光物性工学(H1,2コース),物性物理学(Pコース),佐藤勝昭教官1998.7. 21配布資料

Home Page http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/hikari98.html

 

9(98.7.14)の授業の要点

半導体の光学遷移(教科書p.166-171

  1. シリコンはなぜ金属光沢をしているか。

  1. シリコンの吸収端付近の遷移は間接遷移であるが、紫外部(3eV-5eV)の光学遷移は直接遷移であり、非常に強い。
  2. 紫外部の強い遷移の影響で屈折率nが大きいため、反射率が高い(30-50%)、赤・緑・青の光を同程度反射するので灰色。

  1. 広いエネルギー範囲の反射スペクトルから屈折率nと消光係数κが求められる。→このため放射光を使う。
  2. シンクロトロン放射光:高真空のリングを電子を回転させる。ベンディングマグネットで電子の方向を曲げるとき光が放出される。放出される光のエネルギーは赤外から可視、紫外、極紫外からX線に至る広い範囲におよぶ。筑波のフォトンファクトリー、岡崎の分子科学研究所のUVSOR、姫路のSP-ring8等がある。

  3. 励起子

  1. 電子と正孔がクーロン力で結びついた束縛状態。吸収端よりも低いエネルギーで吸収や発光が起きる。
  2. 励起子が観測されることは結晶の良さの評価基準になる。

  1. 局在状態の光学遷移 

1) 固体中の遷移金属イオンの光スペクトル:多電子系のエネルギー準位に関係:解析には点群の知識が必要。

2) 例:ルビー(Al2O3:Cr)、ブルーサファイア(AlO3:Ti)、グリーンサファイア(Al2O3:Fe)

3) ルビーレーザ、チタンサファイアレーザなどに利用されている。真性エレクトロルミネセンスはZnS:Mnを用いる。

第9回の問題回答

問題 電子の有効質量m*e=0.01m0、正孔の有効質量m*h=0.5m0、比誘電率εr=10であるとき、励起子の束縛エネルギーを計算せよ。

→解答 μ*=0.005m0/0.51=0.0098m0, EB=EH1×(μ*/m0)/εr2=13.6eV×0.0098/100=0.00133eV=1.33meV

aB=0.05×εr(m0/μ*)=0.05×10/0.0098=51.0nm

質問への回答

Q.p.1674.11にあるL,Λ,Γの記号は何ですか(H2渡邊整)→A.p.9の図4.9(a) に示されるSiのブリルアンゾーンの特異点の記号です。p.166の脚注参照。

Q.Siは紫外域で強い吸収をもつとのことだが、消光係数も大きいのか(H2渡邊整)→A.YES

Q.シンクロトロンの径の差はどのように性能に関係するか。また、あの丸い軌道中を何周も回るのか(H2米光)→A.径の大きい小さいは本質ではありません。大きいほどたくさんのビームラインをとることができます。電子は高真空のリングを何周も回転します。一度電子を打ち込むと、2-5時間もの間 周り続けるのです。

Q.励起子吸収の山がバンドギャップより低エネルギーで起きることが分からなかった。(H2田中)→A.励起子は多体の電子状態なので、バンドダイアグラムのような「1電子の状態」では記述できないのです。 励起子の基底状態(n=1)は電子と正孔が束縛された最も低いエネルギーです。束縛が弱くなると、励起子の軌道が大きくなって電子と正孔が互いに束縛が解けついに自由になります。この時がEB=0ですから、この状態を造るためのエネルギーはバンドギャップに等しいのです。従って励起子を作るエネルギーはこの状態よりEBだけエネルギーが低いのです。

Q.なぜ吸収が強すぎると反射してしまうのか(H2明石)→A.吸収が強いというのは、導電率が大きい(=抵抗が低い)というのと同じです。光の通り道に非常に強い吸収体があるということは、分布定数回路で終端を短絡したような状態です。このとき電源から負荷に電力は伝わらず反射が起きることは、電気電子系の方には常識だと思います。

Q.GaAsのGunn効果とは何か (H2チャンクワンカイン)→A.特定のエネルギー帯構造をもつ半導体における高電界効果を利用した高周波デバイスです。GaAsでは、伝導帯のΓ点k=(0,0,0) の谷より、L点k=(31/2π/2a)(1,1,1)の谷のほうが僅かに高いが、電子を電界で加速したとき、Γ点の谷の電子がL点の谷に移るものが現れてきます。L点の谷においてはΓ点の谷より有効質量が大きいので、電界が増加し、L点に移る電子の割合が増えるほど電子全体の平均速度が減少します。このため、負性抵抗が生じます。(佐藤勝昭編著「応用物性」オーム社19912.2節p.79参照。)

Q.局在遷移とバンド間遷移の違いについて(H1小田島)→A.バンド間遷移に関与する電子は結晶全体に広がった電子波です。一方、局在遷移に関与する電子は、原子の位置のすぐそばに束縛されているような電子です。

Q.希土類とは何か(H1小田島)→A. 原子の周期表において、La57とHf72の間にある一連の原子群Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luを希土類といいます。この系列の原子は4fnの不完全殻をもちます。希土類は、蛍光体の発光中心、光磁気ディスクの媒体材料(TbFeCo, GdFeCoなど)、強力永久磁石(NdFeB, SmCo)などに使われています。

Q.励起子ではなぜ正孔の辺りに電子が存在するか。この現象は何かに応用できるのか(H1中野)→A.正電荷と負電荷の間に働くクーロン力が励起子をもたらします。ドナーに捕らえられた電子に正孔が束縛されたり、アクセプタに捕らえられた正孔に電子が束縛された励起子もあります。このような励起子を「束縛励起子bound exciton」といいます。VX族半導体の量子井戸に捕らえられた2次元励起子は強い非線形性を持つので新しい機能を持つ光デバイスができるのではないかと考えられています。

Q.シンクロトロン放射が一種のチェレンコフ放射だといったが、間違いではないか。(P山本)→A.ご指摘の通り、シンクロトロン放射は相対論的高速電子が磁界によって回転運動をするときに電磁波を放射する現象で、チェレンコフ放射は物質中の光速度より早い荷電粒子が物質に入射したときに生じる電磁波なので異なります。

 

このほかビデオのコピーガードの仕組みに関する質問がありましたが、分かりません