電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1998.12.4

E-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp, Home page: http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/; 教科書:佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)

第8回(11/27)の学習内容:教科書P.206-208,219-220

磁性入門:磁性体は何に使われているか:変圧器・電動機などの磁芯、磁気記録、永久磁石

軟質磁性体、半硬質磁性体と硬質磁性体とその応用:

軟質磁性体、半硬質磁性体、硬質磁性体の分類は何によるか:磁気ヒステリシスの保磁力Hcの大きさの違いによる

磁気ヒステリシス:初磁化曲線、飽和磁化、残留磁化、保磁力

強磁性体:原子磁気モーメント(原子磁石)が交換相互作用によってそろえあっている。

磁気ヒステリシス曲線の原因:磁区の存在による。

磁区:強磁性体が単一磁区であるとき、表面に磁極が生じ静磁エネルギーが高くなるので、全体が磁区に分かれる。

 

第8回の問題

  1. 磁気ヒステリシス曲線を描き、保磁力Hc、飽和磁化Ms、残留磁化Mrを記入せよ。→解答:図1参照
  2. 初磁化曲線を磁区を使って説明せよ。→解答:初磁化状態では、さまざまな向きの磁区に分かれて、全体の磁化がうち消しているが、外部磁界をかけると磁壁が移動して、磁界の方向に向いた磁区の面積が増大する。次に磁区の中の磁化の向きが回転し、ついには単一磁区になる。これが飽和磁化の状態である。

第8回の質問・印象・要望

  1. 磁区の話がよく分からなかった。(花岡)、問2がよく分からない(井沢、山中)強磁性体の話からが分からない(松田) 磁壁のことをもう一度(チュア)à A: 今回もう一度復習します。
  2. (永久)磁石の磁力はなぜ弱くなるのか。弱くなった分はどこに行くのか。(広瀬)à A: 永久磁石は保磁力が大きい磁性体です。これは逆向きの磁区のnicleation(核発生)がピン止め効果などの原因で抑制されている状態です。しかし、永久磁石には磁極があるので、反磁界により静磁エネルギーが高くなっていますから、何らかの原因で磁区発生のピン止めがなくなると逆向きの磁区が発生し、全体としての磁化が弱くなるのです。このような作用を「減磁」といっています。従って、弱くなった分は逆方向の磁区になったのです。
  3. (鉄製の)船は造られたときの向きによって磁性をもつと言われていますが、地磁気によって磁化されたからか。磁気魚雷・機雷があるくらいだから強い磁気があるのでは?また鉱山から出た鉄鉱石も相当強い磁気をもっているか。(原田)à A. 鉄船に使われている鉄板は軟磁性体ではないので、はじめから何らかの理由により磁気を帯びている可能性があります。もちろん鉄板をつなぎ合わせ、溶接して作るので、温度が上がってTcを越え、下がるときに地磁気の方向に磁化され、残留磁化をもつということもあるでしょう。磁気魚雷は自分に永久磁石を持っているので、相手が磁性体であれば、そちらに吸い付こうとして、永久磁石が動いて爆発が起きるので、船に残留磁化がある必要はありません。鉱山の鉄鉱石には、磁鉄鉱(magnetite)、赤鉄鉱(hematite)、黄鉄鉱(pyrite)、白鉄鉱(marcasite) 磁硫鉄鉱(pyrrhotite) などがありますが、このうち磁石につく磁性体は、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱のみで弱く磁化しています。秦の始皇帝の作った羅針盤に使われたのは磁鉄鉱であろうと言われています。
  4. 軟質・硬質磁性体の違いは保磁力にあるといったが、人工的に簡単に制御できるのか(金子)à A. 鉄釘は半硬質磁性体ですが、炭火にいれて加熱して焼鈍(アニール)すると軟質磁性体になります。このほか、薄膜などでは製造の際のガスの圧力などで制御することもあります。アニール温度は800℃くらいです。
  5. オーディオケーブルでもアニール処理をするといいとか言うが、磁性と関係があるのか(外山)à A. オーディオ用ケーブルに使う銅は無酸素銅といって、水素を流しながら高温でアニールして、銅と結合していた酸素を追い出して、抵抗を下げてあるのです。
  6. アモルファスとは何か(榧守)à A. 原子が結晶のように規則正しく並んでいない状態です。
  7. なぜスピンが磁気モーメントに影響を与えるのか。(佐藤良)à A: スピンは相対論的量子力学の帰結ですが、あらっぽく言えば、回転電流と考えておいて下さい。
  8. 非晶質にレーザを当てると結晶化するのはなぜか(高橋)à A. 非晶質は、融液からの凝集過程が非常に速く行われたため、不規則な原子配列が凍結してしまった状態で準安定な状態です。従って、温度が高くなって原子が動けるようになると、いつかは安定な結晶状態になろうとするのです。
  9. MRIはどのように使われるのか(千倉)à A. 水素イオン(陽子)の核磁気共鳴(NMR)の周波数は陽子の置かれた場所の周りの状態を反映しています。正常細胞の中とガン細胞の中では周りの様子が違うのでイメージングができるのです。
  10. 磁気カードに磁石を近づけると使えなくなるのはなぜか。磁気カードを何枚も重ねると使えなくなるか(藤本)à A. はじめの質問:磁気ヒステリシス曲線を使って自分で考えてみよう。後の質問:それぞれの磁区からでる磁界が相手のカードのHcより小さければ、消えることはありません。
  11. 他から全く影響を受けない磁性体は可能か(大和)à A. 永久磁石は、他からの影響を受けない磁性体です。しかし、これだと、情報を書き換えることが出来ないですね。
  12. 各磁性体の飽和磁化の大きさは?(渡辺)à A.鉄の飽和磁化は0.02T程度です。希土類コバルト磁石の飽和磁化は1T程度です。