁気記録したものは時間が経つと信号が消えてしまわないか→A:磁気テープでは転写の問題があって、必ず、定期的にコピーをとっていなければなりません。また、ディスクでも、小さなビットは反磁界のために長期的には不安定になるので、記録密度に限界があります。垂直磁気記録ではこの点が改善されています。
Q35.
これからの外部記憶装置はなにがよいのか。→A: 価格的には、ZIPでしょうが、PDもかなり安くできます。ZIPは転送レートが遅いので、大量のデータを高速にという目的には使えないでしょう。PDの泣き所は信頼性(寿命)です。MOの欠点は、ドライブが高価なことですが、利点は、超解像法を使えることです。最後に笑うのはなにでしょうか?それは市場が判断するでしょう。
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Q36.
磁気カー効果のカーとは何か→A:発見者であるイギリスの物理学者John
Kerr (1824-1907)の名前に因んで名付けられました。
Q37.
カーという人は他にどのような研究をしたのですか。→A:カー(Kerr)氏は、電気光学効果の研究も行いました。誘電体において、偏光の回転が印加した電界の二乗にに比例するような効果を発見し、電気光学カー効果と名付けられています。
Q38.
MDの構造を詳しく。→A:基本的にはMOディスクです。媒体はプラスチックに磁性体をスパッタし、保護膜を付けたものです。光はプラスチック側から、磁界は、磁性体膜上から加えられます。
Q39.
ファラデー効果を示す物質は何を使うのか。→A:ガラス、水晶、ビスマス添加希土類鉄ガーネット(R3-xBixFe5O12;R=Gd、Dy等)Cd1-xMnxTeなどが使われています。
Q40.
回転する電界ベクトルはどこから発生するのか→A:直線偏光のベクトルは左右円偏光に分解できるということで、もとをただせば、入射した直線偏光の光の電界ベクトルです。
Q41.
授業中、偏光子といっていたが、その役割は何か→A:自然光は電界ベクトルの向きがバラバラな方向を向いていますが、偏光子を通過した光は、電界ベクトルが特定の向きをもって振動するようになります。
Q42.
光の偏光面の回転というのがどういうものかわからない。→A:Q41の質問の回答に示したように、偏光子を通した光は、特定の方向に振動します。これを振動面といいます。(これに直角な方向の面を偏光面といいます。)ファラデー効果では、入射した偏光の振動方向の傾きと出てきた光の振動方向の傾きが異なります。このとき、振動面が(従って、偏光面も)回転したように見えます。これを旋光性とか回転とかいうのです。
Q44.
フォークト配置について→A:光の進行方向と垂直に磁界がかかっている場合をいいます。効果としては磁気復屈折による光学遅延が磁化の2乗に比例するものです。
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Q45.
MOディスクで磁界変調で重ね書きができるのに光変調の場合重ね書きができない理由は→A:光変調の場合温度の高いところが円形ではなく涙型になるため、重ね書きしても一部がもとのまま残るのですが、磁界変調では温度が上がるところは同じ径で、磁気のみが変化するので重ね書きしても前のものが残らないのです。
Q46.
MDとMOの単価が同じくらいなのはなぜか。→A:MDのドライブはMOに比べ簡単ですが、媒体はMOそのものです。また、MOと違って、磁界変調のため膜面を磁気ヘッドがこするので、コーティングに一工夫してあります。従って、決して安くないのです。
Q47.
MDは少し音が悪くなるのにDATは音がきれいなままなのか。→A:原理的にはその通りですが、音が悪いといってもその違いを聞き取るのは難しいとおもいます。
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Q48.
光通信でアイソレータを使うということは方向別に完全に別のラインを使っているのか。→A:その通りです。往復で使うこともできますが、分岐が増え損失が増えます。