光物性工学(H1,2コース),物性物理学(Pコース),佐藤勝昭教官1998.5.12配布資料
第2回(98.4.28)の授業の要点
第2回の問題回答
問題1:比誘電率εr=10+15
iのとき屈折率nと消光係数κを求めよ。解答:
より、
、
これを逆に解いて
、
質問への回答
講義内容に関係する質問
Q.もう少し丁寧に教えて欲しい、最後の問題で数値を当てはめるだけでは寂しすぎる(H2山崎)。授業の進みが早すぎる。(H2大角、安喰、P阿須間)複雑すぎて理解できなかった(H2細谷周)→A.微分方程式を解いたりするのは、自分でやってみないと絶対に実感がわきません。やり方を教えたのですから、一度自分で復習してみて下さい。あれ以上丁寧にはやりようがありません。 (なおH2広岡さんからは、「今日は分かりやすくて良かった。この調子でお願いします」というコメントを頂いています。)
Q.過程はともかく結果の式だけ自由に扱えるようになればよいか(H1中野)→A.電気電子工学にせよ、物理工学にせよいろんな式が出てきますが、一度だけは自分で導いておいて下さい。あとは、いちいち元に戻っていると仕事になりませんから、結果の式が使えるようになっておいたほうがよいのです。
Q.今日計算して出した式の意味が分からない(H1登守)→A.比誘電率εrをもった媒質における電磁波の固有状態と固有値(すなわちn, κ)を求めるために、マクスウェル方程式から出発して電磁界の固有方程式を解いたのです。
Q.複素誘電率と電力の関係の式が分からなかった。(H1平野)→A.複素誘電率を持った媒体に電磁波が入ったときの電力を原理に基づいて計算したのです。単位体積あたりの電力密度WはE*J で表されます。*は複素共役を表します。Jは電流密度です。Jは伝導電流と変位電流からなりますが、もし直流的に絶縁物ならば変位電流のみで表されます。したがって、J=∂D/∂t=-iωD=-iωεoεrEとかけます。従ってW=-iωε0(εr’+iεr”)E*E=-iωε0εr’|E|2+ωε0εr” |E|2となります。第1項は純虚数、第2項は実数です。比誘電率が実数部のみならば無効電力のみですが、虚数部があると有効電力が生じ電力を消費します。
Q.誘電率の虚数部の存在が分からない(H2細谷)→A.誘電率の実数部と虚数部は、クラマースクローニヒの関係式で結びつけられていて、両者には教科書のp.154の4.37式のような関係式が成立します。誘電率は、電界に対する電束の応答を表す関数ですが、「応答」というのは、外力が加わってから後でしか起きないと言う「因果律」があるために、実数部と虚数部の間に因果関係が成立するのです。
Q.波数kの物理的意味を知りたい(チャン)→A.進行する波動はsin(ωt-kx)と書くことが出来ます。ここにtは時間、xは位置です。ωは2πfです。ここにfは周波数、すなわち、単位時間当たりの波の繰り返し数だということは良く知っていますね。 同様に空間におけるkは単位長さ当たりの波の数(空間周波数)に2πをかけたものです。
Q.複素屈折率がよく分からない(H2田中秀)→A.屈折と吸収は、分極の電界に対する応答の位相が90゜異なります。屈折を実数部であらわせば、吸収は虚数部なのです。吸収を屈折率nと同じ無次元の形にしたのが消光係数κです。両者の光の電界に対する時間応答は1/4周期ずれますから、両者を一度に扱うにはn+iκのようにκに虚数単位をかけておけばよいのです。なぜならi= exp(iπ/2)だからです。
Q.屈折率の低い方から高い方に光が入射したとき反射光の位相が90゜ずれるのはなぜか(H2松田)→A.吸収がない限り位相ずれることはありません。垂直入射時における反射の移相量は教科書のp153, 4.33式にあります。
Q.等方性・異方性というのが分からない(P古谷)→A.物質と光の相対的な方位によって屈折率や吸光度が異なるとき光学異方性があるといいます。方解石を通して見ると文字が2重に見えますね。あれは、偏光の方向によって屈折率が異なるからなのです。これに対してガラスのようにどの方向に対してもまったく同じ性質をもつとき等方性といいます。
Q.等方性ならx方向に進む波のExは考えなくて良くて、異方性なら考える必要があるのか(P渡邊)→A.そうです。等方性なら光の電界と磁界は進行方向に垂直です。進行方向の成分はありません。ところが、方解石のような異方性の物質中では、常光線と異常光線が存在し、異常光線については光の進行方向とエネルギーの進行方向(ポインチングベクトル)が一致しません。このことは光の進行方向の電界・磁界成分があるということを意味します。
学習の仕方に関する質問
Q.光エレクトロニクスの分野をやるためにはこの先どんな学問が必要か(H1天野)→ A.一言で光エレクトロニクスといっても、いろんな分野を含んでいます。光通信、光記録、情報表示、光制御、光コンピューティング、光集積、光電子集積、受光素子、発光素子、画像伝送、画像処理、画像認識、視覚情報処理などです。それに応じて基礎になる学問も異なります。前の方の話はどちらかというとハード的ですが、後ろの方の話はソフト的です。
Q.単位取得の基準(H1濱部)→A.授業にさえ出ていれば必ず点が取れる優しいテスト(教科書持ち込み可)+A4のカンニングペーパー1枚+出席点です。単位をとるのは簡単です。しかし、本当の勉強は自分でしなくては何にもなりません。カンニングペーパを作るときに、教科書やノートを読み返し、自分でまとめてくれれば、それでよいのです。
Q.教室を何とかして下さい(H2岡野)→A.P、H1,H2の3コースの合併授業なので、全員が来ると180人くらいになり、講義棟の20番しかありません。あそこでやると教官と学生の距離がありすぎて授業がやりにくいのです。この科目は選択ですから取らなければならないことはありませんので、5月の半ばから人数が減ると思います。
光デバイスに関する質問
Q.光センサーの仕組みを知りたい(H2田村)→A.6月末ごろに話す予定です。
Q.CD-RWの原理(H1原)→A.CD-RのRはrecordable(追記型), CD-RWのRWはrewritable(書き換え可能) の略です。CD-Rはレーザ光を吸収して構造変化し脱色する色素を用いています。CD-RWでは、アモルファス(非晶質)と多結晶の相変化を利用します。アモルファスにレーザを当てて結晶化すると反射率が低下します。結晶状態を融点以上にレーザ加熱して急冷するとアモルファス状態になり反射率が増加します。
Q.太陽電池の出力が温度上昇と共に出力低下する理由(H1川場)→A.太陽電池は一種のダイオードです。温度が上昇すると逆方向電流が増えます。これは内部で電池に並列抵抗がつながっているのと同じこととなり、開放電圧VOCを低下させます。
固体物理学一般
Q.立方格子の点群がm3mで、六方格子の点群が6/mmmという記号の付け方がわからない(H1 C君)→A.質問の点群の記法はHermann-Mauguinの記法と言います。まず、最初に書くのは結晶の主軸を表します。六方晶ではc軸がこれにあたり、6回の回転軸なので6と書きます。立方晶では2回の回転反転軸を持ちますがこれは鏡映mと同じなので最初の文字はmです。もし、結晶の主軸に垂直な鏡映面があるときは主軸の記号の後に/mという記号をつけます。(六方晶の6/m).次に、副軸があればこれを書きます。(例えば立方晶の体対角にそっての3回軸)あるいは主軸に平行な鏡映面があればこれを書きます。(例えば六方晶の主軸を含むm).さらに第3の軸またはそれに相当する対称面があればこれを書きます。(六方晶のなど)それで、六方晶では6/mmm、立方晶ではm3mとなるのです。(W.L. Bragg: The Crystalline State vol.1, G. Bell & Sons Ltd. 1949)
Q・GeSiについて(H2栗原)→A.SiとGeは同じ結晶構造を持ちどちらも間接遷移型の半導体ですが、Siの方がGeよりバンドギャップが大きいが移動度は小さいという特徴があります。両元素の合金を作ったり、人工超格子を作ったりすると、もとの性質とは異なった性質をもつっようになります。例えば、直接型の遷移となって強い発光を示すなどということがおきます。詳しくは、この材料を研究している須田先生に聞いて下さい。
光一般
Q.フロントガラスから入ってくる光が何もないときより眩しく感じるのはなぜか(H2友広)→A.ガラスによる散乱があるため、直接の光だけでなく散乱された光も目にはいるからでしょう。
Q.どうして光ファイバの材料にガラスを用いるのか。他の材料はだめか(H2チュア)→伝送損失が最も小さいのは石英ガラスですが、プラスチックでもかなりの距離を低損失で伝送できます。イントラネット用に開発された光LANではプラスチックファイバが使われます。
Q.光の屈折や反射を使っているデバイスは(H2岡)→A.光ファイバー、半導体レーザ、反射型液晶ディスプレーなどいろいろあります。
Q.ガラスは紫外線を通さないと言うのは本当か(P伊藤)→A.ガラスによります。通常のソーダガラスや鉛ガラスは通しませんが、石英ガラスは紫外線を通します。
Q.ものに火を付けるとどうして光(電磁波)がでるのか(P河村)→A.プランクの黒体放射の原理を知っていますね。物質から熱エネルギーが電磁波として放出される現象です。 量子力学の基本となった現象です。温度の高い星は青く、温度の低い星は赤いというのも同じです。
Q.エバネセント波とは何か(P奥山、井上、永名)→A.全反射の系の境界の外には、距離と共に急速に減衰する伝搬しない波が存在します。これをエバネセント波と呼びます。光ファイバーの先を細くして光の波長の1/10というような狭い開口を作ると、そこからは伝搬光は出射しないが、エバネセント波は存在します。ここに散乱体をおくと、再び伝搬光となります。この現象を使って波長以下の小さな物体を観測することができます。これを近接場顕微鏡と呼びます。 佐藤研では近接場磁気光学顕微鏡を開発しています。
Q.物質中で光が減衰するのは波動性で理解できるが、粒子性ではどう考えればよいのか(P田口)→A.量子的に考えると光の強度が強いのはフォトンの数が多いことを意味します。物質中で光の粒子が消滅して、電子系の励起状態が生成します。物質中を通過するとき、粒子の数がどんどん減っていくのです。
電磁波・通信工学
Q.TVのアンテナはなぜ何本もの棒が串刺しになった形をしているのか(P中谷)→A.これは、八木アンテナといって日本人の発明です。半波長ダイポールアンテナといって、長さは波長の半分になっています。そこに定在波がたち、中心部の電界が最大になりますから1本の棒を半分に分けて真ん中をフィーダー線に繋ぎます。このアンテナの前にある棒が導波器、後ろにあるのが反射器です。電界が弱いときは、導波器、反射器を多数置きます。