H1,2コース 光物性工学 佐藤勝昭教官97.07.15配布資料
ホームページhttp://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/kougi.html(農工大のホームページからは、「各研究室のホームページ」をクリックして、電気電子コースUの佐藤勝昭研究室にアクセスして下さい。)
第11回の授業の内容:
励起子(exciton): 電子・正孔の束縛状態 p.172 p.184
- * ワニア励起子:電子と正孔がクーロン力で引き合って相対運動しながら、重心の運動をする。
水素状のエネルギー準位を作る。1電子バンドでは表せない多体効果である。このため、バンドギャップより束縛エネルギーEBだけ低いエネルギーで遷移が起きる。(半導体における励起子はすべてワニア励起子なので、断らない限り励起子といえばワニア励起子を指す)
励起子のボーア半径と束縛エネルギーの計算式を示し、GaAsとZnSeについて例示。
1. 自由励起子 Eex=Fg-EB
2. 束縛励起子 Eex=Eg-EB-ED(またはEA) ドナーまたはアクセプタに束縛された励起子
- * フレンケル励起子:電子と正孔がクーロン力で引き合って束縛状態を作っているが、どちらも原子位置に局在しており「励起」のみが結晶中を伝わる。
試験の日程:7月25日(金)12:45-14:15、20番教室
(補講期間中で申し訳ありませんが、私が7月29日から2週間海外出張するので25日にしてもらいました。)
○教科書(機能材料のための量子工学)または参考書(応用物性、応用電子物性工学)1冊持ち込み可(コピー不可)
○このほか持ち込みできるもの:A4のレポート(授業のまとめ)、電卓
質問への回答
励起子関係
- なぜバンドギャップよりも低いエネルギーで吸収があるか、答えがよく分からなかった。(H2岩倉)→A.バンドギャップの中には、1電子エネルギー状態としての電子準位はないが、電子と正孔の2体のエネルギー準位としては、バンドギャップ以下のエネルギーを持つことがあるということを示しています。
- InGaNの青色レーザにおける励起子の閉じこめとはエネルギー的な問題か、物理的問題か。室温発光するというが、温度で励起子は壊れないのか。(P勝又)→p.180にあるように、量子構造に閉じこめられた2次元電子と2次元正孔が結合すると2次元励起子となります。この束縛エネルギーは3次元励起子の4倍にもなるので、室温では壊れないのです。
- 励起子どうしが結合して存在することはあるのか。励起子の質量が0になることはあるか。(H2小島)→A.強いレーザで高密度に励起子を作ると励起子間に引力が働いて励起子分子を作ります。励起子を構成する電子も正孔も質量は正ですから換算質量も正です。
- 束縛励起子は、ホールがドナーのまわりをまわり、電子がそのホールのまわりを回るのか(H2又吉)→A.そう考えて良いでしょう。
- 自由励起子の運動量は発光に関係しているか(H2宮川)→A.運動量 (kを持つ電子と運動量-(kをもつ正孔が結合すれば、トータルの運動量は0なので、発光再結合をしても運動量は保存されます。
- 励起子の多電子準位に電子がいる図があったが、束縛されていることにならないのか。ホールと一緒に動くことは出来ないのではないか。(H2阿部)→A.授業でも言ったのですが、多体のエネルギー状態を1電子状態のバンド図に書き込むことは本来出来ないのです。しかし、一般にホールは電子よりかなり重いので、ホールを価電子帯にとめておいてその時の電子エネルギーを表示することが便宜上行われています。あの図は決して特定の位置に準位があってそこに捕まっていることを意味していません。
- 励起子によって発光にどんな影響があるか(H1岡本)→A.バンド端よりも低いエネルギーのところにスペクトル幅の狭い強い発光が出ます。もし結晶が悪くて、励起子の軌道が完成しないくらい不純物や欠陥が多いと、励起子発光は見えずに、欠陥や不純物準位の関与した発光スペクトルが見られます。励起子発光が見えるのは良い結晶です。
レーザについて
- 医療用レーザとはどのようなものか(H1松木、小野寺)→A.手術の種類によっていろんなものが使われます。レーザの利点は、細い光ファイバで狭いところを通してあまり大きな傷をつけることなく血管、内蔵に光を伝えることが出来ます。ガンの組織は体温より5−10度も加熱したら死んでしまいますから、必要なところだけを加熱して治療できます。組織によって吸収しやすい波長がありますから、それに応じてレーザを選ぶのです。また、レーザをメスとして使うときは、部分的に100度以上に加熱されるように強いパワーのレーザを使います。しかし、数ミクロンに絞れますから出血も少なく、余分なところを切ることもないので極めて安全だと言われています。
- 2種類以上のはなれた波長の光を同時に放出する素子はあるか(H2二瓶)→A.素子を組み合わせて2波長以上にしたものは光波長多重通信に使われています。
- レーザは今後いままでと違う用途に使われるか(H2南條)→A.用途がそれほど変わるとは思えませんが、面発光レーザなどの登場により、超高密度光記録が可能になったり、大出力のレーザが安価になれば、光ファイバ通信が家庭に入る日もそう遠くないと思います。
- 発散(散乱?)したレーザを体に浴びていると害があるか。(H1和賀井)→A.目に入ると危険ですが、それ以外なら大丈夫でしょう。危険なのは紫外線や赤外線のレーザで、見えませんが目にはいると網膜を焼きますから、くれぐれも用心をして下さい。
- 光ファイバ通信で途中で情報を取り出すのにUV光を当てると聞いたがどうやるのか。(H2渕上)→A.私は聞いたことがありません。
その他
- ラマン散乱とは(H1加納)→A.レーザ光を物質に当てその散乱光を分光すると、もとのレーザ光のほかに少しエネルギーの低い(波長の長い)光や、エネルギーの高い光が出ていることが分かります。ルミネセンスと違う点は励起波長を変えても、励起光とのエネルギー差が等しいところにでることです。このエネルギー差は主として物質中の格子振動(フォノン)によるものです。これを用いて未知の物質を同定したりすることができます。
- 太陽の光エネルギーは大気圏で減衰するのか(H2新山)→A.大気に含まれる窒素、酸素、炭酸ガス、その他のものが太陽光を吸収して地上に届くとすっかり弱くなっています。太陽電池の特性を測る光源にAM1.0とかAM1.5とかがありますが、これはair massのことです。宇宙ではAM0の分光スペクトルを用います。
- 実空間での間接遷移の考え方がどうしても理解できない。(H2三沢)→A.教科書のp171を読んでみても分かりませんか。それなら、教官室に来て下さい。
- VX族以外にLEDとして特筆すべき半導体はないのか(H2木野村)→A.UY族のZnCdSe系のものが最近開発されました。また、古くから赤外線半導体レーザ用としてHgCdTeが使われています。
- 太陽電池とフォトダイオードではどこが違うのか(岸本)→A.太陽電池はエネルギーを取り出しますから、面積を大きく取る必要がありますが、センサとしてのフォトダイオードでは面積は小さい方が、キャパシタンスが小さいので都合がよいのです。フォトダイオード特に通信や記録用のものは高速に高感度にということが要求されます。これに対して太陽電池では高速性は要求されませんし、微弱光に対する感度も必要ありません。
- 発光ダイオードの消費電力(H2寺山)→A.ウオークマンなどのパイロットランプとして使っているものは普通のCMOSのロジックICで直接駆動できるくらいですから、2V, 2mA(数MW)です。一方、電光掲示板などに使うのは100mWクラスのものが使われます。
- ホームページの96末の光物性の問題解答でブラウン管がエレクトロルミネセンスになっていたが間違いではないか。(H1石谷)→A.すみません。ホームページを作るときに間違って書きました。早速訂正しておきました。
- 色によって耐熱性は変化するか(H1柳川)→A.一般にバンドギャップの大きいものほど耐熱性は良いようです。従って、青色のものはかなり高温まで動作すると思います。
このほか、電気工学で将来伸びる分野、半導体の将来についての質問がありましたが、それぞれ、専門誌を読んで下さい。あまり、私見を述べると学生さんの柔軟な頭をミスリードする可能性がありますので、言わないでおきましょう。
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