H1,2コース 光物性工学 佐藤勝昭教官1997.7.1配布資料


第9回の授業の内容:

  • 間接遷移:価電子帯の頂と伝導帯の底がk空間で異なっている。光の波数Kは電子の波数kに比べ小さいので、運動量保存が成り立たず吸収端で直接遷移することができない。このためフォノンの助けを借りて遷移する。(実空間でのイメージについても解説。)
  • 直接遷移の吸収スペクトル:α(E)=A(E-Eg)1/2/E、
  • 間接遷移も吸収スペクトル:α(E)=B(E-Eg)2/E

  • 第9回の問題

    問題:Siは半導体レーザ材料にならないが、GaAsは半導体レーザ材料になるのはなぜか。
    解答:誘導放出確率は光吸収確率に等しい。シリコンのような間接遷移型半導体では吸収係数が小さいので誘導放出確率も低い。GaAsでは直接遷移なので吸収が強く、誘導放出確率も大きい。
       


    宿題:Siは間接遷移なのに太陽電池材料として使えるがなぜか。
    解答:Siの吸収は弱いが、十分厚い試料さえ使えば入射光のうちEg以上のエネルギーの光をすべて吸収して電子と正孔を作るので太陽電池として用いることができる。(資源の問題は残るが)

    質問への回答

    Q1.Siは発光デバイスには全く使われないのか(H2飯島)→A.少なくとも現在までのところシリコンの発光デバイスはありません。越田先生は陽極酸化法によるポーラス(多孔質)シリコンによって、須田先生はシリコン/ゲルマニウムの人工超格子をつくることによって、選択則を緩和して発光デバイスを作るための努力をしています。
    Q2.間接遷移における発光の場合のフォノンの関与(P勝又)→A.間接遷移では不純物準位を通して発光したり、配位座標での励起状態の曲線と基底状態の曲線の重なりを通じて非発光再結合し格子振動を励起します。
    Q3.半導体レーザが商品化されている例は(H1川口)→A.レーザ・ポインタに使っているほか、MD(ミニディスク)、CDやCDROMの光源、光通信の送信機の光源に使われています。
    Q4.ペルチエ素子について(H2落合)→A.ペルチエ効果とは pn接合を用いた熱電変換です。電流の向きに応じて熱流の向きも変わりますから、冷却にも加熱にも用いることができます。(たとえば、佐藤勝昭編著:応用物性(オーム社)p54参照)
    Q5.シリコンにおいて伝導帯の電子の進行波を波数の整数倍の長さの間隔でポテンシャルバリアを作り進行波を定在波にすれば直接遷移になるのか(H2小島)→A.Good Question! 原理的には、超格子を作ってブリルアンゾーンを分割すれば、E-k分散曲線の折り返りが起き、直接遷移になるはずです。須田先生などはシリコンとゲルマニウムの超格子でそれを行っているわけですが、実際には、ひずみ超格子になるためそれによって選択則が緩和されて、赤外ですが、よく光ります。
    Q6.青色レーザは何度まで冷却すれば発光するのか(H2清水)→A:窒化ガリウム(GaN)系では室温で1時間の寿命のものが、ZnSe系では100時間以上の寿命のCW発振LDが実現しています。パルス動作であれば、十分実用的な長寿命のものも報告されています。まだ市販されていませんが。
    Q7.間接遷移であってもSiCは発光デバイスになるが、発光効率の低さにもまさる利点があるのではないか。たとえば温度に強いとか(H2釣崎)→A.SiCはGaNが発表されるまでは青色発光ダイオードとして使える唯一の材料でした。発光機構は、不純物準位を介した発光遷移となっています。最近はSiCは発光デバイスとしてよりは、高耐熱半導体デバイス材料として研究されているようです。
    Q8.光が絡む半導体の議論ではk空間で議論するが、光が絡まない場合k空間を用いない。pn接合や金属・半導体接合でもk空間を考える必要があると思うが ( H2鳥海)→A.授業で話したように、Gunnダイオードではk空間での伝導帯の構造が重要です。高速に加速された電子が、Γ点からk空間での別の谷に励起されることが関連しています。一方、半導体の接合界面での振る舞いにおいては、フェルミ準位をそろえることによる空間電荷の形成が関与しているので、電子の波動としての性質が積極的に使われていません。従って、k空間を使わないのです。
    Q10.シリコンの間接遷移では始状態(k=k0)から終状態(k=k2)に遷移するが、k=0における終状態(k=k1)への直接遷移においてk=k1状態にとどまることはないのか (H2又吉)→A.p.166の図4.8を見ていただければわかるように、Γ15からX1への間にはポテンシャルバリアはありませんので、励起状態にとどまることなく、すぐに伝導帯の底に緩和するのです。
    Q11. Siでレーザが作れないというが、直接遷移が起きるようなエネルギーならできるのではないか。 (H2宮川)→A.Q10の解答に書いたように、直接遷移が起きてもそのk位置にとどまらないで、伝導帯の底まで落ちてきますから決して反転分布を作ることができません。
    Q12.太陽電池の効率が今後大きく上昇することはあるのか。(H1松川)→A.GaAs系で現在では30%程度ですが、40%を目指して研究が進められています。
    Q13.GaNではEg=3.4eVで青色半導体レーザに使われると聞いたが、ダイヤモンドで紫外線レーザはできないか。(H1藤村)→A.GaNのバンドギャップは紫外域にありますから、GaNそのものを使うと紫外レーザになります。日亜化学ではGa1-xInxNという混晶を作ることによって、光ディスクに最適な紫−青の領域のレーザを実現しています。ダイヤモンドは間接遷移ですからレーザを作ることはできません。
    Q14.直接遷移半導体群と間接遷移半導体群にわけたときに、両者で光学遷移以外に現象として異なる点はあるのか(H2渕上)→A.光学遷移を観測しない限り違いはありません。
    Q15.可視発光するデバイス材料として何があるか(H1和賀井)→A.赤-緑はGa1-xAlxAs、GaAs1-xPx、緑-紫ではGa1-xInxxN系、Zn1-xCdxSeが使えます。
    Q16.アモルファスシリコンは直接遷移か間接遷移か(H1冨澤)→A.アモルファスでは周期ポテンシャルがありませんから、結晶のシリコンのようなバンド構造が形成されません。従って、バンド間の間接遷移でも直接遷移でもありません。

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