1300. 石英ガラスの耐薬品性
Date: Thu, 29 Aug 2013 07:29:50 +0900Q1: 東京農工大学 佐藤先生
小生O社の技術部Tと申します。
webに掲載される際は匿名にてお願い致します。
弊社は石英ガラスを扱っておりますが、質問は
洗浄工程で用いますNaOH、HCl、HFに対するガラスの耐薬品性についてです。
それぞれの溶液に対する溶解度を調査したわけではありませんが、 大きく分けてVADによる合成石英(低OH)、CVDによる合成石英(高OH)で 耐性に差があるような気がするのです。
そこで先生がもしこの点に関して知見をお持ちでしたら御教授賜りたくメールさせて頂きました。
面識もなく、大変不躾であることは承知しておりますが、何卒宜しくお願い申し上げます。
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Date: Thu, 29 Aug 2013 12:07:38 +0900
A1: T様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。私は石英ガラスについては専門外なのですが、取り急ぎご回答申し上げます。
大興製作所のホームページを見たところ
添付のような高純度透明石英ガラスの分析表があり、CVD製品はVAD製品に比べ、OH濃度だけでなくAl, Caなどの金属不純物濃 度も高いようです。VADとCVDの耐薬品性の違いは、この金属不純物によるのではないかと考えますが、T様のお考えはどうでしょうか?
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Date: Thu, 29 Aug 2013 12:56:33 +0900
Q2: 東京農工大学 佐藤先生
早々の御回答有り難うございます。小生の言葉が少し足りませんでした。
もう少し詳しく申し上げますと、最近ではCVD材でも使用目的により非常に高純度になってきておりまして、 合成材とほとんど純度に置いては差のない物も御座います。
また、NaOHではOH含有量が多い方がHClではOH含有量が少ない方が溶解度が小さいような気がするのです。
石英ガラスに限らず、そのOH含有量と薬品の持っているOH基、H基とは何らかの関わりは有るのでしょうか。
一般的な知見でも結構です。何かお持ちでしたら御教授願えないでしょうか。
宜しくお願い致します。
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Date: Thu, 29 Aug 2013 13:27:03 +0900
A2: T様、佐藤勝昭です。
石英ガラスのOH基は表面に付く場合と内部に入る場合があります。
(1)表面に付く場合はSi-OH、Si-OH-OH2などの形で表面を覆うので、NaOHに対する耐 性が増加し溶解度が下がります。一方、HClは表面のOH基と反応してH2Oが生じ、剥き出 しになったSi表面をClイオンがアタックします。
(2)内部に入る場合:石英ガラスのネットワーク構造は6員環Si-O基が基本ですが、 欠陥構造として3員環、4員環が生じていることがあります。OH基はこれらの欠陥構造 を減少させる傾向にあるとされています。HClの場合、HClを構成するH+がOH-と結合し て、欠陥構造が増加しているかも知れないですね。
粟津浩一:Water in silica glass; NEW GLASS Vol.21 No.3 p.6 (2006)を参考にしま した。
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Date : Thu, 29 Aug 2013 16:58:47 +0900
AA: 東京農工大学 佐藤先生
参考になりました。有難うございました。
又、何かあればメールさせていただきます。
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1301. ITOのエッチャント
Date : Fri, 13 Sep 2013 14:56:30 +0900Q: 大阪大学工学部4年 井口認です。現在、透明電極の作成・評価を行っております。
状況:MOCVD法で成長させたp-GaNの上にEB蒸着で電極材ITOを2nm、Agを200nm蒸着させています。
フォトリソグラフィーがうまく行かず、アセトンで電極を剥がす際に落ちてほしくない場所まで落ちてしまい失敗しました。
ここからp-GaNを節約するために、フォトリソグラフィーからやり直そうと考えています。
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質問:そこで質問なのですが、ITO電極をGaN基盤からきれいに除去する方法はありますでしょうか?
35%塩酸で12時間以上、王水(35%塩酸と70%硝酸)で12時間以上それぞれ浸け置きしましたがどうしてもITOが残ってしまいます。
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Date : Sat, 14 Sep 2013 07:45:20 +0900
A1: 井口君、佐藤勝昭です。
4年生でがんばっていますね。卒研ですね。指導教員に聞かれたのですか。
ITOのエッチャントについては、多くの研究があります。
あなたのやっている塩酸+王水は2004年頃から行われています。
C.J. Huang et al.:The effect of solvent on the etching of ITO electrode; Mat.Chem.Phys.84146-150(2004)
しかし、古くからフッ酸が使われていたようです。
Shabbir A Bashar:Study of Indium Tin Oxide (ITO) for Novel Optoelectronic Devices; Ph.D. thesis University of London
Wet Chemical Etching of Metals and Semiconductors(Brigham Young University) のITOの項
やってみてはいかがですか。HFは怖いので、指導教員や先輩と相談して、十分注意してくださいね。
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Date : Sat, 14 Sep 2013 16:46:22 +0900
A2: 井口君、佐藤勝昭です。
Facebookで質問しましたら、岩谷 素顕さんという方から
「ITOは通常は硝酸系に塩酸等を入れてエッチングしますが、条件によっては残ると思います。硝酸に硫酸アンモニウムとかを入れると残渣はほとんどないものが作れますが、面倒な場合は最近はITO専用のITOエッチャントというのが市販されているのでそちらを使われると安全かと思います。」
との回答をいただきましたので紹介しておきます。
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Date : Sat, 14 Sep 2013 17:41:56 +0900
AA: こんばんわ。先日ITOについてお尋ねした井口です。フッ酸を使うか非常に悩んでおりました。
硫酸アンモニウムは当研究室に無いかもしれません(フッ酸はありますが...)ので、エッチャント液もしくは、硫酸アンモニウムを買ってもらえるよう担当教員にお願いします。
解答ありがとうございました。
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Date : Sat, 14 Sep 2013 20:24:13 +0900
A3: 井口様、佐藤勝昭です。
岩谷さんから追加の情報です。
「硫酸アンモニウムがなければ、ITO用のエッチャント液を買われると良いと思います。確か多結晶用とアモルファス用があったと思います。詳しくは薬品メーカの人と相談すると希望する物が買えると思いますと質問者に回答いただくと良いかと思います。」
とのコメントがFacebookに書き込まれました。参考にしてください。
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1302. GaAsの光学定数
Date : Wed, 25 Sep 2013 05:00:09 +0900Q1: 科学技術振興機構 佐藤勝昭 先生
長らくご無沙汰致し,失礼致してております.
少し前にGaAs などの屈折率の貴重なデータを先生から頂ました電気通信大学の冨田でございます.
現在,GaAs基板表面に周期構造を形成した場合の太陽光の電力透過係数について数値解析を行っています.
そこで,先生にご教示して頂きたい点があり,失礼をも顧りみずお尋ねする次第です.
先生から頂ました,GaAsの入射光の波長にたいする屈折率のデータでは,いわゆる,テンソルでは無く,1つの波長に対して,スカラ量として,1つの屈折率の実数部と虚数部の値が列挙されています.インターネットでも調べましたが,やはり,同様に表示されていました.太陽電池を構成するGaAs基板を単なる等方的分散性を有するⅢーⅤ族化合物半導体として波動光学的にスカラ解析しても差し支えない,と言うこでしょうか.
それとも,太陽光セルはGaAs結晶基板で構成されているが,その結晶構造が,閃亜鉛鉱型の構造をしているので,近似的に等方的分散性媒質と考え,GaAs結晶基板がx,y,z 方向の屈折率が等しい分散性媒質であるとして,スカラ解析しても差し支え無い,と言うことでしょうか.色々と調べましたが判然と致しません.
ご多忙中,誠に恐縮ですが上記のことについてご教示下さいます様お願い申し上げます.
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Date : Wed, 25 Sep 2013 09:43:57 +0900
A1: 富田先生、佐藤勝昭です。GaAsはじめⅢ-Ⅴ族化合物は、基本的に閃亜鉛鉱構造なので等方的と考えてよいと考えられています。しかし、エピタキシャル成長した薄膜では、臨界膜厚以下の厚さではコヒーレント成長するため面内と面直で格子定数が異なる「一軸異方性」が誘起されます。この結果光学異方性が現れますが、この値は格子不整合と熱膨張差の関数なので、成長条件次第です。数値計算では等方性からのずれをパラメータとしてフィットするしかないでしょうね。
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Date : Wed, 25 Sep 2013 15:06:57 +0900
Q2: 佐藤勝昭 先生:
ご多忙中,早速ご回答を頂き,誠にありがとうございました.
今回の私共の数値計算では,半無限の真空領域と同じく半無限のGaAs媒質が接していると言う仮定の下で,GaAs表面に周期的な溝構造を形成し,真空中から太陽光が入射する場合の電力透過量を数値解析致しました.その際,先生から頂いたデータやインターネットで検索したデータを用いました.
インターネットで検索したデーターもテンソル量では無く,単にスカラ値としての屈折率値が示されていました.従って,不勉強で大変恥ずかしいのですが,一般に用いれているソーラーセルではGaAsの結晶では無く,化合物半導体としてのGaAsを使用しいると言うことでしょうか.
今回の様な数値計算をする場合は,エピタキシャル成長させたGaAsの薄膜を解析の対象としていませんので,先生のご回答の如く等方性媒質としての屈折率(分散性の複素屈折率)を用いて数値計算しても良いと言うことでしょうか.
ご多忙中,大変恐縮で申し訳ございませんが,再度,ご教示下さいます様お願い致します.
尚,解析の結果,GaAs 表面に周期構造を形成すれば,太陽光の全波長帯域に亘って太陽光の電力透過量がかなり,増加することが判明致しました.
以上,宜しくお願い致します.
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Date : Wed, 25 Sep 2013 15:39:18 +0900
A2: 冨田先生、佐藤勝昭です。
「一般に用いれているソーラーセルではGaAsの結晶では無く,化合物半導体としてのGaAsを使用しいると言うことでしょうか」の意味が不明です。
GaAsはGaとAsの化合物なのでソーラーセルに限らずHEMTに使われるGaAsも化合物半導体と呼ばれます。
またGaAsは非晶質は使われることはなくすべて(エピタキシャル薄膜も含め)単結晶が使われます。
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Date : Thu, 26 Sep 2013 04:40:33 +0900
Q3: 佐藤勝昭 先生:
ご多忙中,度々お手数をお掛け致しまして申し訳ございません.様々にご教示頂き誠にありがとうございました.不勉強で恥ずかしい限りです.私は電磁波の散乱問題の解析および解析法の開発を専門として,これ迄研究してまいりました.従って,結晶については全く門外漢です.
しかし,この度,太陽電池の発電効率を物性的に上げるのではなく,素子表面における太陽光の透過効率を上げるため素子表面に波長オーダーの周期構造を形成した場合の透過効率の増加を期待して,波動光学的に数値解析してみました.その解析では,GaAsを等法的な分散性媒質として回折問題を解き,論文を作成致しましたが,GaAsが結晶ならば,異方性を考慮しなっくても良いのだろうかと,かねてより考えていました.そこで,先生にお尋ねした次第です.
先生のご回答では,臨界膜厚以下でエピタキシャル成長させたGaAs結晶では,一軸異方性を有する結晶であるとのことでした.今回,解析したモデルでは,GaAs媒質(結晶)の膜厚は大変厚い(半無限)と仮定し,ただ,その表面に周期構造を形成した 場合の太陽光(平面電磁波と仮定)の透過,反射現象を解析しています.従って,この解析においては,厳密ではないかもしれませんが,近似的に等方的な媒質として解析しても差し支えないと推察されますが,間違っているでしょうか.
最後にお尋ねしたい点は,インターネットなどでSiやGaAsの屈折率を調べますと,Siの場合は波長によっては,屈折率が2つ与えられていすますが,GaAsについては,1つの波長に対して1つの屈折率しか表示されていません.やはり,一般的には,GaAsは,等方性媒質として取り扱われているのでしょうか.
以上,大変長々と文章書き申し訳ございません.今後共ご指導下さいます様お願い致します.
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Date : Thu, 26 Sep 2013 07:22:16 +0900
A3: 冨田先生、佐藤勝昭です。
太陽電池の表面に微細構造をつけて効率を高くする技術は、1970年代から研究されております。現在の多くの太陽電池は反射防止膜と共に微細構造(テキスチャー)を使っています。
そのような現実のことをお調べになってから論文にされるとよいと思います。私の「太陽電池のキホン」などをお読みください。
ps.シリコンもGaAsも立方晶なので等方性です。データに2つあるのは、測定によってばらつくからです。
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Date : Fri, 27 Sep 2013 00:42:58 +0900
AA: 佐藤勝昭 先生:
この度は,大変お世話になり,誠にありがとうございました.私はこれまで誘電体格子による解析問題を解析してきましたので.太陽電池素子表面に周期構造を付け太陽光の透過電力について実験的に調査して,特許などとして多数報告されていると認識しています.
しかし,私の不勉強かもしれませんが,電磁波の散乱問題として理論的に解析し,定量的に透過量について議論した論文は,まだ,報告されていないと思います. 太陽光電池の発電効率を上げるためには,物性的な改良も当然必要ですが,広い帯域を有する太陽光電力をまず,全帯域に亘って,可能な限り透過させることが必要であると考え,解析した次第です.周期構造の溝の深さを増し,周期構造を工夫すれんば,太陽光の全帯域に亘る入射電力の70%以上の電力を透過させることが可能であると考えられます.
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1303. 電磁波による非破壊検査
Date : Mon, 7 Oct 2013 09:08:47 +0900Q: 佐藤勝昭 様
お世話になっております。
S*大学大学院のY*と申します。
佐藤様のHPを拝見し、質問させていただきたいと存じます。
以前にも何度か質問させていただき、丁寧なご回答を頂戴いたしました。
その節は誠にありがとうございました。
今回も勝手ながら無知な質問をさせていただくことをお許しください。
今回は電磁波の非破壊検査についてお聞きしたいです。
また今回も匿名でお願いいたします。
質問は2点です。
①なぜ電磁波の非破壊検査ではエックス線以上の周波数以外は使用しないのでしょうか。
エックス線の特性を考えるとエックス線を使用する意味はわかるのですが、
例えば可視光やもっと低い周波数を使用することはできないのでしょうか。
②電磁波の非破壊検査には弱点はないのでしょうか。
私が知る範囲では、一部の材料においては、表面の微細な欠陥は認識できない場合があることはわかりました。
他には欠点はありませんでしょうか。
また佐藤様が今後の電磁波の非破壊検査に期待することがあれば教えてください。
以上になります。
長文になってしまい申し訳ございません。
お忙しいとは存じますが、何卒ご回答のほどよろしくお願い申し上げます
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Date : Mon, 7 Oct 2013 23:49:43 +0900
A: Y君、佐藤勝昭(仙台出張中)です。
①なぜ電磁波の非破壊検査ではエックス線以上の周波数以外は使用しないのでしょうか
対象物によって、いろいろな周波数が使い分けられます。
遺跡の調査や資源の探査にVHF帯からSHF帯の電波が使われています。例えば 地下遺構の可視化(亀井宏行) によれば、波長が短い程分解能が上がることがわかります。
半導体の中の不純物を非破壊で同定する手段として、電子スピン共鳴がありますが、こ れにはマイクロ波が使われます。また、赤外吸収分光やラマン散乱分光、蛍光分光など 光による欠陥等の非破壊評価が行われています。
脳や心臓など体の中を観るMRI(磁気共鳴画像診断装置)はVHF帯の電波が使われます。 最近、空港での荷物の非破壊検査にテラヘルツの電波が使われます。プラスチック爆弾 や有機溶媒など危険な物質を同定することができるからです。
半導体結晶の非破壊検査には赤外~可視のレーザ光を用いた「光散乱トモグラフィー」 が使われます。
お札が偽札かどうかを判定するために、磁気インクで書かれた数字や画像からの磁束を 磁気光学結晶に転写して、磁気光学効果で非破壊に検査することも行われています。 極紫外線による光電子分光も物質の同定のためによく使われています。
このように、君の調べ方が不十分なだけで、あらゆる波長帯の電磁波が用いられています。
②電磁波の非破壊検査には弱点はないのでしょうか。
分解能は、電磁波の波長の程度しかありません。ただし、近接場を用いたり、超解像 技術を用いると波長の数分の一の小さなものを 観測できます。調べたい欠陥の大きさ に合わせて、電磁波の波長を選ぶ必要があります。
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Date : Tue, 8 Oct 2013 20:11:36 +0900
AA: 佐藤様、先日質問させていただいたS大学のYです。
出張中にも関わらず、早速ご回答していただき本当にありがとうございました。
また、私の調べが不十分なためにくだらない質問をしてしまいましたこと大変申し訳ございませんでした。
今後はこのようなことがないようきちんと自分で調査してから次の行動を起こすように致します。
しかし貴重なご意見をいただいたことまたご丁寧な回答をいただき、誠にありがとうございました。
今後の研究活動に必ず活かしたいと存じます。
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1304. UV-LEDの光軸の見つけ方
Date : Sun, 13 Oct 2013 00:23:43 +0900Q: 東京農工大学、佐藤先生
初めまして、V社の七瀬と申します。
UV-LED(NSSU100C)について質問させてください。
日亜化学製のUV-LED(NSSU100C)から発光するUV光には光軸という概念が存在するのでしょうか?
この光軸の向きを調べたいのですが、どのような方法が考えられますでしょうか?
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Date : Sun, 13 Oct 2013 01:57:49 +0900
A: 七瀬様、佐藤勝昭です。
LEDがGaNのc面を使っている場合は、偏光特性は殆ど無いと思います。
日亜の製品ではありませんが、豊田合成の青色LEDでm面のGaNを使ったものにおいて、 添付図のような偏光特性が報告されております。 (豊田合成の発表による。)
m-面だけでなくa-面を使ったLEDも偏光性があると考えられます。LEDからの光を偏光子(紫外線領域で使えるもの)を通して光検出器に照射し、偏光子を回転させたときに最大の強度を与える偏光子の方位が光軸と考えてよいでしょう。
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Date : Sun, 13 Oct 2013 21:42:35 +0900
A':七瀬様、佐藤勝昭です。 Facebookであなたの質問と私の回答を公開しましたところ、名城大学准教授の岩谷素顕先生から
「日亜のLEDは基本的にはc面成長なので偏光特性はないと思います。もっと言うと、市販されているLEDでc面以外のものは日本では手に入らないと思います。」
というコメントをもらいました、参考にして下さい。
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Date : Mon, 14 Oct 2013 00:20:14 +0900
Q2:佐藤先生、ありがとうございます。
偏光状態でないということは、光軸は基本的にはまっすぐと理解してよいのでしょうか。
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Date : Mon, 14 Oct 2013 09:23:41 +0900
A2: 七瀬様、佐藤勝昭です。 ごめんなさい。ご質問は偏光を表す光学軸(optic axis)ではなく、光の進行方向を 表す光軸(optical axisi)のことだったのですね。後者に関しては、偏光は全く関係あ りません。
マニュアルに光の指向特性が出ています。
添付図は指向性をあらわしています。これによれば、まっすぐに進むはずです。
しかし、図はあくまでLED素子自体の指向性であって、マウンティングしたあとのケースとの角 度があれば、当然のことながら進行方向はケースの中心軸からずれるでしょう。この場 合は、LEDを傾斜度の変えられるゴニオメータにマウントして、根気よく角度依存性を 測定して、最大になる方向を決めるしかないですね。
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1305. 不動態皮膜の耐酸性と導電性の両立
Date : Thu, 17 Oct 2013 10:34:28 +0900Q: 佐藤勝昭先生
先生のホームページを拝見し、初めてご連絡致します。
T*社のA*と申します。
早速ですが、不動態皮膜の耐酸性と導電性の両立に関連して何点か お聞きしたいことがあります。ご教授いただけましたら幸いです。
1.不動態皮膜を除去してからその部分に導電塗装をした場合でも不動態皮膜は成長していくものでしょうか。(抵抗が増えていくものでしょうか)
2.不動態皮膜の成長は時間、温度など何に多く影響されるのでしょうか。 (仮に上記工法で部分的な導通が確保出来るとしたら)不動態皮膜は部分的に除去してもすぐに再生されるようですが、作業経過時間とともに抵抗がどのように増えていくかを知りたいと思います。
以上、よろしくお願い致します。
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Date : Sat, 19 Oct 2013 12:41:31 +0900
A: A様、佐藤勝昭です。
ステンレスの不動態のことでしたでしょうか?表面の不動態はクエン酸で処理することで鉄を溶かしてクロムの酸化物を形成しています。
機械的に研磨してやれば不動態は除去出来るのでその上に金属を堆積すれば導電性が確保できます。
ご質問は、その後再び界面に不動態が出来て導電性が悪くなるかということですね。
上に着けた金属とステンレスの界面の密着性がよければ、不動態の形成は、起きないと思います。
ただし、長期的には上に着けた金属を通して酸素が侵入してステンレスを酸化させる可能性があります。
しかし非常に薄いので、電子はトンネル効果で透過するので抵抗は高くならないと存じます。
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Date: Mon, 28 Oct 2013 11:36:17 +0900
AA: 佐藤勝昭先生
お世話になっております。
質問にご回答をいただきまして有り難うございました。
お返事はこないものと思いながら、問い合わせたもので大変有り難かったです。
遅くなりまして大変恐縮ですが、まずはお礼まで。
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1306. 金属の吸収スペクトル
Date : Fri, 18 Oct 2013 19:09:58 +0900Q: はじめまして。お忙しいところメールで失礼致します。
T*大学3年のN*と申します。
今回、私は金属の吸収スペクトルのデータを探しているのですが、化学便覧、物理定数表などを見ても何点かの波長に対する反射率が載っているだけで 可視光域全体を曲線で結んだ吸収スペクトルのデータというものが見つかりません。
インターネットで検索している際に、佐藤先生のHPに辿り着き、先生なら何かアドバイスを貰えるのでは、と思い今回メールをさせて頂いた次第です。
各元素について金属単体の可視光域の吸収スペクトル(なければ反射スペクトルでも大丈夫です)が一覧として載っているHPまたは本などをご存知でしょうか?
時間があるときにでも返信いただけると助かります。
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Date : Sat, 19 Oct 2013 20:46:08 +0900
A: N君、佐藤勝昭です。
金属の吸収スペクトルのデータが見つからないのは、金属はよほど薄い膜にしない限り光が透過しないので、 半導体のような光透過スペクトルから求める方法がとれないからです。
そこで、金属に光を当てて反射スペクトルをとって、それからクラマースクローニヒ解析を使って光学定数 (屈折率n・消光係数κ)を求める方法や、分光エリプソメトリー法を使って、ΨとΔを求め、これから直接光学定数nとκを求めます。
消光係数κと吸収係数αの間には、α=4πκ/λの関係があるので、κと波長λがわかれば吸収係数αを求めることができるのです。
金属の光学定数n,κは、下の書物に載っています。図書館で調べて下さい。
Palik:Handbook of Optical Constants in Solids, I, II (Academic)
Landolt Boernstein:New series III-15b (Springer)
工藤恵栄:分光学的性質を主とした基礎物性図表(共立、昭和47):絶版
また、私のなんでもQ&Aにも関係するQ&Aがありますよ。
5. 金属の反射スペクトル
47. 光学定数の抽出法
394. 金属による光吸収
646. 金、銀、Ni、Al、Cuの反射率
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Date : Sun, 20 Oct 2013 00:43:38 +0900
AA: 返信ありがとうございます。
Q&Aに類似した質問があったようですね。調べが足りずお手数かけてすみませんでした。
しかし、直接回答して頂いたことに感謝すると同時にうれしくもあります。
教えて頂いた文献を早速探してみます。
その際に新たな質問が生まれたら、また質問させていただくかもしれません。
迅速かつご丁寧な回答ありがとうございました。
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1307. 赤外透過率を用いたガス濃度定量
Date : Tue, 5 Nov 2013 08:16:25 +0000Q1: 佐藤勝昭様 K*社 M*と申します。たびたび佐藤様のHPを拝見させていただいておりましたが、今回初めてメールさせていただきます。
なお、お手数ではございますが、Webに掲載の際には会社名、氏名ともに匿名にてよろしくお願いいたします。
赤外透過率測定を用いたガス濃度の定量について教えていただきたく今回メールさせていただいております。
NISTのデータベース(http://webbook.nist.gov/chemistry/name-ser.html)に載っているIR透過スペクトラムの データから波長毎の吸収係数を算出したいのですが、透過スペクトラム測定時の濃度の考え方に少し混乱があり、 質問させていただく次第でございます。
ガスが大気圧下に存在するときに濃度(体積濃度)と、IR透過率の関係を求めるのが目的です。
(ただし、光源、バンドパスフィルタともにブロードなものを想定しておりますので、細かな吸収線まで 見る必要はありません)
透過スペクトラムデータの測定条件は下記が記載されておりました。
150mmHgの圧力のガスを窒素希釈して全圧600mmHgの圧力で測定、光路長は5cm (温度条件の記載なし)
吸収係数をε、濃度c、光路長Lとして
-Log(透過率)=ε x c x L
の関係からεを求めることができると思いますが、濃度c(体積濃度、ただし大気圧下での)の求め方として、
c = 150 / 760
で正しいでしょうか?(760は760mmHg = 1atmという意味です)
(本来は温度条件が入ってくると思いますが、ここでは無視しています)
IRスペクトラム測定時の600mmHgという数字は、少なくとも今回の目的においては、濃度算出には関係ないと思っているのですが、 今一つ自信がありません。
お忙しいところ申し訳ありませんが、ご教授いただければ幸いに存じます。
以上、よろしくお願いいたします。
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Date : Tue, 5 Nov 2013 18:40:03 +0900
A1: 森本様、佐藤勝昭です。
ある体積たとえば1m3の箱に150mmHgの被測定ガスと450mmHgのN2ガスを入れて全圧600 mmHgにしたとすれば、被測定ガスは、モル比で25%に薄められたものと見なせます。吸 収係数εはガス固有のものですからこのガスについて-Log(透過率)=ε x c x Lの式か ら濃度cを求めたとしたら、薄めたガスの濃度が出たと考えられますから、本当の濃度 はcを4倍する必要があるのではないでしょうか。
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Date : Tue, 5 Nov 2013 10:48:38 +0000
Q2: 佐藤様
K社 M本です。
お忙しい中、早速のお返事ありがとうございます。
私の最初のメールで濃度cの求め方をお聞きしているのですが、これは、
本当に求めたいものは吸収係数であり、吸収係数を求めるために式に代入する濃度cの考え方を どうしたらよいか、をお聞きしているつもりでした。そして濃度cの次元としては大気圧下でのガス濃度 (体積濃度)を使いたく、そのためには、与えられている測定条件の数値をどう使えばよいか、を お聞きしているつもりでした。
分かりにくい表現になってしまい申し訳ありません。
今回モル比25%(被測定ガス150mmHg, N2ガス450mmHg)のガスを使って 光路長L=5cmのセルでIR透過率測定し、波長毎に透過率のデータが得られています。
ここから吸収係数を計算する際に、N2の有無は吸収係数計算には 関係ないのではないか(被測定ガス分圧150mmHgだけが関係するのではないか)、と 考えています(ある体積の中に何個の被測定ガス分子があるか、が関係するのではないか)。
このため、大気圧下での体積濃度としてcを表現するとき、被測定ガス分圧150mmHgを 1気圧で割ればよいのではないかと考えた次第です。
お忙しい中、大変恐縮ですがよろしくお願いいたします。
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Date : Wed, 6 Nov 2013 18:16:38 +0900
A2: 森本様、佐藤勝昭です。データは透過率の値が掲載されているのですね。吸収係数αは 、α=-(lnT)/Lで与えられます。モル吸光度に直すにはセル中の気体のモル濃度で 割ります。測定ガスのモル濃度は分圧と比例関係にあるのでお考えのように150mmHgを 使ってよいと思います。
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Date : Wed, 6 Nov 2013 10:14:52 +0000
AA: 佐藤様、K社Mです。
お返事ありがとうございます。
モル吸光度を求めるにはモル濃度用い、モル濃度は分圧と比例関係にある、ということで、希釈有る無しに関わらず150mmHgを使えばよい、ということですね。
今回はお忙しい中、私の質問に答えてくださり本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
そろそろ寒い季節となってまいりました。どうかご自愛ください。
それでは失礼いたします。
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1308. フェルミエネルギーについて
Date : Wed, 6 Nov 2013 00:06:11 +0900Q1: はじめまして、T*大学物理学科2年のS*と申します。
HP掲載の際には匿名でお願いします。
固体物理などでは、必ずフェルミエネルギーというのが出てくると思いますが、教科書などで読んでもイマイチそのメリットがわからないです。
フェルミエネルギーを考えることが何の役に立つのでしょうか?
また各元素のフェルミエネルギーは計算で求める際、
Ef=(h2/2m)×(3n/8π)(2/3)
以上のような式で書け、nが電子総数で、以下のように書けるはずです。
n=0.6022×1024×(Zρ/A)
Zが価数だと思うのですが、金属のような複数の価数をとれるものになると、
金属固体中の価数はどれを選べばいいのでしょうか?
また電子総数が記されてる書物をご存じでしたら教えてもらえないでしょうか?
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Date : Wed, 6 Nov 2013 22:32:01 +0900
A1: S君、佐藤勝昭です。
(1) フェルミエネルギーのメリット
・金属のフェルミエネルギーは、金属のバンドのどこまで電子が占有しているかを表し ています。金属において電気伝導に寄与するのは、フェルミ面付近にある電子のみです。
フェルミ面から電子を真空準位に取り出すためのエネルギーを「仕事関数」といいます。
・金属と半導体の接合においてショットキー障壁ができますが、その高さは、電子を 金属から取り出して、半導体にくっつけるために必要なエネルギーなので、金属の 仕事関数から、半導体の電子親和力を引いたものとなっています。
・最近話題の磁気トンネル素子(MTJ)はハードディスクの記録読み出し磁気ヘッドに使 われています。
磁気トンネル効果とは、薄い絶縁層を2つの磁性金属で挟んだとき、磁性金属のフェル ミ面における電子のみがトンネル効果で通り抜けるのですが、そのとき、フェルミ面の電子のスピン が平行か、反平行かで伝導度が異なることを利用しています。(学部2年生には難しいでしょうね。)
(2) 金属固体中の価数
・フェルミエネルギーを求める式Ef=(h2/2m)×(3n/8π)(2/3)のnですが、金属の電 子のうち外殻電子の数のみが関与します。外殻電子がいくつあるかは、丸善「理科年表 」の物理/化学の「原子、分子、原子核」のページに「自由原子およびイオンの核外電 子という項目に書かれています。
例えば、Na [Ne]3s, Mg [Ne]3s2, Al [Ne]3s2 p, Si [Ne]3s23p2・・・という風 に書いてあります。[Ne]はNeの閉殻つまり1s22s22p6電子配置です。 外殻電子数はNaでは1, Mgは2, Alは3, Siは4です。
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Date : Thu, 7 Nov 2013 10:47:27 +0900
Q2: 佐藤勝昭先生
親切かつ詳しい説明ありがとうございます。
ちなみになのですが、フェルミ準位と元素の最外殻軌道エネルギーは関係があるのでしょうか?(フェルミ準位の高さや反応のしやすさなど)
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Date : Thu, 7 Nov 2013 12:52:03 +0900
A2: S君、佐藤勝昭です。
原子の状態の場合、外殻電子は原子核のもつ正電荷とのクーロン相互作用によって強 く束縛されていますが、凝集して固体になって周期ポテンシャルの中に置かれると、電 子は束縛をはなれ、隣接原子、さらには第2隣接原子へと広がりますが、この電子のマ イナス電荷によってクーロン相互作用が遮蔽され、束縛がさらに弱くなって、結晶全体 に広がるのです。このため、フェルミエネルギーは、原子における束縛エネルギーより かなり小さくなっています。
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Date : Fri, 8 Nov 2013 03:38:52 +0900
Q3: 連絡遅れてしまい申し訳ございません。
理科年表で確認したのですが、先生がおっしゃった自由原子およびイオンの核外電子という項目が見つからず、 原子およびイオンの電子配置のことではないのかと思いました。間違っていたらすみません。
それで、金属固体の価数の考え方についてですが、これを遷移金属で考えると、d電子を考えず、s電子を価数と考え、 ほとんどが1価、2価で固体中に存在するということでしょうか?
そうなると、PdとPtではs電子が0個(solid state physics,Ashcroft Mermin著より)で価数をもたず、 伝導電子がないことになってしまうような気がするのですが、これはどのように考えればよいのでしょうか?
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Date : Fri, 8 Nov 2013 09:10:56 +0900
A3: S君、佐藤勝昭です。
私は古い(1990年の)理科年表を使っているので、項目が違っていてごめんなさい。
確かに、Pdは[Kr]4d10であって、原子にはs電子がなくd電子も全部埋まっていて伝導 電子がないように見えますが、固体中ではs軌道が下がってきて、d電子と混成します。
また、Pdのフェルミ面は5s-4dバンドの中に来るようです。Pt原子は[Xe]4f14 5d9 6s となっており、5dに孔が空き6sに電子が来ています。
PdやPtの固体中のd電子はかなり広がっているので、伝導電子として寄与します。いず れにせよ原子と固体ではずいぶん電子状態は異なりますよ。
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Date : Sat, 9 Nov 2013 00:32:55 +0900
Q3: 返信遅れてすみません。そうなると、プラチナやパラジウムのフェルミエネルギーはどのようにして求めるもの何でしょうか?
何度も質問してすみません。
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Date : Sat, 9 Nov 2013 08:26:52 +0900
A3: S君、佐藤勝昭です。
実際の物質の電子状態は、あなたが学んだ放物線型ほど簡単ではありません。面倒な バンド計算をするのですが、ベースになる波動関数は、もはや原子由来のs電子、d電子 などではなく、混成した複雑な軌道になっています。sとかpとかdとかいうのは、あく まで原子のポテンシャルのもとでの、軌道角運動量の固有値による分類ですが、固体結 晶中では、軌道角運動量はもはやよい量子数ではありません。
添付図は、Ptのバンド構造と状態密度です。この複雑な状態密度曲線を積分して、フェ ルミエネルギーを求めるのです。
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Date : Sat, 9 Nov 2013 18:16:31 +0900
AA: 詳しい解説ありがとうございます。
やはり実際はそう簡単にいくものではないようですね。
これを足がかりにして日々精進していきたいと思います。
何かあったらまた、よろしくお願い致します。
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1309. 金属の光学定数(複素屈折率)の温度変化
Date: Thu, 14 Nov 2013 14:58:42 +0900Q1: 佐藤勝昭 様
はじめまして。お忙しい中メールで失礼します。
私、新潟工科大学4年の南 沙斗紫と申します。 私は大学の研究室にて次世代記録方式の熱アシスト磁気記録に用いられる近接場光素子の研究をしております。
近接場光素子は金属(主に用いる金属はAu、Ag、Alの3つ)の薄膜です。
私は近接場光素子のFDTD解析を主にしております。
その解析を行うなかで解析を行うプログラム上に近接場光素子として用いる金属の物性値を入力します。
物性値は、屈折率と複素屈折率です。
屈折率と複素屈折率は解析に用いるレーザーの波長によって異なります。
さらに屈折率と複素屈折率は温度によっても変化するようです。
温度によってどのように変化するかいろいろ調べても参考になるようなものがなく困っている状況です。
物性値に関することインターネットで検索していると、たびたび佐藤先生のHPをお見受けします。
そこで佐藤先生なら有力なアドバイスが貰えるのではないかと思いメールさせていただきました。
お忙しいところ申し訳ありませんが、屈折率と複素屈折率の温度による関係についてご教授いただければ幸いです。
わかりにくい文章になったかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。
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Date: Thu, 14 Nov 2013 16:49:55 +0900
A1: 南君.佐藤勝昭@新幹線(携帯より)です。
ご質問は複素屈折率の実数部nと虚数部kの温度依存性ですね。熱アシスト記録の温度はせいぜい500Kなので複素屈折率の変化は無視出来ると思います。
金属の光学応答は殆どプラズマ周波数で決まっているのですが、これは自由電子の密度で決まります。
固体物理学で学ばれたように金属の自由電子密度は殆ど一定と考えられています。
スペクトルの詳細は電子のフォノン散乱による緩和時間の増加のため変化するでしょうが熱アシスト記録の解析においては、無視出来るのではないでしょうか。
勿論融点近くまで加熱すれば、結晶構造が保たれないので、複素屈折率は大きく変化するでしょうね。
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Date: Thu, 14 Nov 2013 17:05:36 +0900
Q2: 佐藤勝昭 様
新潟工科大学の南です。お返事いただけて光栄です。
先ほどのメールでは"消衰係数"のことを誤って"複素屈折率"と書いていました。
しかしお聞きしたかった内容が伝わっていて良かったです。
私が解析に用いているレーザーの波長は180nm~900nmなのですが、波長に関係なく複素屈折率の変化は無視できるのでしょうか?
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Date: Thu, 14 Nov 2013 19:58:10 +0900
A2: 南君、佐藤勝昭(@相生 SPring-8に出張中)です。 金属の反射率の温度変化に関する質問がすでに「物性なんでもQ&A#480」に載っています。
プラズモン周波数より長波長の光に対しては、ここに書かれていることを参考にして、やってみられるとよいでしょう。
短波長の光においてはバンド間遷移がきいてきます。
また実際の金属の場合(特にAg, Alでは)高温になると表面が酸化し特に短波長では、見かけの屈折率が変化します。
あなたの場合はシミュレーションをやっているだけなので酸化とかは気にしなくてよいでしょうが・・
プラズモンに関しては、私の書いた「プラズモンの基礎」を参考にして下さい。
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Date: Fri, 15 Nov 2013 09:27:31 +0900
AA: おはようございます。
返信が遅れてしまい申し訳ないです。
すでに類似したQ&Aがあったようですね。お手数かけてすいません。
この度はいろいろとお世話になりありがとうございました。プラズモンについても勉強しようとおもいます。
また質問させていただくことがあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。
本当にありがとうございました。
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1310. Al2O3基板上にエピタキシャル成長したZnOの結晶性
Date : Wed, 20 Nov 2013 00:42:18 +0900Q: はじめまして、D*大学大学院修士2年のO*と申します。
佐藤先生のHPを拝見させていただいておりましたが、今回初めてメールさせていただきます。
なお、お手数ではございますが、Webに掲載の際には大学名、氏名ともに匿名にてよろしくお願いいたします。
早速質問になるのですが、現在MOCVDでZnOを作製しております。サファイア基板(006)に500℃で成長しています。
PL測定において室温では380nmを中心とした紫外発光のピークを確認できるのですが、深い準位からのブロードなピークは現れませんでした。
これは欠陥が少なく結晶性の高い試料なのかと思っていたのですが、XRDによるロッキングカーブ測定では(002)の半値幅が1.5~2.0°でした。
この場合結晶性は良いのか悪いのか判断がつかなく先生のアドバイスをいただきたいです。
お忙しいかと思いますがよろしくお願い致します。
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Date : Wed, 20 Nov 2013 01:13:45 +0900
A: O君、佐藤勝昭です。
匿名希望と言うことは、先生に聞けない事情があるのでしょうか?
私が指導教員だったら、研究室の学生が自分を差し置いてほかの先生に質問して いたら「自分は学生に信用されていないのだな」と悲しい気分になりますよ。
ヒントだけ差し上げましょう。Al23(001)基板上へのMOCVDによるZnO薄膜については
W.I. Park et al.: Metal-organic vapor phase epitaxial growth of high-quality ZnO films on Al2O3(00?1): J.Mater.Res. 16 (2001) 1358
を読んでください。
この論文では基板温度500℃でロッキングカーブの半値幅は0.19°が得られ、pole figureではきれいな6回対称が得られ、deep levelの発光も、励起子ピ ークの3桁以上低いレベルとなっています。励起子の線幅も7meVと鋭く、結晶性のよいエピ膜ができています。
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Date : Wed, 20 Nov 2013 02:27:58 +0900
AA: 佐藤先生、Oです。
夜遅くお返事ありがとうございます。
研究室の指導教員と話はきちんとしているのですが、教授からは高品質な結晶ができているのではという意見をいただきました。
他の方の意見も少し聞いてみたいと安易に思ってしまいメールしてしまいました。申し訳ありません。
ヒントの論文ありがとうございます。
やはりrocking curveとPLのdeep level はどちらもいいようですね。
自分の試料と比べると、やはり自分の試料のrocking curveの半値幅が大きすぎるのが問題に感じました。
もう少し頑張ってその原因を調べて見ようと思います。
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1311. 金属の酸化による機械的性質の変化
Date : Tue, 26 Nov 2013 15:05:22 +0900Q1: 東京農工大学名誉教授 佐藤勝昭 先生へ
初めまして、お忙しい中メールで失礼したします。
横浜国立大学大学院 修士1年 齋藤 と申します.
現在ナノ粒子の焼結による接合材の研究をしております。
金属の酸化について質問させてください。
金属が酸化すると、一般的にヤング率や破断応力は上がると思いますが、これは何故でしょうか?(Al→Al2O3など)
最終的には、解析の物性値として、ある程度物性を見積もりたのですが,
金属が酸化した場合どの程度ヤング率等(機械的性質)が変化するかわかりません。
(金属の価数との関係も)もしわかることがありましたら、ご教授願います。
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Date : Tue, 26 Nov 2013 18:49:02 +0900
A1: 齊藤君.佐藤勝昭です。
金属の結晶は原子が金属結合で結び付いています。
金属結合というのは、金属を構成する原子の持つ電子が、自由電子となって結晶全体にひろがり、 この電子の海に原子核が規則的に並んで浮んでいる状態です。
金属が酸化すると、金属は陽イオンになり、酸素のマイナスイオンとの間に静電的な力が働いて結合します。
このような結合をイオン結合といいます。金属結合に比べて、イオン結合は非常に強いので弾性係数が大きいのです。
実際の金属酸化物では、金属の電子の一部と酸素の電子の一部が共有結合で結び付いています。共有結合も強い結合なの で、弾性係数が大きいのです。このように酸化した金属はもとの金属とは全く異なった物質になったと考えるべきです。
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Date: Thu, 28 Nov 2013 12:33:28 +0900
Q2: 東京農工大学名誉教授 佐藤勝昭 先生
お忙しい中ありがとうございました。
酸化により電子が捕らわれることで、結合の種類が変わり、 結合が強くなる分、延性・展性などの性質を示さなくなるのですね。
結合エネルギーについて調べてみたのですが、 金属-酸素間の結合エネルギーが見つけられませんでした。
なにかオススメの参考文献はないでしょうか??
また、結合エネルギーと弾性係数の間にはどのような関係があるのでしょうか?
勉強不足で申し訳ないのですが、もしわかることがありましたら、ご教授願います。
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Date: Thu, 28 Nov 2013 15:26:54 +0900
A2: 齊藤君、佐藤勝昭です。
原子間の結合エネルギーを推定するには、heat of formation ΔHf(生成熱)を使う ことができます。イオン性のみを仮定してΔHfを計算しても、酸化物ではイオン性と共 有性を持っているので、実験値をよく説明できないようです。
古い文献ですが、例えば
Calculation of bond distances and heats of formation for BeO, MgO, SiO2, TiO2, FeO, and ZnO using the ionic model: American Mineralogist, Volume 65, pages 163-173, I9B0 をお読みください。
この文献では、イオン性として計算した値と実験で求めた値の違いを共有性としています。
機械的性質との関係ですが、生成熱ΔHfが大きいもの程、体積弾性率が大きくなるというだいたいの傾向はあります。上の論文の表からそれぞれの実験値を引っ張り出して 見ますと
物質名 | 生成熱(kcal/mol) | 体積弾性率(1011Pa) |
---|---|---|
BeO | -142 | 2.20 |
MgO | -143 | 1.62 |
ZnO | -83 | 1.39 |
FeO | -170 | 1.74 |
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Date: Thu, 28 Nov 2013 15:39:20 +0900
AA: 佐藤先生へ
結合エネルギーだけから、考えていくのは難しそうなので、何か別の観点も組み合わせて考えられないか、 教授と相談してみます。
ご親切にありがとうございました。
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1312. 太陽光線のじりじり感について
Date : Thu, 28 Nov 2013 20:41:20 +0900Q: 佐藤勝昭 先生
初めてメールさせて頂きます。 S社(化学系)に勤務しておりますNと申します。
先生のHPを拝見させて頂き、非常に広範囲の質問へのご回答をされており非常に参考にさせて頂いております。
小職ですが、現在の業務が省エネ関連の材料開発を行っています。
色々と調べると、例えば建材用途の窓フィルムやコーティング剤の省エネ効果を謳っているHPや文書を多く見かけるのですが、その中で気になる点がありご質問させて頂きました。
それは、「じりじり感」という表現です。これに関して質問させて頂きたく。
感覚的に、じりじり感という物は、体感できイメージ出来るのですが、実際の定量的な意味合いではどのような物になるのでしょうか?また、定量的な評価は可能なのでしょうか?
先生のコメントも拝見致しましたが、現状の先生のご意見を伺えますと幸いです。
以上、宜しくお願い致します。
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Date : Thu, 28 Nov 2013 23:48:51 +0900
A: N様、佐藤勝昭です。
じりじり感については、旭硝子の尾関さんが雑誌(NEW GLASS 18 68 (2003))に大変よい解説を書いておられます。
この解説によれば中赤外(この解説では1200-2100nmくらいをさしているらしい)がじりじり感のもとになっているようです。
定量的には、皮膚温度の上昇をサーモグラフィなんかで測定するほかかないでしょうね。
1313. パーマロイの水素焼鈍
Date : Mon, 2 Dec 2013 19:32:41Q: M*社の田中と申します。物性Q&Aをみて質問しました。会社名は非公表でお願いします!
質問は、
パーマロイの透磁率を高めるため焼鈍をしますが、このとき水素の雰囲気で行うようです。
これが、例えば水素と窒素の混合ガスではいけないのでしょうか?
弊社は金属加工の会社でこの辺の所は良く分かりません。教えて頂けませんでしょうか?
近くの熱処理屋さんでは混合ガスなら処理できるといわれているのですが、取引先の資料では水素ガスの雰囲気と書いてあります。
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Date : Mon, 2 Dec 2013 22:03:17 +0900
A: 田中様、佐藤勝昭です。
パーマロイの焼鈍は高純度の水素中で行う必要があります。
FeとNは添付の相図のように反応してFe4Nなどの窒化物を作るからです。
通常、露点-40℃以下でN2含有量50ppm以下の高純度水素中で焼鈍するとされています。
水素焼鈍のやり方で磁気的性質の改善の様子は大いに異なります。
NEOMAX社のPermalloyのサイトを参照してください。
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Date : Wed, 4 Dec 2013 10:42:39 +0900
AA: 佐藤先生。有難うございます。
参考にさせていただきます!
弊社は大阪です。近くで熱処理出来るところを探しています。
これが、クリヤー出来ればパーマロイの加工の仕事が取れるかもしれません。
田中
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1314. 無磁場で生じる円二色性
Date : Wed, 4 Dec 2013 14:32:00 +0900Q: 佐藤先生、ご無沙汰しております。K社のMです。今、合成専門の人とある光学活性を示す有機化合物を対象とする材料開発をやっています。
これがうまく合成できたかどうかを確認するためには円偏光二色性(CD)スペクトルをとったらいいのではないかと思い、 昨日からCDの勉強をしております。
それで先生の「光と磁気」(2001年版)を読んでいて教えていただきたいことが出てきました。
p8に「酒石酸の水溶液などでは右円偏光と左円偏光とに対して吸光度が違うという現象がある。これを二色性という」と書かれています。
これを読んでいぶかしく思ったのですが、図2.4のような実験では試料には磁場がかけておらず、酒石酸自体も磁性体ではありません(反磁性体ではありますが)。
このようなものでも円二色性が現れるのは、光の中の磁界Hと酒石酸の中の電子との相互作用(反磁性磁化率を介する)のせいでしょうか。
つまり、p29の(3.12)のεxy の中には光の磁界Hと反磁性磁化率とが含まれているのでしょうか。
もしそうだとするとそのεxyの具体式はp62の(4.6)において直流磁界Bを高周波磁場Bに置き換えて解けば得られるのでしょうか。
(HPの「1170 複素屈折率と磁気光学」に関連の質問があります)p.s 図2.4の試料は「右旋酒石酸のクロムナトリウム塩」と書いてありますが「右旋酒石酸 のカリムナトリウム塩」の間違いではありませんか?いわゆるロッシェル塩のことです。
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Date : Thu, 5 Dec 2013 00:31:36 +0900
A: M様、佐藤勝昭です。
自然活性(旋光性と円二色性)は、結晶構造または分子構造によって生じるもので、磁性とは全く無関係です。水晶にも旋光性がありますが、これは、結晶構造的に原子の 配列にらせんがあるからです。
化学の方ではキラル(不斉)分子と呼ばれる構造によります。(野依良治先生のノーベル賞受賞の対象になったのは「不斉配位子をもつ金属錯体を触媒に用いて、 不斉分子の合成を行ったこと」とされます)
二色性が現れるのは、らせん構造のために右円偏光と左円偏光に対する光学遷移(光の吸収)が異なるという選択則のためです。磁性は全く関係ありません。
図2.4のキャプション、ご指摘ありがとうございます。「右旋酒石酸のカリウムナトリウム塩」の間違いです。
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Date : Thu, 05 Dec 2013 20:15:08 +0900
AA: 佐藤先生
お返事ありがとうございます。
> 水晶にも旋光性がありますが、これは、結晶構造的に原子の配列にらせんがあるからです。
昔、院生の時、研究室に鉱物の薄片試料がありましたが、その中に水晶もありまして、これを偏光顕微鏡でのぞいて旋光性の観察をしました。
> 化学の方ではキラル(不斉)分子と呼ばれる構造によります。
まさに今やっているのはキラル分子です。
> 二色性が現れるのは、らせん構造のために右円偏光と左円偏光に対する光学遷移(光>の吸収)が異なるという選択則のためです。磁性は全く関係ありません。
なるほど。私も昔、時間を含むシュレディンガー方程式から遷移確率を求める式をフォローしたことがありますが、電子双極子遷移の中の振動子強度がどうなるかなのですね、本質は。
化学の実験ではよく溶液の可視紫外吸収スペクトルを測っていて選択則の議論も出ますが、この議論では偏光を入射することは前提にはなかったと思います(遷移金属錯体の本では円偏光二色性が出ますが)。
それが偏光を使うとどうなるかを考えればいいのだと理解しました。それで「光と磁気」の本のp68からp71を勉強してみます。
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1315. スピン注入のメカニズム
Date : Thu, 05 Dec 2013 14:19:51 +0900Q: 佐藤勝昭先生
H*大学大学院に所属しておりますM2のT*と申します。(webアップ時は匿名でお願い致します。)
HPを拝見させていただき、ご連絡致しております。
私は半導体工学を専攻していますが、材料を広く勉強したいと思い、現在は磁性体に関して独学しております。
このたびは、私自身で文献を色々とあさってみましたが、理解のできる詳しい説明の記載されているものがみつからず、 連絡差し上げた次第でございます。
以下、質問です。
===================================================================
強磁性体と非磁性体を接続させた系について考えます。
強磁性体から非磁性体にスピンを注入した場合、非磁性体内に非平衡スピンが蓄積されます。
蓄積された非平衡スピンは“バックフロー”と呼ばれる現象により、その大部分が強磁性体内に逆戻りし、結果的にスピンの注入効率は低くなります。
これに関して、
質問①:
ある文献によると“バックフローが生じる原因は強磁性体がスピン緩和の大きな材料であるため。”と記載されておりました。
“スピン緩和が大きい”とは具体的にどういうことなのでしょうか。
また、どうしてスピン緩和が大きいとスピンを吸収するのでしょうか。
質問②:
強磁性体と非磁性体の伝導度のミスマッチが大きいと、スピン注入の効率が非常に悪くなります。これを回避するために間に障壁を挟むとよい ということですが、これはどうしてでしょうか。
また、障壁を挟むことによってバックフローの影響はどうなるのでしょうか。
===================================================================
以上です。
お忙しい中恐縮ではございますが、ご返答よろしくお願い致します。
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Date : Fri, 6 Dec 2013 00:50:50 +0900
A: T様、佐藤勝昭です。
私はスピン注入の詳細については、自信がないので、半導体へのスピン注入の研究をしている九大の浜屋宏平准教授にお尋ねしました。
以下、浜屋さんの回答に基づいてお答えします。
質問1:
ご質問の箇所での「スピン緩和」ですが、主にスピン伝導の拡散距離 (スピン拡散長)に関する記述と思われます。
一般的に、強磁性体と非磁性体の「スピン拡散長」を比較すると、強磁性体= 数nm、非磁性隊 = 数μmという程、大きな違いがあります。
つまり、強磁性体では非平衡スピン蓄積 (=スピン流)の拡散距離が短く、すぐに平衡状態に戻ってしまうことを、「スピン緩和が大きい」と表現していると思われます。
「スピン緩和が大きいとスピンを吸収する」理由ですが、「非平衡スピン蓄積 (=スピン流)」と記述されていますように、非平衡状態は平衡状態へ戻ろうとします。
つまり、上記の解釈に有るように、平衡状態に戻してくれる(スピン緩和の大きな)強磁性体に、非平衡スピン蓄積(=スピン流)は吸収されやすいということになります。
質問2:
強磁性体/非磁性体界面に障壁層を挟むと、接合界面で滑らかに繋がっていた電気化学ポテンシャルが途切れてしまうため、伝導度ミスマッチを考える必要がなくなります。
つまり、電界アシストなどで一旦、強制的に非磁性体中にスピン注入が実現すると、非平衡スピン蓄積(=スピン流)は非磁性体中にしか拡散することができません。
これは、絶縁障壁層の伝導度が極めて低く、スピン流の拡散を許さないからです。
結果として、絶縁障壁層の向こう側に存在する強磁性体には、ほとんどスピンが拡散することはなくなります。これが、バックフローの抑制です。
伝導度ミスマッチの別の表現で、「スピン抵抗差」という概念が有りますので、そちらでも簡単に説明します。
一般的に「スピン抵抗」は、強磁性体 < 非磁性体 < 絶縁体です。一旦、非磁性体中にスピン注入が実現すると、
非磁性体よりもスピン抵抗の大きな絶縁障壁層の方にはスピン拡散が許されず非磁性体内のみのスピン拡散が主となります。
つまり、絶縁障壁層はスピン抵抗の最も小さな強磁性体へのスピン拡散をほとんど許しません。
結果として、スピン流のバックフローは抑制されることになります。
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Date : Fri, 06 Dec 2013 20:47:00 +0900
AA: 佐藤勝昭先生、H大のTです。
メール拝読致しました。早急のご返答、誠にありがとうございました。
九州大学の浜屋先生は私自身面識はございませんが、磁性体(スピン)の勉強を始めて、何度か著書やHPを拝見したことがございます。
私のために連絡をとっていただき、本当に感謝しております。回答いただいた浜屋先生にも、よろしくお伝え下さい。
「スピン緩和」に関する回答、また「スピン抵抗差」の概念等非常に勉強になりました。さらに掘り下げて勉強してみようと思います。
以上です。
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1316. セラミクスのスパッタ成膜速度とガス圧の関係
Date : Thu, 19 Dec 2013 16:45:48 +0900Q: 初めまして.T*大学大学院1年のT*と申します.
スパッタリングの分野について質問させてください.
実験装置にRFマグネトロンスパッタリング(チャンバー内容積 : 約32×10^-3 [m3]),
ターゲットをイットリア安定化ジルコニア,基板をSi(001),
フローガスをAr,RFパワー200Wで実験を行っています.
今回質問しますのは,成膜速度の問題です.
一般的にチャンバー内圧力を増加させると平均自由行程が短くなるため成膜速度が
下がるというのが周知の事実です.
私の実験では,Arガス流入量を増加させ(20→100sccm)て実験を行っています.
チャンバー内圧力を増加(100sccm)させた場合成膜速度が下がるどころか少ない
(20sccm)場合と比べて増加しました.
ターゲット-基板の入射角度がon-axisではあまり影響はないのですが,ターゲット
-基板距離と入射か角度を持たせた場合では膜厚が約2倍に増加しました.
たしかに,不活性ガスの流入量が増加すればそれだけターゲットをたたくAr+の
量が増え,スパッタ粒子の飛来する量が増えたためだと考えれば納得がいくので
すが平均自由行程(λ)は公式よりチャンバー内圧力が増加すれば短くなるはず
が,この結果だけから判断すると長くなったという結果になるのですか?
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Date : Sun, 22 Dec 2013 11:13:03 +0900
A: T君、佐藤勝昭です。
お返事が遅くなりました。私は、真空工学の専門家ではないので、一般論でお答えします。
ご質問は、「YSZのマグネトロンスパッタ成膜において、Arガス流量(従ってガス圧)を変えたときに、平均自由行程λが減少するはずなのになぜ成膜速度が増加するか」ということですね。
成膜圧力が0.2Paであればλ~3cm, 1.1Paであればλ~1cmとなりますが、ポンプの排気速度が大きい場合、ターゲット・基板間付近の実際の圧力は、もっと低いのではないでしょうか?
例えば、もし0.02Paであれば、λ=34cmにもなりますから、ガス圧を変えてもλがターゲット・基板間のサイズより十分長いため、拡散律速(平均自由行程律速)にはならず、供給律速になって、ガス流量とともに成膜速度が増加します。
On-axisであまり変化がなかったと言うことは、この条件下では圧力が高いため、実際の平均自由行程λがターゲット・基板間距離Lとほぼ等しく、拡散と供給が釣り合っているのでしょう。Off-axisにするとターゲット・基板間の圧力はより低くなるので、λ>>Lとなり、もはや拡散律速にならず、供給律速になるのではないでしょうか?
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Date : Sun, 22 Dec 2013 17:16:58 +0900
A': 追伸、T君、佐藤勝昭です。
Facebookにアップしてコメントを求めたたら、東理大の杉山先生から
「T-S間が10cm程度の小型(ターゲットの大きさが書いてありませんが)RFスパッタ装置の場合、
Arプラズマに起因する基板へのダメージや、エロージョンと基板取り付け位置の兼ね合いで、
デポレートや膜質は平均自由行程以外の要因に左右されると思います。」
というコメントをもらいました。参考にしてください。
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Date : Mon, 23 Dec 2013 08:22:38 +0900
A":追追伸、T君、佐藤勝昭です。
信州大の森迫先生から、Facebookを通じて、次のようなコメントを頂きましたので、参考にしてください。
「多分、数mTorrから圧力をあげたんだろうと考えてます。RFスパッタでフェライト薄膜を作製した経験からですが、同様にレートが増加しました。スパッタに寄与するイオンが増加したからだろうと思ってました。幾何学的な形状にも依存しますが、10mTorrを超えるとレートは減少します。衝突回数が増えるからでしょう。そして組成(私の場合バリウムと鉄)も変化してました。」
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Date : Tue, 24 Dec 2013 08:15:07 +0900
AA: 佐藤先生、御回答感謝します。そして、facebookを通じてヒントを下さった杉山 先生と森迫先生にも感謝します。
確かに、佐藤先生のおっしゃるように不活性ガスの流入量を増加させると、ター ゲットからの放電の明るさは強まっていたため、供給律速は強まったと思われま す。杉山先生のおっしゃるように基板へのダメージが私も少し気になっていたた めこれからは考慮していこうと思います。そして、森迫先生の意見に関して、私 も同じ考えです。私の実験でも組成が変化している傾向が確認できました。
お三方の貴重なアドバイスをもとにこれからも実験に取り組んでいこうと思って います。ありがとうございました。
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1317. 炎色反応
Date : Tue, 24 Dec 2013 11:25:18 +0900Q: 佐藤先生
いつも物性なんでもQ&Aを拝見させていただいております。
中学生の息子と炎の発光について話をしていて、自分自身メカニズムが理解できていないことが分かりまして、先生に質問させて頂きました。
炎色反応の発光は原子が励起状態から基底状態に戻る遷移による発光と言われます。この励起状態とはどんな状態なのか、が質問の主旨です。
しばしば見かける説明に、炎色反応を起こしている金属原子はプラズマになっており、電離したイオンと電子が再結合する際の発光というものがあります。
しかし一方で、例えばナトリウムの炎色反応の発光の590nm線は最外殻の3s電子が3p軌道に励起されて、再び3s軌道に戻る遷移に相当する筈で、この場合発光は単に原子内の電子の遷移によるもので、ナトリウム原子は電離しているわけではないと理解しています。
実際はどういった状態の遷移が起こっているのか、ご教示いただけると幸いです。
所属: 日鐵住金株式会社
氏名: 出合博之
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Date : Wed, 25 Dec 2013 00:28:46 +0900
A: 出合様、佐藤勝昭です。
第1イオン化エネルギーを理科年表で見ますとLi 5.392eV, Na 5.139eV, K 4.34eV, Sr 5.696eVと、いずれも紫外域ですから、「電離したイオンと電子が再結合する際の発光」は目に見えません。
炎色反応で見えている光学遷移は原子の励起状態から基底状態への電子遷移によると考えてよいと思います。
ただ、電離状態の再結合による紫外線を原子が再吸収して励起状態になり、ここから基底状態に遷移するパスもあるでしょう。
これを「炎色反応を起こしている金属原子はプラズマになっており、電離したイオンと電子が再結合する際の発光」と表現したのではないかと存じます。
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Wed, 25 Dec 2013 13:26:24 +0900
AA: 佐藤先生
御回答いただきまして、有難うございます。
大変すっきりいたしました。
身近な現象でも、正しく理解していないことがしばしばあるのですが、今回はその典型でした。
出合
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1318. 強磁性体単結晶と多結晶の磁化の違い
Date : Fri, 10 Jan 2014 11:34:11 +0900Q: 佐藤勝昭教授
K*大学修士1年のT*と申します。物理学を専攻しております。
いつも佐藤教授のQ&Aコーナーを興味深く拝見しております。
名前を掲載される際は匿名でお願いいたします。
磁性に関して質問が2点あり、質問させて頂きます。
1. 強磁性体の多結晶と単結晶の磁化の値についてです。
例えばC軸が磁化容易方向である磁気異方性をもつ単結晶の強磁性体に磁場(仮に5Tとします)をかけて温度を下げていき安定した値と、
同じ物質の多結晶で同様に行った場合では安定した際の磁化の値は異なるかと思います。(値は単位molあたりのです)
同じ物質でも単結晶のほうが多結晶よりも磁化の値は大きいはずですが、一般的に何倍ほど大きくなると考えるべきでしょうか?
またその理由は何故でしょうか?
2. 同じ物質の単結晶、多結晶のキュリーワイス定数についてです。
上記と同じ磁気異方性をもつ単結晶のキュリーワイス定数が仮に1であったらとしたら理論上では多結晶のキュリーワイス定数は
どれくらいになると見積もるべきでしょうか?
お忙しい中恐縮ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。
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Date : Sat, 11 Jan 2014 01:44:03 +0900
A: T君、佐藤勝昭です。
(1)異方性定数Kuが大きな磁性体多結晶の磁化特性についてのご質問
もし、その強磁性体が単磁区微粒子から構成されているとしましょう。
その微粒子の異方性磁界Hkは2Ku/Msで表されます。各微粒子の結晶軸は、バラバラな方向を向いていますが、
Hkより十分大きな外部磁界を加えれば、最後は磁化方向が磁化容易方向からずれ、磁気異方性エネルギーに
逆らいながら回転し飽和に達します。
あなたが加えた5Tという磁界がHkより大きければ、多結晶でも単結晶でも飽和磁化の大きさは原理的に同じはずです。
もし印加磁界5TがHkより小さければ、各微粒子の磁化はそろわないので、磁性体全体として飽和しません。
このとき多結晶の磁化は単結晶の磁化より小さくなりますが、何%ということはできません。
もう一つ考慮すべきは、反磁界のことです。多結晶体を構成する結晶粒の形状が針状は、平板状か、球形かによって、
反磁界が異なりますから、場合によっては、実効磁界は印加磁界よりかなりばらついている可能性もあります。
このようなときには、なかなか飽和しない可能性があります。
(2) 異方性をもつ多結晶強磁性体のキュリーワイス定数
キュリー温度以上の常磁性相でのキュリーワイスの法則は、自発磁化が失われていることが前提となっています。
自発磁化がないのですから、磁化容易軸の概念もないはずです。従って、多結晶でも単結晶でも原理的には、
キュリーワイス定数は変化がないはずです。
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Date : Sat, 11 Jan 2014 11:37:05 +0900
AA: 佐藤教授
ご解答どうもありがとうございます。
大変すっきりしました。貴重なご意見を頂きありがとうございました。
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1319. アモルファス金属について
Date: Thu, 27 Feb 2014 17:19:11 +0900Q: 佐藤勝昭先生、はじめまして。K*社製造部のI*と申します。
アモルファス金属について調べて漂流しているうちに、こちらの宝島のようなHP「物性なんでもQ&A」に流れ着きました。
早速ですが質問です。アモルファス金属とは非晶質の金属のことで、原子配列が無秩序になっているそうですが、
① 有機高分子鎖が絡み合いや立体構造的に結晶化しにくいのは納得しやすいのですが、(私が考えるに)鎖状ではない金属原子が結晶化前に凍結できてしまうのはどういった理由によるのでしょうか。 単に金属が重くて運動にはたくさんのエネルギーが必要だからでしょうか。
② 金属結晶における電子(非局在化電子)はアモルファス金属ではどうなってしまっているのでしょうか。
導電性、熱伝導性、金属光沢に変化はあるのでしょうか。
③ アモルファス金属を室温~1000℃まで変化させた場合、見た目・原子配列に変化はあるのでしょうか。また、金属ガラスではどうでしょうか。
④ アモルファス金属を油圧プレスローラで圧延する、ナイフで切りつけるなどの機械的作用をした場合、見た目・原子配列の点でどのような応答をするでしょうか。
普通の結晶金属と顕著な違いはありますか。
⑤ 例えばチェーンソーで切断するなど、摩擦熱作用と物理作用が複合した場合は見た目・原子配列の点でどのような応答をするでしょうか。火花が散ったり切断面が焼けたりするのでしょうか。
不躾にもたくさん質問してしまいました。お忙しいところ申し訳ありませんが、ご教授いただければ幸いに存じます。
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Date: Fri, 28 Feb 2014 00:10:49 +0900
A: I様、佐藤勝昭です。
アモルファス金属についての広範なご質問なので、全部にきちんとお答えできるか自信はありませんが、私の知っている範囲でお答えします。
(1)分子鎖や絡み合いがないのにアモルファスになる理由:
アモルファス金属は、Fe, Coなどの金属原子とSiやBなどのglass forming atomとから成り立っています。
CD-RWに使われている材料はAg-In-Sb-Teですが、金属Ag, In, Sbと非金属Teとから成り立っています。
融点以上に加熱すると融解します。融液においては原子の配置は不規則状態になっています。
この融液を徐冷すると原子が移動して規則的な原子配置になり「結晶」となります。一方、この融液を急冷すると、短時間に原子が移動して長距離の秩序構造を採ることができず、アモルファス状態になります。
アモルファス金属は、いわば、液体状態における原子配置がそのまま凍結したようなものです。
Ag-In-Sb-Teのように大きさの異なるいろんな玉をきちんと並べるのは困難なので非晶質になりやすいです。
理論的には、硬球乱雑稠密充填モデル(random close packing of hard spheres)でよく説明されます。
非晶質状態にあるものを結晶化温度以上に保つと結晶化が進みます。CD-RWでは、結晶相と非晶質相の相変化を用いて、記録・消去を行っています。
(2)非局在化電子による物性はアモルファス金属でどうなるか
アモルファスにおいては周期構造がないので、周期構造に基づくバンド構造は大きな変化を受けますが、バンドギャップが開くわけではないので、フェルミ準位は伝導帯内にあり金属伝導性はかわりません。
一例として溶融金属急冷法で作成したアモルファスPd80Si20を取り上げますと、結晶の場合に比べて1桁以上抵抗率が高くなっています。温度を上昇していくと普通の金属と同様に抵抗率が増加しますが、結晶化温度350℃を超えたとたん、抵抗率は急落して、結晶相の小さな抵抗率の値になります。
アモルファスにおけるこの抵抗率の上昇はキャリア密度の変化によるのではなく、ランダム散乱によると考えられます。キャリア密度が変わらないので、自由電子乃Drude則による反射率はあまり変化がないのではないでしょうか。熱伝導率は電気伝導率に比例するので、アモルファスでは結晶相より低いと思います。
(3)温度上昇にともなう見た目・原子配列の変化
温度上昇がゆっくりだと、徐々に結晶化が進むと思います。見た目の変化はあまりないと思います。
(4)(5)圧延・切断などの機械的処理で何が起きるか
やったことがないので、わかりませんが、圧延や切断にともなって温度上昇があれば結晶化が促進されると思います。
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Date: Mon, 3 Mar 2014 09:32:29 +0900
AA; 佐藤先生、Iです。
迅速で丁寧な回答をしてくださったのに御礼が遅くなりまして申し訳ありません。
ご回答の中にありました専門用語を調べていて遅くなってしまいました。
知人がアモルファス金属を加工する機会があり、仕事中誤って加工物を弾き飛ばしてしまったそうです。
知人は普段ステンレスや鉄鋼を扱うことが多いのですが、「見た目はステンレスに似ているのに、床に激突してもキズがつかず非常に驚いた」という話を聞いて興味が湧き、今回の質問に至った次第です。
知人にアモルファス金属の強さの根拠について説明してみせたかったのですが、私がアモルファスを語るには基礎的な部分の理解がまだまだ足りないようです。
先生のお言葉でいくつか探索するべきルートが拓けたのでそちらを勉強してこようと思います。
壁に当たったときはまた先生を頼ってしまうかもしれません。そのときはどうかよろしくお願い致します。
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1320. 銀950の熱伝導率と熱膨張係数
Date: Wed, 16 Apr 2014 12:03:29 +0900Q: 佐藤先生, お世話になります。D社の山田です。
HPを見て問い合わせをしております。
Ag(銀)950というのがありますが、この材料の熱伝導率と熱膨張係数を知りたく思っています。
放熱板などへの適用を検討しています。
文献などの紹介でも結構です。
宜しくお願いします。
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Date: Wed, 16 Apr 2014 13:59:15 +0900
A: 山田様,佐藤勝昭です。
申しわけありませんが、私は、950銀(Ag95Cu5)合金の熱伝導率/熱膨張係数のデータを持ちあわせません。
・丸善の金属データブック(2008年)によれば、AgにCuを5at%添加したときの電気抵抗率は純粋のAgより25%くらい高いようです。
ヴィーデマン=フランツ則 によれば、金属の熱伝導率は電気伝導率に比例するので,純銀より25%程度低いと推察されます。
・Ag-Cu合金の線膨張係数については手がかりが全くありません。5%くらいのCuの固溶では格子定数も殆ど変化がありませんから、 950銀の線膨張係数は銀の値を使っておいてよいのではないでしょうか.
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Date: Wed, 16 Apr 2014 14:21:57 +0900
AA: 佐藤先生, お世話になります。
早速のご回答、誠に有難うございます。
助かりました。
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1321. 金属の斜め入射反射光の色味
Date: Thu, 24 Apr 2014 11:33:44 +0000Q: 佐藤先生
始めまして、K社のBと申します。HPを見て、問い合わせをさせていただきました。
お手数ですが、下記ご回答いただければ幸いです。
(大変恐縮ですが、Webで公開する場合には社名・氏名ともに匿名でお願い致します)
金属の反射メカニズム について2点、質問をさせていただきます。
(1) 金属に対する、光の斜め入射に関する件
「金属では、光の入射角度が垂直から徐々に浅くなるにつれて、P偏光の反射率はいったん減少後に増加して (誘電体におけるブリュースタ角の考え方)S偏光の反射率は単調増加する」という認識ですが、そのときの色味はどうなるのでしょうか?
机上検証では、
同様に、入射角度が垂直から徐々に浅くなるにつれて、
P偏光は 常に変わらず金属の色味(金属光沢) が見えて (金であれば金色)
S偏光は 金属光沢が徐々に薄れて、光源色が見えるようになる
という感触を得ています。
ただし、
金属の反射は、自由電子の波長選択性をもった振動が関連しているため、
金属の色味(金属光沢)を持つという認識であり、
「S偏光の反射で光源色が見えるようになる(金属光沢がなくなる)」のには違和感を持っております。
(2) 凹凸のある金属が白っぽく見える件
・紙やすりで荒らして、凹凸のある銅盤 (数10マイクロメートルオーダの凹凸)
・バフ研磨して、表面が滑らかな銅盤
これらを比較すると、前者の、凹凸のある方が白っぽく見えます。
金属の「拡散反射」も、結局は自由電子が関連する「正反射の集まり」と考えているため、
凹凸があっても、変わらずに金属の色味(銅色)が見えるかと思ったのですが、そうは見えません。
これは何故なのでしょうか?
推測ですが、上記(1)とも関連しているのではないでしょうか。
目に見える光は、斜め入射光の集まりであり、
斜め入射だと、S偏光では徐々に光源色が見えるようになり、結果として全体的に白っぽく見えると考えております。
これらの仮説を検証する手立てがなく、恥ずかしながら社内にノウハウもございません。
お忙しいところ恐縮ですが、ご教示いただければ幸いです。
以上、よろしくお願い致します。
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Date: Mon, 28 Apr 2014 01:14:22 +0900
A: B様、佐藤勝昭です。
お返事が大変遅くなりましたことをお詫びします。
これまで、斜め入射反射において、スペクトルのことまで考えていなかったので、実際にどうなるかを計算してみました。
計算式は、光の反射メカニズムの拙文を参照して下さい。
Cuの反射スペクトル、計算結果の図をご覧下さい。
緑線はp偏光、青線はs偏光、赤線は平均値(無偏光)です。
p偏光のスペクトルは、600nmより短波長の反射率が入射角と共にどんどん低下します。
この結果偏光子を使ってp偏光だけを見ると、だんだんはっきりした赤になっていきます。
これに対し、s偏光のスペクトルは入射角が増加すると共に、600nm以下の波長の反射率が 高くなるので、偏光子でs偏光だけをみると銀色っぽくなります。いわば普通の鏡に近くなります。
無偏光の場合も、入射角とともに、短波長の反射率が高くなって、白っぽい赤色になるはずです。
金属光沢がなくなるのは別の理由によると思います。それは、表面の凹凸による散乱が 斜め入射ほど大きく影響するからです。また、凹凸が大きい程、入射角が大きな反射光の 成分の影響が強くなるため、白っぽくなるのです。
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Date: Mon, 28 Apr 2014 09:23:38 +0000
Q2: 佐藤先生
お世話になります、K社のBです。
ご連絡ありがとうございます。
私の周りの者も含め、先生の迅速なご対応に、ただただ驚き感謝している次第です。
さて、ご返答いただいた件ですが、今回新たに反射スペクトルを計算いただいたようで誠にありがとうございます。
確かに、銅のP偏光は入射角とともに赤みを増していくように見えます。
机上実験の感触通りの、技術的な裏づけを示していただき、また、これまで手当たり次第に得ていた知識が、すっと繋がったようで、大変すっきり致しました。
ちなみに、計算式としては、紹介いただいたPDFの(33)式で合っていますでしょうか。よろしくお願いします。
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Date: Mon, 28 Apr 2014 20:06:14 +0900
A2: B様、佐藤勝昭です。
確かに資料の式(33)で計算しました。
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Date: Thu, 8 May 2014 02:49:06 +0000
AA:佐藤先生
お世話になります、K社Bです。
ご連絡遅れ、申し訳ございません。
ご回答ありがとうございました。
今後も、不明点あれば質問させていただければ幸いです。
以上、取り急ぎになりますが御礼のみにて失礼致します。
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1322. Mgドープ窒化ガリウムに関する質問
Date: Tue, 13 May 2014 16:09:24 +0900Q1: 佐藤勝昭 先生
先生の「物性なんでもQ&A」を拝見し、メールさせて頂きました。
私はK社のS*と申します。GaN関係の開発を行っております。
私自身は化合物半導体のエンジニアです。ちなみにこの道10年ほどです。
常々佐藤先生のHP、講義資料などを拝見し、いろいろ勉強させて頂いております。
今先生のコンテンツを含め、色々なチャネルを活用してもどうしても解けない問題に 直面しており、先生のQ&Aのコーナーにて、質問させて頂こうと思った次第です。
お時間頂けましたら幸いです。
質問はMgドープGaNで見られます、奇妙な現象についてです。
【MgドープGaNに現れる不規則パターン】
現在当方ではMgドープGaNを調べております。調べる際に標準としているエピ構造は、c面サファイア上のc面GaNのヘテロエピで、2~3um厚のu-GaN層の上に250~500nm 厚のMgドープGaNというものになります(条件により膜厚が異なりますので幅を持たせて記載しました)。成長方法はMOCVD法で、自公転式の反応炉を用いています。
我々の条件でMgドープGaNを成長すると、表面に不規則形状のパターンが生じることがあり、それが今悩みの種となってます。
パターンは水滴ライクの小さい領域から成っていたり(図1)、比較的広い領域から形成されていたり(図2)、円弧を描く筋状だったり(図3)と、いろいろな様相を示します。
3番目の円弧状パターンは不規則とは言えないかもしれません。基板研磨でこのようなパターンが出来そうなので、今のところ基板に起因するパターンを引き継いでいるのではないかと推測してます。
いずれにしましてもこのパターンは、肉眼及び微分干渉顕微鏡で観察可能で(図1)、微分干渉顕微鏡による観察から、パターンは表面の高低差に起因していることが分かってます。
MOCVD法の成長原理から、結晶そのものに何らかの原因が無ければ、このようなパターンの高低差が生じることは考えにくいと思います。
再現性については、パターン形状はまちまちですが、ある条件下で成長すれば必ずこのパターンは出現します。
(図1) |
(図2) |
(図3) |
(図4) |
【極性仮説】
現在の我々の予想は、このパターンは極性の違いに起因して生じるのではないかと考えております。
ご存知のようにウルツァイト型結晶であるGaNは、中心対称のない結晶であり、c軸方向に+/-の極性があります。
一方、GaNにMgを高濃度でドープすると、極性が反転するという文献が幾つかあります。ちなみに我々のサンプルでは20乗前後でドープしてますので、高濃度の部類に入ると思います。
また極性により成長速度が異なりますので、これらのことを総合的に判断すると、極性の違いによりパターンが形成されているというのは、合理的な解釈と思っております。
ちなみに極性を同定したいと思っておりますが、設備が無いため今のところ未実施です。
【謎の532nmピーク】
さらに奇妙なことがあります。PLマッピングを取ると、表面パターンに一致するパターンが観測されます(図2)。
スペクトルを参照すると532nmのピーク強度の違いによるコントラストと分かります。つまりパターンを構成する2相のうちの一方は532nmピークが強く、もう一方は弱いということです。
PLの励起光源はYAG1/4波長であり、532nmは丁度その倍です。そのため非線形光学効果がまず最初に浮かびましたが、c面に垂直にレーザー光を照射しているため、これは原理的にはないと考えられます。
【光源に含まれる532nmの反射?】
次に考えましたのは、光源に含まれる532nm光の反射です。あるレーザーの専門家から、YAG1/4波長の光源は幾らかの1/2波長(つまり532nm)を含むということを聞きました。
そこでサファイア基板のみのPLスペクトルを測定してみました。結果、532nmにピークがあり、その強度は約0.6a.u.でした(図4)。サファイアでは532nmの発光も吸収もないと思います。
つまりこのピークは、純粋に光源に含まれる532nm光の反射と考えていいと思います。
サファイアの屈折率(1.77)から反射率を計算すると約8%となりますので、光源を直接ディテクタで測定すると532nmの強度は7.5a.u.となると計算されます。
なお本質と関係ないとは思いますが、532nmピークがやけに幅が広い(528~537nm)のが気になってます。こんなにブロードになるのは普通なのでしょうか?
一方GaNの屈折率はこの波長で約2.4ですので、吸収が無いとすると反射率は約17%になるはずです。従いまして、特殊なことが無ければGaNでは7.5×17%=1.3a.u.程度の強度が観測されるはずです。
【532nm強度が弱すぎる矛盾】
ところが先に述べましたMgドープGaNは、532nmが強いときでもせいぜい0.1a.u.程度であり、予想される強度の10%にも満たないのです。しかも弱いときは532nmピーク強度はほぼゼロです。
つまり反射率が限りなくゼロに近いということになってしまいます。ちなみに通常のu-GaNでも532nmピークは非常に弱く、Mgドープに限った問題ではないようです。
最初532nmの吸収のせいかとも思いましたが、吸収があれば反射率はより高くなる(逆に言えば、特殊なことがない限り吸収がない場合が一番反射率が低い)と思いますので、吸収ではないでしょう。
(この考え正しいでしょうか?)
【ARコート効果?】
次に考えたのは、ARコート効果ですが、GaN/Sapphire界面の反射率はGaN/Air界面の反射率より一桁近く低いため、GaN/Air界面反射をほぼ打ち消すような状況にはなり得ないと結論しました。
【表面粗さ?】
次は表面粗さです。これについては他にデータがあります。我々のPL測定装置では、白色光の薄膜干渉を用いた膜厚測定も可能でして、その際反射率を同時に測定する機能が付いてます。
その反射率の数値は(単位は不明ですが)サファイアで100、普通の鏡面の出ているGaNで230ぐらいを示します。サファイアとGaNの反射率比は2.2ぐらいですので、測定されている反射率の比と調和的です。
そして230の反射率を示すGaNサンプル(つまり十分平滑な表面)でも強い532nmピークが観測されることはありません。
【サンプルの傾き?】
あとはサンプル表面の傾きも考えられますが、膜厚分布の非常に良いサンプルの中心領域を考えますと、GaN表面はサファイア面に対して傾きようがないと思います。このような領域でも強い532nmピークは観測されないですので、傾きのせいでもないでしょう。 【質問1】 以上のように煮詰まってしまいました。まとめますと、サファイアのPLスペクトルから励起光源は比較的強い532nm光を含むことが予想されますが、この光源をGaNに照射したときは532nmの反射光が殆ど観測されない、ということになります。何故観測されないかが第一の質問です。あるいは反射という仮説が正しくないのでしょうか? 【質問2】 第2の質問は、表面パターンと532nm強度との関係です。私どもの極性仮説、及び反射仮説が正しいとすれば、極性により532nmの反射率が異なるということになります。
そのようなことはあり得るのでしょうか?光学的には極性の+/-は関係ないように思うのですが・・・。あるいはこれも極性仮説、反射仮説が正しくないのか?
以上の2点が質問です。何かお分かりになること、私の考察で間違っていることなどがありましたら、何卒ご教授下さい。よろしくお願い致します。
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Date: Tue, 13 May 2014 16:54:36 +0900
A1: S様,佐藤勝昭です。 メール有り難うございます。たしかに不思議がいっぱいですね。 (1)まず、GaN MOCVD膜のhillockの原因ですが、あなたの推察通り、極性反転領域(Inversion Domain)と考えてよいと思います。
ホモエピにおいてもhillockが観測されており、極性により成長速度が異なることが原因とされています。
たとえば、 J.L. Weyher et al., Morphological and structural characteristics of homoepitaxial GaN grown by metalorganic chemical vapour deposition (MOCVD), J. Cryst. Growth 204 (1999) 419-428
(2)サファイヤで見られる532nm光の反射がGaNをつけたときに帰ってこないのは,GaNの膜厚が1/4波長付近にあって往復で1/2波長となってうち消すためです。
この532nmがYAG励起光に含まれる532nm光かどうかは、励起波長(216nm)のみを透過するフィルタをかませれば,なくなることで確かめられるはずです。
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Date: Tue, 13 May 2014 18:16:52 +0900
Q2: 佐藤先生、早速のお返事、誠にありがとうございました。
(1)の文献とフィルタの案、有難うございました。
参考にさせていただきたいと思います。
以下、もう少しお付き合い頂けますでしょうか。
(2)については、私も反射防止膜(ARコート)のような効果は検討しましたが、 以下の理由で除外しました。
(図5) |
(図6) |
(図7) |
1.私どものエピ構造では、サファイア上のGaNの膜厚はMg-GaNとu-GaNを合わせて2.25~3.5μmであり、532nmの1/4波長とは一桁違うこと。GaNの膜厚は下地のu-GaNが2~3μmぐらい、Mg-GaNが250~500nmぐらいです。
Mg-GaNとu-GaNの界面は屈折率差がほぼないでしょうから無視すると、サファイア上に2.25~3.5μmの厚さのGaNが乗っている構造になります。
532nmにおけるGaNの屈折率は2.4ぐらいですので、GaN中の532nm光の波長は222nmぐらいになります。そうすると光路差は膜の往復で波長の20倍以上になります。
2.GaN膜表面の反射率約17%に対して、GaN/Sapphire界面で反射してくる光の強度は、界面の透過率も考慮すると入射光比で1.6%程度となり、オリジナルの反射波の1/10程度の強度でしかなくなること。
仮に膜厚が1/4波長としても、GaN/Sapphire界面で反射してきた光は強度が弱すぎて、GaN表面で反射した光を打消すことは出来ないと考えます。
ちなみにAir/GaN界面では位相がπずれますが、GaN/Sapphire界面では位相がずれないため(Sapphireの屈折率はGaNより小さい)、1/2波長の膜厚が最小反射強度を与える膜厚だと思いますが、いかがでしょう?
いずれにしましてもGaN膜の反射防止効果が最大のときでも、反射波の強度は10%程度しか減少しないというのが私の結論です。
これは正しいでしょうか?
表面パターンは言わば膜厚差であるので、532nmの反射強度の強弱は付く可能性はあると思います。しかし膜厚は波長の20倍もあり、また絶対膜厚は条件により変わるので、極性と532nm強度の関係はランダムでなければならないと思います。しかし実際は、極性と532nm強度の関係は常に不変です。(添付パワーポイント参照下さいませ)
ですので、反射防止膜効果以外に、何か532nm強度に影響するメカニズムがあるのではないかと思案している次第です。
以上踏まえまして、アドバイス頂けましたら幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。
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Date: Thu, 15 May 2014 00:09:35 +0900
A2: S様、佐藤勝昭です。
本当によくわかりませんね。極性反転が関係するとすれば、下記の様に推察できます。
極性の逆転が起きている領域Bでは、u-GaN/Mg-doped GaNの界面にはチャージの蓄積があり領域Aにおけるu-GaN/Mg-doped GaN界面とは異なります。
Aでは、Sさんの推測のように界面での反射はありませんが、これに対して領域Bでは自由電子プラズマがありこれによる反射があると考えられないでしょうか。
このためB領域ではMg-doped GaN膜が反射防止膜として働くことは十分考えられます。
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Date: Thu, 15 May 2014 12:40:41 +0900
Q3: 佐藤先生、深夜にも関わらず、メール頂き感激しております。
なるほど、極性反転界面のチャージの蓄積は思いつきませんでした。非常にあり得そうなシナリオですね。Mg-GaNについては、これで納得しようと思います。
残っている疑問は、u-GaN単層のみがサファイアに乗っている単純な構造でも、532nmの強度は通常弱いのです。(強度はほぼゼロ)
何らかの理由でチャージの局在はあるかもしれませんが、反射防止膜として機能する位置にいつも蓄積するとも思えないですし。一方で、サファイアのみで532nmピークが非常に強く出ることも紛れもない事実ですので、悩みます。
反射率スペクトルの測定が出来ればベストだろうと思いますが、なにぶん設備や予算が限られ、ままならないのがもどかしいです。
ともかく、やはり光源に含まれる532nmの強度を、いま一度確認してみようと思います。
何かアイデアを思いつかれましたら、是非ご教授いただきたいですが。
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Date: Thu, 15 May 2014 14:41:00 +0900
A3: S様,佐藤勝昭です。
u-GaNにおいて、532nm反射が弱いのはふしぎですね。
それを考慮すると,532nm光が1.06μm光のSHGという可能性も捨てきれません。
サファイヤc面やGaNc面結晶バルクからは対称性からSHGはでないはずですが、表面では対称性が破れているので表面でSHGがでないとは言えません。
(Feはbccで対称性からバルクのSHGはありませんが、表面による磁化依存のSHGが観測されます。)また研磨によって結晶性が乱れSHGがでるとも言えるでしょう.
一方,u-GaNエピ膜は結晶性がよく本来SHGはでないし、界面もきれいなのでSHGはでない。
上に摘んだMg-doped GaNが10^20ものMgがはいっているので,結晶性が劣り,u-GaNよりは強いSHGがでる.さらに反転領域では、界面に電荷層が生じ,対称性が破れるためSHGが出る。
この仮説が成立するためには,レーザから1.06μmの光が漏れていることが前提になります。
この点に関しては赤外線カットフィルタの使用によって防げるはずです。 以上,再検討して下さい。
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Date: Thu, 15 May 2014 15:01:04 +0900
Q3: 佐藤先生、何度もメールでご回答頂き、誠に有難うございます。感激です。
なるほど、最表面の非対称性による非線形光学効果というのもあるのですね。それでしたら納得です。
逆に言えば、消去法でそれしかないということでしょうね。
ちなみに励起光の266nmの倍波長が非線形光学効果で生じるということも考えられますでしょうか?
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Date: Thu, 15 May 2014 21:12:03 +0900
A3: S様,佐藤勝昭です。
パラメトリック・ダウンコンバージョン(parametric down conversion)ですね。原理的にはありうると思います。 ブラジルの物理研究所のホームページにありますように,ある条件を満たせばエネルギーの高いフォトン(4.66eV)がエネルギーの低い2つのフォトン(エネルギーの和が4.66eV)を発生することが出来ます。
2つのフォトンはエネルギーが同じでなくてもよいので、巾を持ったものになります。以前のあなたのメールで巾が広いのが気になるとご指摘されましたが、パラメトリックダウンコンバージョンであれば理解できます。
これについては、この道の専門家である東北大の片山先生を紹介しますので、そちらにお尋ねください。
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Date: Thu, 15 May 2014 23:13:07 +0900
AA: 佐藤先生、度々のメール有難うございます。2倍波長の発生もありうると言うことですね。
また、片山先生のご紹介有難うございます。先生とのやり取りを整理し直した上で、お伝えしアドバイスを請おうと思います。
一つ思いついたのですが、最表面の構造が問題とのことですので、サファイア基板を水素アニール処理したもののスペクトル測定をしてみようかと思います。
何か変化があれば面白いですね。
この度は本当に親切にご対応頂き、有難うございました。
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[参考](片山准教授からの回答
Date: Sat, 17 May 2014 03:20:02 +0900
東北大の片山です、お返事遅れまして申し訳ございません、ご連絡有り難うございます。下記、当方の経験からコメントさせていただきます。 |
①波長532nmに検出される光の原因について A)レーザからの2倍波成分 S様・佐藤先生のお考えの通り、YAG4倍波の光源の種類によっては2倍波(532nm)のコヒーレント光が存在します。というのは、4倍波だけ を高強度発生する目的の高調波発生ユニットでは、1倍+3倍の和周波数で4倍波を発生し532nmを介在しないものもありますが、2倍波も利用で きる多くの仕様のレーザユニットですと、2倍+2倍で4倍波を発生するために必然的に532nmの光が混在します。後者の場合で特に、非線形光学 結晶の角度チューニングが狂うと、変換効率が顕著に低下し、二段目の結晶を励起する532nmが抜けてきます。また、安価なKDP結晶を用いる場合 は、266nmを多少吸収して発熱により位相整合条件がずれますので、その場合も特にレーザ立ち上げ初期には532nmの光が抜けやすくなる製品が多 いとメーカの方に伺ったことがあります(BBO結晶を用いると温度変化に鈍感になるのでこれを防げるそうですが、宝石より高いです)。 266nmだけを利用する場合、通常はハーモニックセパレータ(誘電体多層膜ミラー)を用いて532nmを除去するのが得策ですが、一つ5万円ほど と高価でかつ角度がずれると2桁も落とせなくなるので、ウェッジプリズムを用いて266・532nmの二波の光路をより分ける(屈折率分散を利用しま す)のが、最もお手軽かと思います。 B)分光器内での高次回折 Facebookで岩谷先生がご指摘くださったように、グレーティングを用いた分光器内では、望みの波長である1次回折に加えて、比較的高強度な2 次(波長で倍)、3次(3倍)…と高次にあたる角度への回折も起こります。 メーカ製のPLマッピング装置であれば上記の事象を踏まえてあらかじめ適切なオーダーソーティングフィルタが入っているものと思いますが、そ うでない場合は、266nmをカットし測定したい波長域だけを通すフィルタを挿入する必要があります。 参考まで、お使いになった分光器のスペックをお教え頂けますと幸いです。OceanOpticsなどの20万円ほどのコンパクトなファイバマルチチャネ ル分光器でも、購入時に指定すればリニア検出器の特定の箇所に複数のオーダソーティングフィルタを設置し、上記の高次回折を全く気にせずに測 定できる製品があります。それらが分光器内に設置されていない場合でも、シグマ光機などで購入できる安価な色ガラスフィルタで266nmをカットす れば問題無いはずです(余り紫外ぎりぎりのフィルタはありませんが)。ちなみに、下記URLのようなカットオフ比の高い誘電体多層膜ミラーを購入 するのも良いのですが、高価なうえ、透過波長域でも透過スペクトルに周期的なフリンジが重畳することと予期せぬ波長で長波長側のカットオフと なる懸念がありますので、ウェブサイトでダウンロードできる透過スペクトルの数値データを確認してからのご購入をお勧め致します。 |
②波長532nmに検出される光の半値幅について こちらもお使いになっている分光器のスペックをお調べ頂くと回答できるのですが、ポータブルファイバ分光器のような短い分光器長のものです と波長分解能はさほど良くないですので、実際は狭線幅であるレーザー光を測定しても、例示頂いたスペクトルのような太いピークとなって観測さ れる場合はよくあります。 ちなみに当方、光パラメトリック下方変換(OPDC)についてもいくらか測定をしておりますが、特段に共振器を組まない限り、単膜における上記 過程は通常のコヒーレンス長からするとその線幅はかなり広くなり、かつシグナル・アイドラの二光子を532nmに縮退させるにはかなり厳密な位相 整合の努力(膜厚均一性や再現性)が必要となるはずですので、拝見したピークは残念ながら(スペクトルを拝見するまで、実はちょっと期待して おりましたが)これが原因ではなさそうです。 ただし、他の項目すべてに該当せず、やはりOPDCであろうということで必要であれば、当方SHGやOPDCの入・出射角依存性を測れるゴニオメータ と266nmのパルスレーザがございます(以前佐藤先生にお世話になり、一式揃えさせて頂いた装置です)ので、反射SHG等の測定を行ってみてもよ いと思います。強くたたけば、反転対称性の破れさえあれば何でも出ます。 |
③薄膜干渉効果・AR効果について 「1/4波長で反射が打ち消し」と書かれている部分がありますが、基本的に「(N+1/4)波長で反射が打ち消し(N=0,1,2…)」かと思いますので、ラフネス次第では干渉の効果がでてもおかしくないとは思います。 ただし以下の⑤でコメントしますとおり、干渉というよりは、多分にGaN表面・サファイア基板裏面における散乱の効果が大きいものと考えており ます。 |
④格子の極性反転について こちらも皆様のご議論の通りだと察します、Mgのδドープやヘビードープにより、Ga極性がN極性に反転する事象はよく報告されています。一方、 当方の研究室では永らく、Ga極性膜を介さずに直接サファイア上にN極性膜を成膜しておりますが、成長前にサファイアを窒化することがN極性化 のポイントですので、GaNの1000~1100℃での成長前のプロセスシーケンスについても、基板が部分的に窒化されてしまっていないかの検討が必要か と思います(目的がGa極性であることを前提としております。またud-GaNの極性もチェックされると良いかと思います ) なお簡便な極性判定法としては、濃度4~8mol/l、温度40℃程度のKOH水溶液中に数分~30分程度浸漬するだけで、N極性面は容易にエッチング されピラミッド状のモホロジとなります(SEM観察が良いと思いますが、目視でもざらっと白濁するはずです)ので、お試し頂けますでしょうか。 本研究室では、KOHペレットは潮解し、いちいち秤量するのが手間ですので、試薬会社から瓶詰めの濃度の決まった水溶液を購入して使用しており ます。一方、上記エッチング条件では、Ga極性膜はどれだけ成膜条件を外しても(常識の範囲ですが)ほぼエッチングされません。 |
⑤波長532nmに検出される光強度の面内での不均一性について まずお使いのPLマッピング装置における、レーザー光の入射角度と、PL光の検出方法を教えて頂けると幸いです。当方が使用していた装置ですと、対物レンズにカセグレン鏡を用いた反射光学系でしたので同軸で入射し、励起光集光角と発光を検出できるアクセプタンス角ほぼ同じでした。平坦で鏡面反射が多い試料表面ほど、励起光が検出される強度が強くなるケースにあたります(もともとラマン用に設計しましたので)。 一方、深紫外レーザで励起となると、励起光は発光検出レンズとは異なる軸で斜入射するケースが多いと思われますので、その場合は、試料表面 が平坦であるほど(領域a?)鏡面反射となるので集光系で検出するレーザ強度は減少し、逆に荒れるほど(領域b?)拡散反射・散乱光として検出系のアクセプタンス角度内に入る励起光の光量が増えます。 |
①の原因がAかBかによって解釈は代わるのですが、例えば。 B)もともと266nmの分光器高次回折が原因の場合 ・サファイア基板では、透明なので裏面サンドブラスト領域で散乱光発生・平坦なGa極性領域では、サファイア裏面からの散乱は(GaNの吸収により 到達せず)拡散反射光はゼロ、表面の散乱光もゼロ・荒れたN極性領域では、サファイア裏面はゼロだが、表面の散乱大・上記の高次回折として、266nmの散乱光が532nmに観測される A) もともとレーザに含まれる532nmの光が原因の場合 ・サファイア基板では、表面平坦なので鏡面反射光検出 ・平坦なGa極性領域では、表面平坦で鏡面反射光検出 ・荒れたN極性領域では、表面で散乱され鏡面反射光が顕著に減少 即ち、違いは領域aとbのどちらが荒れているかにかかってきますので、SEMかAFMでのもう少し微視的なモホロジ観察をされると結論に至るように 察します。 |
⑥キャリア濃度について 実は当方この点について興味深く思うのですが、MOVPE成長でN極性GaNのp型化に成功したグループは当方の研究室とUCSBだけで、先日弊室の谷 川より電気特性・活性化エネルギ等について評価した結果をJJAP誌に投稿させていただきました(UCSBは電流注入発光できたのでp型のはず、とい う言及に留まっております)。もしN極性化したドメインがp型伝導かつ低抵抗な部位となったとすると私どもの結果と一致しますが、N極性面はMg の取り込み効率がGa極性面より高いと同時に、酸素などドナー不純物も更にたくさん取り込みますので、補償によりなかなかp型化しません。 |
⑦図1のモホロジについて 〔※できればスケールバーを表示下さい。〕 ヘビードープにより発生する極性反転ドメインのモホロジについてはあまり見たことがありませんが、水滴状のモホロジを見るとこと、一度Gaド ロップレットが析出した後に窒化されてGaNと成ったようにも見えます。低温緩衝層の成膜時にアンモニアが不足しGaが析出していないかどうかにつ いてもご確認いただけますでしょうか。またGa極性とN極性のGaNの最高成長可能温度も若干差があるとの報告がありますので、サセプタの熱電対 温度や放射温度計温度ではなく実温1100℃を大きく越えて成長していないかと、いずれかのタイミングで基板温度が高いにもかかわらずアンモニア ガスフロー無しとなっていないかについても、ご確認頂けますと幸いです、 また、本研究室の松岡教授はノマルスキ像だけでだいたい成長条件のずれが分かりますので(どちらの極性も)、もしよろしければ基板のオフ角度とその方位、成膜条件等についても併せてお教え頂ければ、相談してみますので宜しくお願い致します。 (メーカー様ということで、多分に現状のモホロジで大変お困りかと思い ますので、本務ということでなければ非線形光学過程については多少後 にまわし、御社でまず必要な平坦膜を作製できる旨い条件を探すお手伝 いするのが先決かと思います。) 取り急ぎです、ご検討いただけますようどうぞ宜しくお願い申し上げます。 |
1323. 金のナノロッドの光学応答
Date: Wed, 18 Jun 2014 14:59:52 +0900Q: 佐藤先生
はじめまして、東工大の修士1年の金沢と申します。
先生のHPを拝見させてもらい、今回、質問を投稿させて頂きます。
下記の内容についてご回答頂けると幸いです。
1.金のナノロッドや回転楕円体など、異方性の構造をもつナノ粒子に光を入射した際、入射光の角度を変えていくと、 これらのナノ粒子の光吸収断面積や散乱断面積といった光学応答は変化するのでしょうか?
先行研究等あまりされていないような内容で、私の見解としては、やはりある角度で吸収が最大になる角度が 存在するのではないかと考えております。
佐藤先生のご見解をお聞かせ願いたいと思います。
2.また、仮にある角度での光吸収のピーク等が存在するのであれば、その角度で光吸収が最大となる原因をお聞かせ願いたいと思います。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
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Date: Wed, 18 Jun 2014 19:04:09 +0900
A: 金沢君,佐藤勝昭です。
修士論文の研究ですか?本来,あなたの指導教員か先輩に聞くべきでしょう.
先行研究ありますよ。プラズモニックマテリアル、メタマテリアルなどの世界で多くの研究があります。
入射角依存性の論文の例として,添付ファイルを参考にしてください。
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1324. 燃焼管内で使えるミラー材料
Date: Mon, 23 Jun 2014 16:43:01 +0900Q1: 佐藤勝昭先生、E*社 O*です。
これまで難題に当たった時はしばしば「物性なんでもQ&A」を参考にさせていただきました。
此の度は、高温燃焼筒中での白金ミラー等の反射率についてご教示をいただきたく、以下におたずねする次第です。
ガソリン燃焼雰囲気内での各種ラジカルの動向を調べるため、波長2.6μm、3.4μmでの吸光度を計測します。
燃焼筒内の発光部と受光部の中間に平面ミラーを置いて光線を往復させ、光路長を稼ぎます。
ミラー周囲の温度は800-1000℃と見込まれます。
このミラーをインコネル601で製作した際は、1時間以上経過すると表面に青灰色の硬い被膜が生じて反射率が次第に低下しました。
また、白金で製作した際は、電気炉内での実験では数時間経過しても問題が無かったのですが、燃焼筒内では30分で表面が曇って反射率が急速に低下しました。
この曇りは白金の触媒作用による生成物のためかと想像しますが、詳細はわかりません。
質問:
① 上記以外に高温での表面反射率がより良く保たれる物質があるでしょうか?
② これらの表面反射率低下を防ぐ方法があるでしょうか?
以上、何とぞよろしくお願い申し上げます。
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Date: Tue, 24 Jun 2014 13:02:17 +0900
A1: O様,佐藤勝昭です。
① 上記以外に高温での表面反射率がより良く保たれる物質があるでしょうか?
800-1000℃で酸化しないのは金です。その証拠にGold Furnaceという電気炉が
市販されています。http://www.motoyama.co.jp/furnace/gold.htm
② これらの表面反射率低下を防ぐ方法があるでしょうか?
どんな反応が起き,どんな物質ができているのかがわからないと対策の打ちようが
ありません。まずは、それを追求して,それぞれにたいする対策を考えるべきです。
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Date: Tue, 24 Jun 2014 16:43:43 +0900
Q2: 佐藤先生
ご回答ありがとうございました。
①について重ねておたずねいたします。 ご面倒をおかけしますが、よろしく お願い申し上げます。
① 金については融点1063℃とは言え周囲温度がかなり近くなることに不安が
あります。 (SUS板に金薄板を融着したテストでは加熱後表面が粗くなり
使えませんでした。 結晶粒粗大化?)
Au-Pd-Pt合金(例えば添付の陶板焼付用合金 KIK:石福金属製)を採用し
た場合、融点(固相線)が1200℃くらいに上がると期待されますが、800-
1000℃での表面反射率、耐酸化性、触媒の性質などがどのようになると予
測されるでしょうか?
② の生成物質が何かを調べることを検討します。
酸化膜や不働態層であっても、それが対象波長を良く反射してくれればOK
なのですが、これまでのところそうなりません。
以上
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Date: Tue, 24 Jun 2014 18:19:46 +0900
A2: O様,佐藤勝昭です。
① 金ではダメですか。Au-Pdは歯医者で使う合金ですね。比率が書いて
ないのですが、Pdが多いと触媒作用があるかも知れません。
触媒作用で物質が合成されて付着することがなければ、高温になっても
反射率に大きな変化はないと思います。ガソリンに硫黄分があると
表面がやられる可能性があります。
② はじめから薄い酸化物保護膜で金属を覆っておけば、赤外の反射特性は
保たれて腐食には強くなるのではないでしょうか.
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Date: Tue, 24 Jun 2014 19:30:42 +0900
AA: 佐藤先生
再度のご回答ありがとうございました。
金及び金合金での検討を進めてみます。 酸化物層を保護膜として機能させ、且つ反射(透過)性が保たれるとたいへん
ありがたいです。 セラミックコーティングなどを含めて可能性を調べてみ
たいと存じます。
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1325. 金属光沢の説明
Date: Sun, 6 Jul 2014 00:26:31 +0900Q1: 佐藤勝昭 様
はじめまして。
私は愛知県で高等学校の教員をしておりますIと申します。
金属光沢を分かりやすく生徒に伝えようと思い、学術的な背景を調べる中で先生のHPにたどり着きました。
HP内の物性工学概論(2006)の第3回の資料に、束縛された電子についてローレンツの式を用いての説明がありますが、 この説明の解釈について、またそれによる金属光沢の色味についての説明は、以下の解釈で正しいのでしょうか。
①束縛された電子は内殻電子のことである。
②ゆえにローレンツの式が適用される電子系とドルーデの式が適用される電子系は別々の電子系として議論してよい。
③バンド間遷移についても同様に解釈して、固体金属の内殻電子についてはバンドギャップが絶縁体のように大きいと考える。
④また、そのバンドギャップのエネルギー差が誘電率の急落に対応している。
⑤よって内殻電子のバンドギャップが大きい一般的な金属では銀のような金属光沢を示すが、
金や銅などはそのバンドギャップが比較的小さく、可視光域の光を吸収するために呈色する。
私の調べた範囲では、以上の内容が一番しっくりくるのですが、そのような解釈による説明は見当たらなかったで、 質問させていただいた次第です。
おそらく束縛電子についての解釈と、バンド間遷移についての私の理解が乏しいことによる質問になりますので、この辺りを詳しくご教授願いたいと思います。
また、花村榮一「固体物理学」のバンド間遷移による金属プラズモンの説明を読んで理解を深めようと思ったのですが、
⑥先生の仰るローレンツの式による束縛電子の影響は、バンド間遷移の電子分極への寄与と考えて差し支えないのでしょうか。
質問は以上です。お忙しい中とは思いますが、よろしくお願いします。
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Date: Sun, 6 Jul 2014 00:55:03 +0900
A1: I様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。ローレンツ計とドルーデ系が別々の電子という点は、I様の解釈でOKですが、 束縛電子についてやや誤解がありますので、訂正しておきます。
物性工学概論において束縛電子モデルを使ったのは、バンド間遷移による価電子の励起の寄与をローレンツモデルで扱うという意味で、 束縛電子と表現したわけで、内殻電子の励起では決してありません。内殻電子の励起はX線の領域に来ます。
金属においてもバンド間遷移が考えられ、実際Auのプラズモン周波数はAuの5dバンドからフェルミ面への遷移の周波数に相当します。
スペクトルは量子力学を用いた計算でも、近似的にローレンツ型の重ね合わせになりますので、古典的な束縛電子モデルを使っても、 スペクトルを近似するには差し支えないのです。
これについては、トライボロジスト誌に書いた解説「金属の色と金属光沢」をお読みください。
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Date: Sun, 6 Jul 2014 02:50:10 +0900
Q2: 佐藤勝昭 様
夜の深い時間にもかかわらず、素早い返信感謝いたします。
先生の説明によって私の理解が少しクリアになりました。
バンド間遷移による価電子の励起の寄与をローレンツモデルで扱うという意味で、束縛電子と
表現したわけで、内殻電子の励起では決してありません。内殻電子の励起はX線の領域に来ます。
金属においてもバンド間遷移が考えられ、実際Auのプラズモン周波数はAuの5dバンドからフェルミ面への遷移の周波数に相当します。
つまり、5d軌道の電子も金属中ではバンドを形成しており、非局在化してい ないために固有のバンドギャップを 持つが、その軌道内のバンドギャップのエネルギーは大きく、X線のエネルギーに相当している。
5dバンドの価電子帯の電子は、6sバンドのフェルミ面に励起することができて、これをバンド間遷移と表記している。ということでしょうか。
また、お示しいただいた試料中の鉄の項目についてですが、鉄のバンド間遷移のエネルギーは金や銅に比べて 低く、可視光域の全領域にわたって価電子による反射を低下させると考えるのは不適当なのでしょうか。
ずうずうしくも新たに質問させていただきますことお許しください。
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Date: Sun, 6 Jul 2014 08:54:31 +0900
A2: I様、佐藤勝昭です。
私の説明が悪く誤解を招きました。Auの5d軌道は閉殻(M殻)を作っておりますが狭い(状態密度の高い)バンドを作っており、「M殻→フェルミ」の遷移は バンド間遷移と見なし、内殻遷移とは考えていません。
私が内殻遷移と言ったのは、「Auの5d軌道内のバンドギャップ間遷移」ではなく添付図に示したように、X線でK殻(1s)電子が励起されM殻から電子がK殻ホールに 遷移するようなものを指しております。
Feの3d軌道は幅の広いバンドを作っていて、Auに見られるような明確なエッジが見られません。さらにフェルミ面に有効質量の大きなd電子が混成しているので 自由電子プラズモンのダンピングが大きく、ε'が負の大きな値になることを抑えているので反射率が高くないのではないかと思います。
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Date: Sun, 6 Jul 2014 11:56:09 +0900
AA: 佐藤勝昭 様
返信ありがとうございます。
Auの5d軌道は閉殻(M殻)を作っておりますが、狭い(状態密度の高い)バンドを作っており、 「M殻→フェルミ」の遷移はバンド間遷移と見なし、内殻遷移とは考えていません。
私の解釈の中の「その軌道内のバンドギャップのエネルギーは大きく、X線のエネルギーに相当している。」という部分に誤解があるということですね。
内殻遷移についてはこの場合特に考える必要はなく、5d軌道に収容された内殻電子のフェルミ面への遷移を議論していると解釈しておけばよいのでしょうか。
Feの3d軌道は幅の広いバンドを作っていて、Auに見られるような明 確なエッジが見られません。
鉄の場合内殻電子が閉殻構造をとっていないことを失念しておりました。貴金属系ほど単純な議論はできなさそうですね。
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1326. 運動する点電荷の式を金属中に適用するには
Date: Mon, 30 Jun 2014 17:03:47 +0900Q1: 佐藤勝昭 先生: K*大学教員W*と申します.
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●(Lienard-Wiechertポテンシャル を経て求めた) 運動する点電荷がつくる電場を表わす
(添付のpdfファイルの4ページめの)式(13)は,
(暗に/当然に)「真空」中を運動する点電荷についてのものであると理解しますが,
この式(13) (or 添付のpdfファイルの考え方) を「金属」中を運動する自由電子がつくる
(金属内における)電場に応用することは可能でしょうか?
※(表層的に推測すると)
式(13)中の真空中での電磁波の伝搬の速さcを金属の複素屈折率(光学定数)n^ (=n+ik)
あるいは (複素屈折率の実部の)屈折率nを用いて
c → c/(n^)
c → c/n
の置き換えを行うのでは? と思ったのですがいかがでしょうか?
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見当外れの質問である場合は ご容赦下さい.
よろしくお願い申し上げます.
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Date: Sat, 5 Jul 2014 18:46:49 +0900
A1: 様、佐藤勝昭です。
お返事が遅くなって申し訳ありません。
ご質問の趣旨は、真空中で運動する電子に適用される電場の式が、金属中の環境を複素誘電率に
押し込めれば、そのまま適用できるかということでしょうか。古典的な電磁気学では金属中では
電界がないとしているので、ミクロな立場で固体物理学の考え方で扱わなければなりません。
金属中では、電子が電子の海の中を運動するので、多体問題になります。電子間相互作用をどう
扱うか。多体効果を取り入れた金属のバンド構造や電子散乱まで考えるとはたして複素誘電率に
おしつけて真空中で成立する式が適用できるのか分かりません。
いま、理論屋さんに問い合わせているところです。
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Date: Wed, 16 Jul 2014 16:43:22 +0900
A1': W様,佐藤勝昭です。
東工大理学部の村上修一教授に問いあわせていましたが、本日,下記のような回答がありました。
複素屈折率の周波数依存性の考慮が必要とのことです.
(前略)ご指摘のとおり、金属のバンド構造や電子散乱は特に複素屈折率の周波数依存性に大きく
影響を及ぼしますので、Lienard-Wiechertポテンシャルを適用する際に複素屈折率の周波数依存性を
入れる必要があると考えられます。
特にLienard-Wiechertポテンシャルを考えるということは非常に短時間の物理なので、電荷の運動に
対し周囲(他の電子、格子)がどのくらい速く反応するか、という問題が強く効くはずです。
格子はそんなに速く反応しないですが、他の電子は素早く反応するはずなので、複素屈折率は今考えて
いる周波数に大きく依存し、その周波数依存性を無視することはできないと思います。
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Date: Thu, 17 Jul 2014 13:44:11 +0900
Q2: 佐藤勝昭 先生 村上修一 先生、です.
大変おいそがしいところ回答下さりありがとうございました.
(もう少しだけ質問させていただいてもよろしいでしょうか?)
『複素屈折率の振動数依存性を考慮する』ということは,
(式(13) あるいは) 式(13)の直前の
E(r,t)=-∇φ(r,t)-{∂A(r,t)/∂t}
[※c → c/(n^) の置き換えを行った]
の両辺をFourier変換して 角振動数ω領域において
電場E(=E(r,ω))を求めるということでしょうか?
よろしくお願い申し上げます.
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Date: Thu, 17 Jul 2014 15:11:09 +0900
A2: W様,佐藤勝昭です。
『複素屈折率の振動数依存性を考慮する』ということは,c*=c/n(ω)にしなければならないということです。
(13)式をフーリエ変換するだけでは説明できないのではないでしょうか?
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Date: Fri, 18 Jul 2014 11:53:18 +0900
Q3: 佐藤勝昭 先生:
Wです.ご回答ありがとうございました.
昨日(20140717)の私からの質問は,
『複素屈折率の振動数依存性を考慮する』ということは,
(式(13) あるいは) 式(13)の直前の
E(r,t)=-∇φ(r,t)-{∂A(r,t)/∂t}
[※c → c/(n^) の置き換えを行った,
たとえば 金属として 銅を想定して
銅の複素屈折率スペクトルn^(=n^(ω))は
減衰項ありのDrude分散式に従うとする]
・・・ 式(13+)と呼ぶ
の両辺をFourier変換して 角振動数ω領域において
電場E(=E(r,ω))を求めるということでしょうか?
とすべきでした.
以下は, 「振動数依存性を考慮する」こと と「Fourier変換する」こと
の関係について 昨日先生にお聞きしたかったことを書きますが,
(意図不明)・(的外れ)・(基本理解不足)などであれば ご容赦下さい
.
(複素屈折率n^の分散式が既知であるとすれば 任意の角振動数ωについて n^の値が既知であり,)
ある(1個の)ωについて(も) n^の値は既知であり,そのn^の値を式(13+)の右辺に代入すれば
(式(13+)の両辺を(わざわざ)Fourier変換しなくてもそのまま)時刻t領域において あるωについて
(さらに 別の(いろいろの)ωについても同様に) 式(13+)の右辺が 見かけ上 計算できてしまうよう
に思えるのですが,そのような簡単なことをもって 振動数依存性を考慮したと言えるでしょうか?
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Date: Mon, 21 Jul 2014 14:51:52 +0900
A3: W様、佐藤勝昭です。 あなたのご質問が、あくまで古典的なLienard-Wiechertポテンシャルの近似の範囲で見かけの複素屈折率を使え
ないかということでしたから、ある周波数範囲のもとで、n(ω)を使ってもよいと答えただけです。
周波数に依存するということは時間依存をきちんと扱う必要があって、ご存知のように久保公式を使う必要があります。
このときに、現象として、電子との相互作用をどこまで取り入れるかということだと思います。村上先生のご指摘のように、
格子との相互作用と電子との相互作用では時間スケールが異なりますが、これを全て取り入れて久保公式で計算すれば、
誘電率、従って、複素屈折率の周波数依存性も全部表すことができるでしょう。 この計算は大変面倒ですが、Wさんが挑戦してみてはいかがでしょうか?
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Date: Wed, 23 Jul 2014 08:00:24 +0900
AA: 佐藤勝昭 先生:
K大・Wです.
お礼が大変遅くなり申し訳けございませんでした.
ご回答ありがとうございました.
先生からいただいた(考え方・キーワード)を (私の中で消化してから)
いま私が計算したい対象の系にどのように取り込むかを考えたいと思います.
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1327. 磁気光学効果における磁場の効果
Date: Sat, 19 Jul 2014 21:11:17 +0900 Q1: 佐藤先生、はじめまして私は京都大学3年の古賀と申します。
磁気光学効果における磁場の寄与について質問させて頂きます。
佐藤先生の著書「光と磁気」を読んでいて気になったことがあります。磁気光学効果とは、「ゼーマン効果(または交換分裂
)によってスピン状態が分裂し、さらにスピン軌道相互作用によって軌道状態が分裂することによって、左右円偏光に対する
遷移エネルギーに差が出る」現象であると解釈しています。
しかし、スピン状態の分裂が交換分裂によって起こるなら、外部磁場の効果が全く無いように思います。磁気光学効果は、
外部磁場が無くても起こるということでしょうか?
また、外部磁場によるゼーマン効果で軌道状態が分裂し、それによって磁気光学効果が起きるということはないのでしょうか?
(ゼーマン効果は磁気量子数と磁場の積に比例してエネルギーが変化する現象でもあるはずです。)
以上の2点についてお答えいただければ幸いです。よろしくお願いします。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 01:02:52 +0900
A1古賀君、佐藤勝昭です。拙著「光と磁気」をお読みいただき感謝します。
(1) 強磁性体における交換分裂では↑スピンと↓スピンが分裂し、 低温では↑スピンの準位にのみ分布するので磁界が必要ないように 思えますが、強磁性体の初磁化状態では、全体が磁区に分かれていて、 磁化が消えています。すなわち↑と↓が同数になっています。
これでは、磁気光学効果は出ません。
磁界を加えて磁気飽和させれば(単磁区になるので)磁気光学効果が生じます。アイソレータの磁石は、磁区を揃えるためにあるのです。
(2)遷移金属の軌道磁気モーメントは殆ど消失しているので、
これによるゼーマン効果は無視できます。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 02:00:20 +0900
Q2: 佐藤先生、夜分遅くに申し訳ありません。
古賀です。ご回答頂き、誠にありがとうございます。
(1)については納得しましたが、(2)についてまだ疑問に思うところがあります。大変恐縮ですが、もう一度ご教授頂ければ幸いです。
d電子の基底状態における軌道角運動量Lは0としてよいので、この状態において正常ゼーマン効果が起きないことは理解できます。
しかし、L=0の基底状態に左右円偏光が当たってLz=±1となったp電子的な励起状態では、やはりゼーマン分裂が起きるのではないでしょうか。
つまり、スピン軌道相互作用によってエネルギーが分裂するだけでなく、励起状態の軌道磁気モーメントと外部磁場による分裂も起こるのではないかと考えています。
この点についてお答え頂けると幸いです。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 10:48:33 +0900
A2: 古賀君、佐藤勝昭です。
勉強熱心ですね。自主的に勉強して、どんどん進んで下さい。
さて、ご質問の励起状態の軌道角運動量ですが、それは、十分に取り込まれています。
なぜなら、励起状態においては、Sはもはやよい量子数ではなく、Jがよい量子数になるからです。
p電子軌道の場合、Jz=+3/2,+1/2,-1/2,-3/2となります。
強磁性の場合、基底状態がJz=+1/2であれば、
右回り円偏光によって、+1/2→+3/2の遷移が許容
左回り円偏光によって、+1/2→-1/2の遷移が許容
となります
励起状態のJz=+3/2と+1/2のエネルギー間隔は殆どスピン軌道相互作用(3d系で500cm^-1のオーダー)
できまり、外部磁界のゼーマンエネルギーは、B=1Tにおいてもせいぜい数cm^-1のオーダーなので、
無視することができるのです。
なお、希土類の基底状態では軌道が生きているので、軌道のことを十分考慮する必要があります。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 19:50:37 +0900
Q3: 佐藤先生
古賀です。詳しい説明ありがとうございます。
計算してみると先生のおっしゃった通りになりました!
何度も申し訳ありませんが、もう一つ伺ってもよろしいでしょうか。
私はp軌道がスピン状態で分裂し、アップスピン状態にL=(0,0,±1)のスピン軌道相互作用、ダウンスピン状態にL=(0,0,±1)が
内積としてかかり(H=λS・L)、それぞれが2つずつに分裂すると解釈しています。
この4つの状態がそれぞれJz=+3/2,+1/2,-1/2,-3/2に対応するからJがよい量子数になる、と考えて良いのでしょうか?
「よい量子数」に対する理解が不完全なため混乱しております。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 20:39:17 +0900
A3: 古賀君、佐藤勝昭です。
量子力学で摂動論を学ばれたと思います。本当は、全ての相互作用を一度に 扱わなければならないのですが、スピン分裂>スピン軌道 として、スピン軌道 を摂動として扱うというのが、あなたの解釈です。
結果的には、状態をL単独でもS単独でも表せず(=よい量子数ではなく) J=L+Sを使って状態を表せる(=よい量子数になる)のです。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 21:08:01 +0900
Q4: 佐藤先生
古賀です。ご回答ありがとうございます。
つまり、ある量子数Aに対して
H=H0+H'(A)
として表せるようなAがよい量子数という解釈でいいでしょうか?
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Date: Sun, 20 Jul 2014 22:22:54 +0900
A4: 古賀君、佐藤勝昭です。 「量子力学において、ある物理量の固有状態が同時に定常状態にもなっている時 (つまりハミルトニアンと可換な時)、その物理量の固有値を良い量子数という。」
となっております。(wikipedia)
H=H0+H'(A)かつ[H,A]=HA-AH=0
である必要があります。
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Date: Sun, 20 Jul 2014 22:34:48 +0900
AA: 佐藤先生 古賀です。何度も質問にお答え頂き、本当にありがとうございました。非常に勉強になりました。これからも先生の「光と磁気」やHPで勉強に励みます。
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1328. 高比透磁率材料の厚さと磁気飽和、飽和磁束密度の関係
Date: Mon, 14 Jul 2014 06:58:48 +0000Q1: 佐藤勝昭先生、K*社のE*と申します。
書籍を若干読んだ程度の知識で申し訳ありませんが、材料の飽和磁束密度について調べていた所、こちらの存在を知り、 勝手なお願いながら教えていただければとメールした次第です。
まず概要を説明させていただくと。
現在、残留磁束密度1.3Tほどの円柱形磁石を連結したリニアレールの上に、20mmほど離して150mm四方の板状パーマロイPB材1mmを 重ねて磁界を遮る事を試みています。
さらに外側は2cmほど開けてパーマロイを挟み込む様に数mm厚の処理鋼板で挟む配置となっています。
通常、パーマロイは比透磁率の高さを利用して保護対象を囲みこむ使い方が一般的ではありますが、 囲み込む使い方でできず「壁」を作るような方法をとっています。
結果、テスラメータでPB材1枚で両面垂直方向の磁束密度は、磁石側で40mT、反対側で数~1mTほど となり、数枚重ねても反対側の磁界を消すことはできませんでした。
この現象をメーカー問い合わせした所、40mTの磁束密度に1mmのPB材では飽和しているとの見解が出てきましたが、
ここで
・PB材の磁束飽和密度1.5Tでかかってる磁束密度より大きい
・磁束密度の単位はT(テスラ)= Wb/m2で単位上厚さは無関係
の2点から材料の厚さでは磁気飽和しないのでは考えたものの、メーカーからはそれ以上の情報は得られず、 現象に対する根拠が明確にできず困っております。
つきましては
・材料の厚さと磁気飽和、飽和磁束密度の関係
・厚さと反対側の磁界が磁気飽和と無関係の場合どのような現象が考えられるか
を教えて頂けないでしょうか
申し訳ありませんが宜しくお願いします。
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Date: Wed, 16 Jul 2014 18:28:37 +0900
A1: E様,佐藤勝昭です。 磁気シールド板内では、高い透磁率のために磁力線は、板の中を面に平行に流れるのですが、 PB材のBH曲線(添付図)で見る限り、40mT=400Gauss=32000A/mも印加すると飽和領域に入っていて、 透磁率はかなり小さくなっているのではないでしょうか.
また、PB板端面からの磁力線は、遮蔽鋼板との隙間を通って回り込みます。
なお、添付図だけでは,状況が分かりません。
円柱状の磁石の長さとPB板の関係が分かりません。図から見る限り磁石の円形断面が磁極となって紙面に 垂直に強い磁界が出ているはずです。できれば立体的な図を描いて頂けないでしょうか
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Date: Fri, 18 Jul 2014 08:11:20 +0000
Q2: 佐藤勝昭先生、Eです。お世話になっております。
連絡ありがとうございました。
書いて頂いた内容を読んで、自分が飽和磁束密度=飽和しない磁界の上限と勘違いしてしまっていたことに気づくことができました。
初心者ということを差し引いてもお恥ずかしい限りです。
ただ、悲観しているばかりいても、パーマロイ反対側まで達した磁界が消えるわけでもなく、申し訳ありませんがもう少し教えて頂ければ幸いに思います。
立体的な図を書くのが得意ではないため、今回参考として立体的が全体の概略図と、リニアレールの構成、寸法を入れた平面図を添付させて頂きました。
それぞれの配置は一番上の図の全体構成にあるとおり、処理鋼板に挟まれた場所にリニアレールが固定され、その上をパーマロイが貼り付けられたステージが 移動する様になっています。
保護対象は図中に記載しました様にφ52mmのPMTで、ここに達する磁界を数十uTまで低減する検討を行っている次第です。
前回質問させて頂いた内容は、パーマロイと厚さ・飽和の関係が理解できず教えて頂きたいと言う内容でしたが、この件に関して、下記の内容について教えて頂けな いでしょうか。
素人質問で申し訳ありませんが宜しくお願いします。
<質問事項> ・磁束密度は、外部から磁界を与えることで発生する磁界。その磁界が増えなくなる点が飽和磁束密度となっています。
これは単純にパーマロイが弱い磁界を与えることでB-H曲線にある磁束密度をもつ磁石になると言うことでしょうか。
それとも、磁束を通せると言う意味でしょうか。
・パーマロイPB材と一番近い処理鋼板の隙間から磁界が吹き上がっているとの指摘を 頂き、磁界が隙間から回り込みんでいる事は理解しました。
構造上の制約からこの磁界を現状のようにリニアレールと平行に配置された防磁手段だけで遮る必要があるのですが、可能でしょうか。
また、なにかよい手段は有りますでしょうか。
・パーマロイ1mmを数枚重ねても、保護対象への磁界が無くならず、保護対象の防磁策としてシールド施設の様に空気層を入れて対策を取る事位しか思い浮かびません。
この時、空気層の厚さと磁界の減衰にはどのような関係があるのでしょうか。
単純に比透磁率と距離を抵抗成分と見立てて計算して良いものでしょうか。
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Date: Mon, 21 Jul 2014 13:41:14 +0900
A2: E様、佐藤勝昭です。
質問(1)単純にパーマロイが弱い磁界を与えることでB-H曲線にある磁束密度をもつ 磁石になると言うことでしょうか。それとも、磁束を通せると言う意味でしょうか
答え:パーマロイは軟磁性なので、わずかな磁界で大きな飽和磁束密度をもった磁石に なります。従って、磁路を閉じない限り、端面から大きな磁束がでます。
質問(2)リニアレールと平行に配置された防磁手段だけで遮ることは可能でしょうか。
添付図proposal(1).jpgのように隙間が少なくなるように、シールドが壁から出ていて重なるようにしてはいかがでしょうか
質問(3)空気層の利用
あまり意味がありません。磁気シールドの対象がフォトマルのみであれば、フォトマル部分をシールドすることを考えた方がよいのではないでしょうか。
私は、磁気光学効果の測定のために、図proposal(2).jpgのような形でフォトマルを磁気シールドしていました。
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1329. 鉄と酸化鉄の比透磁率
Date: Thu, 24 Jul 2014 18:43:42 +0900Q1: 佐藤先生
はじめまして、X社にて開発を行っておりますO*と申します。 お忙しいところ、申し訳ございませんが、教えて頂きたいことがございまして、メールさせて頂きました。
開発には関係ないのですが、鉄と酸化鉄の比透磁率を調べております。
いろいろ探したのですが、其々の質量磁化率しか見つけられませんでした。
そこで、質量磁化率から透磁率を求めることとし、以下の式にならって計算を致しました。
μ=1+κ-①
μ:比透磁率(単位:無次元)
κ:体積透磁率(単位:無次元)
κ=Χxσ-②
Χ:質量透磁率(m3/kg)
σ:比重(kg/m3)
①に②を代入して
μ=1+Χσ
鉄の体積磁化率は0.022(SI単位に換算すると0.27)であったので代入すると
比透磁率μ=1+0.27=1.27
となりました。
しかし、一般的に鉄の透磁率は5000程度との記述を見つけました。
計算のどの部分が間違っているのでしょうか。
同様に他の化合物に関しても計算しているのですが(下表)
、 鉄の数値がかけ離れているので、その他の化合物に関しても間違っていると考えております。
化合物 | 比重 | T | Χg 質量磁化率 | κ 体積磁化率 | K | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
g/cm3 | kg/m3 | K | 10-6cm3/g | m3/kg | (無次元) | SI単位に換算 | (無次元) | |
α-Fe | 7.874 | 7874 | 293 | 217.6 | 0.000003 | 0.02153 | 0.27 | 1.27 |
FeCl2 | 3.16 | 3160 | 293 | 116.4 | 0.000001 | 0.00462 | 0.06 | 1.06 |
FeO | 5.7 | 5700 | 293 | 100.2 | 0.000001 | 0.00718 | 0.09 | 1.09 |
Fe3O4 | 5.17 | 5170 | 293 | 91.2 | 0.000001 | 0.00593 | 0.07 | 1.07 |
ご返信頂けますと幸いです。
宜しくお願い申し上げます。
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Date: Fri, 25 Jul 2014 19:21:53 +0900
A: O様、佐藤勝昭です。
磁化率χはχ=M/Hで定義されますが、磁化Mが磁界Hに比例することが前提です。
従って、常磁性体、または、強磁性体のT>Tc、フェリ磁性体のT>TNの常磁性領域 でのみ定義できます。あなたの示されたαFeの0.022という値はT>Tcの値でしょう。
αFe(強磁性体)はT<Tc、Fe3O4(フェリ磁性体)はT<TNで自発磁化を持ちます。
すなわち、磁界Hを加えなくても有限の磁化Mを持ちます。
磁化率χをχ=M/Hとすると、H=0でも0でないMがあるのでχは発散してしまいます。
従って、普通の磁化率の表には載っていないはずです。例えば、
Magnetic Susceptibility
それでは、強磁性体の磁化率とはどういう定義なのでしょう?
添付図は、強磁性体・フェリ磁性体のB-Hヒステリシスです。初磁化状態では、 強磁性体が磁区に分かれるため、H=0でB=0になっており、磁界を加えると磁壁が 動いてBが生じます。このときのB/Hが初透磁率μ_iです。
この値は、試料毎に異なりますが、Fe(99.8%)の場合、5000、Permalloy の場合8000と書かれています。
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Q2: 佐藤勝昭先生
ご回答ありがとうございます。
匿名でお願いしておりますOです。ご返信遅くなり申し訳ございません。
書籍に記載ある強磁性体の磁化率は、キュリー温度以上における磁化率なのですね。
つまり、質問させて頂いた式①は、キュリー温度以下では成立しないことに納得出来ました。
お忙しい中、ご丁寧なご説明ありがとうございました。
先生のご説明の中でわからないことが1点ございましたので教えて頂けますと幸いです。
私の理解として「Fe3O4は強磁性体である」というのが前提となります。
前提に誤りがございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
〇教えていた頂きたいこと
先生のコメント
「Fe3O4(フェリ磁性体)はT<TNで自発磁化を持ちます」
ここで言うTNは、反強磁性転移温度でよろしいでしょうか。
その場合、
「Fe3O4とは、TN以下の温度では、強磁性体であり、TN温度以上になると反強磁性体になる物質」
との認識でよろしいでしょうか。
申し訳ございませんが、よろしくお願い申し上げます。
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Date: Fri, 1 Aug 2014 16:25:20 +0900
A2: O様。佐藤勝昭です。Fe3O4(magnetite)はフェリ磁性体です。
フェリ磁性体は、反強磁性体の一種で、↑と↓の副格子磁化にアンバランスがあって正味の 自発磁化が出ている状態です。フェリ磁性体が磁気秩序を失う温度は、反強磁性体と同じく ネール温度TNといいます。従ってT<TNでは自発磁化があり、T>TNでは常磁性になります
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Date: Mon, 4 Aug 2014 09:51:04 +0900
AA: 佐藤勝昭先生
ご回答ありがとうございます。
フェリ磁性体が反強磁性体の一種であることを理解しておりませんでした。
最後までご丁寧に解説いただきましてありがとうございました。
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1330. 結晶中の原子の座標・配位数
Date: Fri, 8 Aug 2014 08:07:27 +0000Q: 大変お世話になっております、Z社のYです。
初めてこちらに質問させて頂きます。
お忙しい中、無償でこのようなご指導を続けられていること心からご尊敬申し上げます。
以下の二点に関しまして、ご質問させて頂きます。
(1) 並進対称性のみの結晶構造の原子座標の決め方について
単結晶X線回折や粉末X線回折や中性子線回折のリートベルト解析などで導き出される結晶の原子座標に関してです。
その結晶が回転軸や鏡映面等を持っている場合は対称性が最適になるように原子座標が決定されるのだろうと想像しておりますが、 対称性の低い結晶の場合は、原子座標の原点はどのように決定されるのでしょうか。
例えば空間群Pna21の場合、z軸方向は並進対称性しかないように思われますので、z軸方向の原点、(001)面を どこに置いても並進対称性は得られてしまうように思われます。この場合、同様な結晶構造の試料群を複数測定した場合に、 試料毎に少しずつ異なるz座標が得られたりするわけですが、z座標が異なるということは何を意味するのか、分からなくなってまいりました。
(2) 結晶構造における配位数の決め方について
ぺロブスカイト構造のAイオンBイオンのように配位数が判りやすいものの場合はよいのですが結晶構造が複雑で中心金属イオンと 周囲の陰イオンとの結合距離がまちまちな場合、どこまでを配位していると考えるものなのでしょうか。
指標が有りましたらご教示いただきたく思います。
いずれも基礎的なことでお恥ずかしい限りです。どうかよろしくお願い申し上げます。
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Date: Sun, 10 Aug 2014 21:49:14 +0900
A: Y様、佐藤勝昭です。
お返事が遅くなり申し訳ありません。私は結晶構造解析は専門外なので自信 はありませんが、私の理解している範囲でお応えします。
(1)本来並進対称性をもつ場合の格子点は単位胞のどこにとってもよいのです.
すべての格子点には原子団による単位構造が配置されています.単位構造内の 原子は1つあるいは複数個から成っていて、単位構造内のj番目の原子の位置 を単位構造の位置する格子点を原点として,
rj= xja1 + yja2 + zja3,
と表します。 原点は,0 ≦ xj, yj, zj ≦ 1 のようにとることができます。
ご質問のでは、z方向に並進対称性しかかない場合、同様な結晶構造の試料群 を複数測定した場合に試料毎に少しずつ異なるz座標が得られたりするとのこと ですが、単位構造内の原子のz座標の相対位置のみに意味があるのだと思います。
(2)結晶構造における配位数の決め方について
配位数は、結晶学では、注目する原子の最近接の原子数と定義されます。
一方、化学では、分子やイオンの結合性を重視して、注目する原子と結合して いる他の原子の数となっています。有機物における炭素の結合についてはσ 結合のみがカウントされ、π結合はカウントされません。従って、複雑な結晶 の場合、どこまでを結合していると見るかは微妙です。通常は、原子間距離の 閾値を与えて、それより短い原子の数を数えるようです。例えば、
J. Chem. Software, Vol. 7, No. 2, p. 47?56 (2001)
準結晶やアモルファス金属などの場合、EXAFSなどで求めた動径分布関数を 最初の極小値の距離まで積分して、配位数を算出しています。
というわけで、配位数の決定にはやや任意性が入ると思います。
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Date: Mon, 11 Aug 2014 00:42:32 +0000
AA: お忙しい中、丁寧なお返事ありがとうございました。
取り急ぎお礼とお願いまで。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
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1331. 光起電力の円二色性
Date: Thu, 4 Sep 2014 19:06:04 +0900Q: 佐藤勝昭先生
東京大学理学部で表面物性の研究室に所属しているM1の石原と申します。
物性なんでもQ&Aのページを拝見してメールさせていただきました。
自分の所属している研究室は表面物性が専門なのですが、自分はSi薄膜などに可視レーザーを当てて生じる起電力を測るという実験をしております。
光を使った実験は当研究室にとって珍しく、基本的な光物性の知識もメンバー全員曖昧という状況です。
そこでお尋ねさせていただきたいのは、光起電力効果に円偏光依存性はあるのか、また、あるとすればそれはよく調べられた効果であるのか、ということです。
ダイオード的な振る舞いをする物質に円偏光を当てて起電力を測るというのは一見調べつくされているように感じるのですが、ピンポイントに解説した文献を見つけることができません。
勉強不足でとても基礎的なことをお尋ねしているのかもしれませんが、どうぞご教授お願い致します。
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Date: Fri, 5 Sep 2014 08:09:26 +0900
A: 石原君、佐藤勝昭@新潟(ICTMC19のため出張中)です。
メールありがとうございます。光起電力に円偏光依存性が見られるかというご質問ですね。
一般的に言って,フォトダイオードなどに使われる半導体の光吸収に円偏光選択性があれば, 光起電力にも円偏光選択性が現れるのは当然です。
ではどんな場合に選択性が現れるのでしょうか?半導体の価電子帯はスピン軌道相互作用で J=3/2の状態(4重縮退)とJ=1/2(2重縮退)の状態に分裂しています。
J=3/2の量子化軸成分はJz=+3/2,+1/2,-1/2,-3/2の4状態です。
伝導帯は多くの場合、s軌道なのでJ=1/2です。量子化軸成分は、Jz=1/2,-1/2です。
ΔJz=+1の遷移(-1/2→+1/2,-3/2→-1/2)は右回り円偏光で許容です。
Δjz=-1の遷移(+1/2→-1/2,+3/2→+1/2)は左回り円偏光で許容です。
たいていの場合これらは同じエネルギーをもつので、キャンセルします。
しかし、もし、格子不整合歪みなどがあれば、キャンセルすることがなく円偏光選択性を持つのです。
たとえば、「スピン偏極電子源」の解説をお読みください。
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Date: Fri, 5 Sep 2014 13:20:37 +0900
AA: 佐藤先生
丁寧な回答ありがとうございます。
おかげさまで研究を進める重要な知見と手がかりが得られました。
この度はどうもありがとうございました。
石原
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1332. 断熱消磁冷却の電場バージョンはあるか
Date: Mon, 15 Sep 2014 10:16:00 +0900Q: 佐藤様
はじめまして。当方、10年ほど前に大学で物性物理(磁性理論)を専攻しており、今は全く関係のない特許関係の仕事に就いている山形直也というものです。先日あるニュースを読んで気になったことがあったため、もしご存知であればご教示頂きたくメールさせていただきました。
先日、このようなニュースがありました。
http://www.huffingtonpost.jp/science-portal/freezer_b_5812194.html
断熱消磁による冷却かぁ…講義のテスト難しかったなぁ…。なんて思って読んでいたのですが、ふと気になったことがあります。
当方の理解が正しければ、断熱消磁による冷却とは
①磁場によって強引にスピンの向きを揃えておき、エントロピーを小さく維持しておく。
②周囲から熱が入り込まないようにして磁場を切る。
③スピンの向きはバラバラになろうとするが(エントロピーは増えようとするが)、Tが稼げない。よって、吸熱(冷却)によってTをゲットし、エントロピーを増やす。
というロジックだったと思います。
ということは、強引にエントロピーが小さい状態を保った状態からそうでない状態への遷移を断熱系で行えば吸熱(冷却)は起こるということですよね?(ジュールトムソン効果もたしか同じ理屈のはず)
つまり、エントロピーが小さい状態(秩序だった状態)を維持するために磁場を利用する必然性はなく、たとえば誘電体に電場をかけてエントロピーを小さく維持して上記プロセスを実行しても冷却は可能なのではないかと思ったのです。
つきましては、
【1】 上記理屈(強いて言えば「断熱消電」)は合っているのか?
【2】 もし【1】があっているとすれば実験されたことはあるのか?
上記二点をご教示願い無いでしょうか?
以上、よろしくお願いいたします。
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Date: Mon, 15 Sep 2014 23:32:06 +0900
A1: 山形様、佐藤勝昭です。 断熱消磁による磁気冷却の原理についてのあなたのご理解【1】は、正しいと思います。
しかし、【2】誘電体の電場冷却は聞いたことがありません。おそらく絶縁破壊が起きるくらい高い電場をかけないと、常誘電体のエントロピー曲線の変化が出るほど電気双極子を揃えることができないのではないでしょうか。
私見ですが、レーザー冷却は一種の電場冷却ではないかと思います。
レーザー冷却法は、気体原子がレーザー光の電場によって生じた電気双極子により、励起光よりエネルギーの高い位相がそろった光を放出することで原子系からエネルギーが失われ、断熱状態にある原子の温度が低下しますが、原子系の温度が下がることで減少するエントロピー量と、光の電場のもつエントロピーの増加が均衡するまで冷却できるということですから、一種の電場冷却と考てもよいのではないでしょうか?
間違っているかも知れません。
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Date: Sat, 20 Sep 2014 07:47:13 +0900
A2: 山形様,佐藤勝昭です。
レーザー冷却は一種の断熱消電ではないかと書いたのですが、
首都大学東京の宮原先生から「レーザー冷却ですが、自然放出スペクトル幅の中心周波数より若干低めのエネルギーで励起するので、ドップラー効果も重要かと思われます。
エントロピーだけだと中心周波数励起でも冷却できることになりますが、実際はそうなりませんので・・・。」
というコメントをいただきました。単なる断熱冷却ではないようです。
宮原先生に、断熱消電はないかと尋ねたところ、
「 断熱消電のばあい、やはり原子核の電気双極子モーメントは非常に小さい(中性子の電気双極子モーメントはゼロと思われている)ので無理でしょうね。誘電体だと系が周りの熱浴とべったりで、断熱の条件がつくれないと思います。」とのコメントでした。
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1333. シリコンのヤング率の温度依存性
Date: Thu, 18 Sep 2014 14:30:45 +0900Q1: 佐藤勝昭 様 突然のメール申し訳ありません。私はK*大学4年生のI*と申します。大学では物理学を専攻しております。
(もしHPに掲載されるのであれば大学名名前は伏せていただきたいです。申し訳ありません。)
Siの物性値を調べていてこのHPにたどり着きましてご質問させていただこうと思いました。
今回、Siのヤング率の温度依存性を知りたいと思い調べていました。しかし、なかなかSiの機械的性質を述べた文献や論文を見つけることができませんでした。
なので、もしSiのヤング率の温度依存性に関する文献や論文、もしくはそのような実験をしている方からのデータなどをご存じであれば教えていただきたいです。
お忙しい中大変申し訳ありませんが、お時間ございましたら返事いただけると幸いです。
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Date: Fri, 19 Sep 2014 23:11:44 +0900
A1: I君,佐藤勝昭(@応物学会のため札幌出張中)です。
旅先なので手元に論文がありませんが、シリコンのヤング率の-150℃~+150℃温度依存性については
Current Applied Physics Volume 9, Issue 2, March 2009, Pages 538ー545の
Chun-Hyung Cho: Characterization of Young’s modulus of silicon versus temperature using a “beam deflection” method with a four-point bending fixture という論文に載っています.
図書館に行って取り寄せてもらってください。
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Date: Sat, 20 Sep 2014 21:32:19 +0900
Q2: 佐藤勝昭 様
早速のご返信ありがとうございました。さっそく図書館で取り寄せてもらいます。
ただ、ヤング率の温度依存性についてもう少し高い温度まで(できれば800℃ほどまで)の情報も知りたいと考えております。
もしご存知でしたら、お忙しい中恐縮ですがお返事いただけると幸いです。
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Date: Sun, 21 Sep 2014 01:31:37 +0900
A2: I君、佐藤勝昭です。
一般に、体積弾性率(bulk modulus)Bに関しては次のような温度依存性があることが示されており、これをWachmanの式といいます。
B(T)= B0 + b1 T e(T0/T)
ここに、B0は絶対0度での体積弾性率、Tは絶対温度、 b1とT0はパラメータです。
体積弾性率Bとヤング率Eの関係は、ポワソン比をνとして
E=3B(1-2ν)
です。
ほとんどの物質のBは温度に対してほぼ直線的に変化するようです。
なお、下記論文を参照して下さい。
The temperature dependence of the isothermal bulk modulus at 1 bar pressure
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Date: Mon, 22 Sep 2014 13:12:37 +0900
AA: 佐藤勝昭 様
返信ありがとうございます。
教えていただいたことを参考に少し勉強してみることとします。
お忙しい中、ありがとうございました。
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1334. 磁性体の比熱
Date: Sun, 5 Oct 2014 16:22:11 +0900Q1: はじめまして、A*大学大学院2年の、Y*と申します。
物性なんでもQ&Aのページを拝見してメールさせて頂きました。
(もしHPに掲載される場合は名前等は伏せて頂けたらと思います。)
以前から疑問に思っていたことがあり、2点質問させていただきます
①比熱
強磁性体の比熱では、磁場を大きくするとピークは高温側へシフトします。
反強磁性の比熱では、磁場を大きくするとピークは低温側へシフトしていきます。
シフトの方向が強磁性、反強磁性で異なるのはなぜでしょうか?
また、なぜピークはシフトするのでしょうか?
②低次元磁性体の比熱
低次元磁性体では、比熱において(磁化でも)山な りのピークが見られます。
山なりのピークは、低次元系の短距離秩序によることです。
ではなぜ、短距離秩序だと山なりのピークが生じるのでしょうか?
以上の2点です。
お忙しいところ恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
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Date: Fri, 10 Oct 2014 01:23:13 +0900
A1: Y君、佐藤勝昭です。
10/5に海外出張から帰ってきて、たまっていたメールを見ました。
お返事を書こうとしている矢先に、ノーベル物理学賞の日本人受賞のニュースがあってJST広報はてんやわんやの大騒ぎ、お返事が遅くなって、ごめんなさい。
私は、磁性体の比熱については、全くの専門外です。
磁界を加えると強磁性体では、ピークが高温側にシフトし、反強磁性体では低温側にシフトするということをあなたのご質問で始めて知りました。
比熱のピークはほぼ転移点付近に現れるのは知っていますが、・・
一般論でいいますと、常磁性領域ではスピンの揺らぎが大きくエントロピーが高いが、Tc以下で強磁性になると、スピンがそろうため、揺らぎが小さくなってエントロピーが低下します。
エントロピーの急な増加があるので比熱-温度曲線にピークが生じます。
常磁性体に磁界を加えるとスピンは少しずつ磁界方向にそろうので、ピークは高温側にシフトするはずです。
反強磁性の磁化率χは、ネール温度付近でピークになりますが、磁界に平行な磁化率は低温で小さくなり、磁界に垂直な磁化率は温度によらず一定です。平均するとTNより低温側で磁界によってエントロピーが低下します。これが、比熱のピークが低温側にくる原因かと思います。(ちょっと自信がありません。)
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Date: Fri, 10 Oct 2014 14:56:21 +0900
Q2: 佐藤 勝昭様、A大学大学院のYです。
大変お忙しい中、ご返答誠にありがとうございます。
大変、感謝しております。
佐藤先生の比熱についてのご説明で、ピーク位置の疑問についてイメージをつかむことができました。
どうもありがとうございます。
お忙しいところ、大変恐縮ですが、もう1点ご教授頂けたら幸いです。
②低次元磁性体について
低次元磁性体では、磁化で山なりのピークが見られます。
山なりのピークは、低次元系の短距離秩序によることです。
ではなぜ、短距離秩序だと山なりのピークが生じるのでしょうか?
(実はもう1点、以前からの疑問があります。もしも差支えなければご教授頂けたらありがたいです。)
**ランデのg因子について**
g因子の値が2から大きくずれていること(帯磁率のfitting等からの導出にて)、は何を示すことが可能でしょうか?
論文によってはg値について全く触れていないものや、大きな軌道モーメントの存在や、物質の異方性を示唆しているものもあります。
ちなみに、上記の存在を示唆している理由もよくわかりません。
非常にお忙しい中、度々のご相談大変失礼致しました。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
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Date: 2014/10/13, Mon 08:51
A2: Y君、佐藤勝昭です。
(1) 低次元系の磁気現象は専門外です。
申し訳ありませんが、小口武彦「磁性体の統計理論」(裳華房)などの書物をお読みください。
なお、1次元イジングモデルでは自発磁化は生じないと言われています。
(2)g値は角運動量と磁気モーメントの関係を表す係数です。3d遷移金属では,軌道角運動量が消失しているので、gはスピン角運動量Sと磁気モーメントμの関係の係数です。
しかし、軌道角運動量が生きている希土類などでは、全角運動量Jと磁気モーメントμの関係でなければなりません。ところがJはLとSのベクトル和なのですが、磁気モーメントに関しては
μ=(L+2S)μBなので、μとJの関係は単純ではありません。この関係を表すのがランデのg値なの です。私が、日本磁気学会誌に連載した超入門講座の第2回のpdfをお送りしますので、2.7 .4節をお読みください。
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Date: Mon, 13 Oct 2014 11:08:43 +0900
AA: 佐藤 勝昭様、A大学大学院のYです。
お忙しい中度々のご返答、誠にありがとうございます。
また佐藤先生ご自身の資料も送って頂き、ありがとうございました。大変感激しております。
紹介して頂いた専門書とPDFを参考にしながら、学んでいきたいと思います。
どうもありがとうございました。
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1335. 太陽光パネルの反射
Date: Tue, 14 Oct 2014 16:22:06 +0900Q1: 佐藤勝昭 様
物性なんでもQ&Aのページを拝見してメールさせて頂きます。
私、T*大学で物理学を専攻しておりますA*と申します。どうぞよろしくお願い致します。
太陽光パネルについて勉強しておりまして、教えて頂きたい事が有りましてメールさせて頂きました。
太陽光パネル表面での入射光反射による発電ロスを抑えれば、発電量増加が見込めるのではないかというのが勉強を始めたきっかけです。
まずは実際に太陽光パネルに入射する光のエネルギーを算出しようと思ったのですが、光学に疎いため計算でつまづいてしまいました。
光のエネルギー透過率、反射率等を計算するため、フレネルの式を使用したいのですが、光の偏光(S偏光とP偏光)により使用する式が異なります。
入射光のエネルギーを100としたとき、透過光、反射光のエネルギーは○○です!と分かりやすい結果を得たいのですが、安易でしょうか?
どうぞよろしくお願い致します。
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Date: Wed, 15 Oct 2014 01:05:09 +0900
A1: A君、佐藤勝昭です。
ご質問の「太陽光パネルの表面」が何を指すのですか。
カバーしているガラスのことですか、それとも太陽電池セルの表面ですか?
セルの反射については、表面反射防止膜や表面のテキスチャー化で反射を抑えています。
カバーガラスの反射率は、あなたの仰るとおり、斜め入射の場合偏光に依存しますが、通常はそこまで考えていないのではないのでしょうか?
直入射であれば、表面反射率は R={(1-n)/(1+n)}2となります。n=1.5ならR=0.04=4%です。表面からガラス内に透過するのは、従って96%です。
セルとガラスが密着していなければ、ガラスの裏面での反射が同じく4%なので、カラス板の透過率はT=(1-R)×(1-R)=0.96×0.96=0.922=92.2%です。
もし、ガラス裏面と半導体(屈折率n0)とが密着していると、裏面反射率R'={(n-n0)/(n+n0)}2
シリコンのn0=3.7として、R'=0.179=17.9%このときセル内部に入射する光は入射光の0.96×0.821=0.884=88.4%ということになります。
このような回答でよいのでしょうか?
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Date: Wed, 15 Oct 2014 14:38:56 +0900
Q2: 佐藤様
ご回答下さいましてありがとうございました。
直入射について理解致しました。
私の説明不足に前提補填して頂きましてありがとうございます。
表面とはカバーガラスの事でございます。
もう一点質問させてください。
例えば入射角10°で入射した場合の表面反射等についてはどう計算すればよろしいでしょうか。
自然光は特定の偏光をしていないと思いますので、フレネルの式を使う際にどうすればいいのかわかりません。
どうぞよろしくお願いします。
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Date: Thu, 16 Oct 2014 10:11:37 +0900
A2: A君、佐藤勝昭です。
非偏光ということは、入射光のs偏光とp偏光の強度が同じということです。
すなわち、Is、Ipがそれぞれs偏光、p偏光の強度とすると、入射光強度Iinとすると
Is=Ip=(1/2)Iin
s、p偏光の反射率をRs、Rpとすると、反射光の強度Irは
Ir=RsIs+RpIp=(Rs+Rp)I/2
したがって、非偏光の場合の反射率は
R=(Rp+Ps)/2
としてさしつかえないでしょう。
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Date: Thu, 16 Oct 2014 10:30:12 +0900
AA: 佐藤様
ご回答頂きましてありがとうございます。
偏っているから偏光、ということですね。よくわかりました。
教えて頂きました内容で勉強を続けたいと思います。
本当にありがとうございました。
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1336. 磁場ルミネセンスはあるか
Date: Mon, 3 Nov 2014 18:55:27 +0900Q1: S県の公立中学校で理科教員をやっておりますI*と申します。ルミネセンスについて興味があり、調べています。
ルミネセンスは、励起源により、フォトルミネセンスなどの種類に分けられますが、磁場によってルミネセンスが起こることはあるのでしょうか。
多数の専門書を読んでも、記述がないので、ぜひご教授いただければと思います。
お忙しい中お手数をおかけし恐縮ですが、回答よろしくお願い致します。
なお、ウェブにこの質問が掲載される場合は、匿名でお願いいたします。
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Date: Tue, 4 Nov 2014 17:04:06 +0900
A1: I様、佐藤勝昭です。
磁場を電子にかけても、ゼーマンエネルギー程度のエネルギーしか与えることができません。
ざっくり見積もると、1テスラの磁場で電子が得るゼーマンエネルギーは0.1meVのオーダーです。
可視光の発光中心を励起するには1.7eV以上のエネルギーが必要です。従って、磁場によってルミネセンスを励起することはできないのです。
註(正確には、スピンS=1/2のゼーマンエネルギーは、E=gμBS・H=2×5.7883 × 10-5 (eV?T-1)×0.5 ×1(T)=0.05783meV~0.06meV) ----------------------------------------------------------------------------------------------
Date: Tue, 4 Nov 2014 18:10:44 +0900
Q2: 佐藤勝昭様 Iです。回答ありがとうございました。素人ゆえに教えていただきたいのですが、発光中心に1.7eVのエネルギーを磁場によってかけるのは現実的に不可能なのでしょうか?
たびたびで大変申し訳ありませんが、回答よろしくお願いいたします。
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Date: Tue, 4 Nov 2014 21:01:47 +0900
A2: 様、佐藤勝昭です。仮にゼーマンエネルギーを0.1meVとすると、 17000テスラ(1テスラ=10000ガウス)というとてつもない磁界をかけないと ゼーマンエネルギーを1.7eVにすることができません。
地上で超電導磁石と通常電磁石の組み合わせで作れる最大の磁界は100テスラ程度です。一方、超強磁場中性子星「マグネター」は地球上でこれまでに作り出された最も強力な磁石の1000万倍の磁場を持つそうですから、強い光を出す可能性があります。
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Date: Tue, 4 Nov 2014 21:40:53 +0900
AA: 佐藤勝昭様 Iです。とてつもなく強い磁場をかけなければ不可能なわけですね。
丁寧でわかりやすい回答、本当にありがとうございました。とても助かりました。
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1337. ガラスのファラデー効果の測定
Date: Fri, 12 Dec 2014 06:31:24 +0000 Q1: 佐藤勝昭様はじめまして 横浜国立大3年 小澤一謹と申します。
表題の通り、ファラデー効果についてお聞きしたいことがありメールいたしました。
学校の授業で、自分でテーマを設定し調査・発表をするというものがありまして、ファラデー効果をテーマにしました。
パイレックスガラスと鉛ガラスのファラデー効果を測定しているのですが、うまく測定をすることができません。ファラデー効果について先生のHPを拝見し、助言をいただきたいです。
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レーザー:λ=670nm
試料の大きさ:直径φ=6.8?8.0、長さ5.7cm
磁場:超伝導コイル(最大100000ガウス)
測定法:クロスニコル法 レーザー光を板に当て反射した光の電場強度をフォトマルで読み取り、偏向器を回しながら電場の最小値を読み取り、磁場を変え回転角を読み取ります。
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この方法について良くないところはありますでしょうか。
またパイレックスガラス、鉛ガラスの670nmでのヴェルデ定数の文献値や理論式などはありますか。
この試料でファラデー効果を測定しようとするならどれほどの磁場が必要でしょうか。
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Date: Sat, 13 Dec 2014 10:05:40 +0900
A1: 小澤一謹君、佐藤勝昭です。
確認したいことがあります。
(1)セッティングは、
(a)レーザ→偏光子→ガラス棒(超電導磁石中)→検光子→板で反射→検出器
でしょうか?それとも、
(b)レーザ→偏光子→ガラス棒(超電導磁石中)→板で反射→検光子→検出器
でしょうか?
もし(b)なら、板で反射したときに変更が乱れるので、?です。 (2)超電導磁石中に試料を置いて磁界を印加しているとのことですが
具体的な図と、磁界の加わっている部分のサイズを教えて下さい。
ご質問おベルデ定数ですが、
パイレックス 3.64×10-6 rad/(G・cm) for λ= 632 nm
[S. Egami and H. Wataria, Rev. Sci. Instrum. 80, 093705 (2009)]
鉛ガラス(60%酸化鉛の重フリントガラス)1.79×10-5 rad/(G・cm) for λ=632 nm
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Date: Sat, 13 Dec 2014 15:14:58 +0000
Q2: 佐藤勝昭様、返信ありがとうございます。
装置のセッティングは(a)のほうです。
図は添付したファイルにあります。拙い図で申し訳ありません。
実験では偏光の回転が見られるものの回転角は小さく、それより求めたヴェルデ定数は、
8.7×10-7[rad/G・cm]でした。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 09:05:53 +0900
A2: 初めのメールでガラスの長さが57cmとあったのですが、図ではもっと短いようなので、本当はどうなっているのか、教えてください。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 00:16:47 +0000
Q3: 佐藤勝昭様、ガラスの長さは5cmです。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 10:20:51 +0900
A3: 小澤君、佐藤勝昭です。
はじめの質問にあった57cmは間違いですね。
仮にベルデ定数を4 x 10-6 rad/Gcmとすると、長さ5㎝、磁界10000Gでは、約2度も回転するはずです。
偏光の回転が小さくなっている理由ですが、可能性としては、超伝導磁石はクライオスタットに入っているので、その窓材が関係している可能性があります。
そういう意味では、磁界を通常の穴あきマグネットで印加するほうがよいのではないかと存じます。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 01:53:34 +0000
Q3: 佐藤勝昭様
角度の計算ですが、4.0×10-6×5×10000ですか。そうすると0.2[rad]、11[deg]になるのですが、 またベルデ定数が小さくなるのは温度が低いからということでしょうか。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 11:45:09 +0900
A3: 小澤君、
ご指摘通り、2度はコンピュータ入力時のミスで約12度(11.5度)の間違いです。
常磁性のガラスの場合ベルデ定数は磁化率に比例します。磁化率は1/Tに比例するので、低温ほど大きくなります。
ガラスではありませんが、TGG(テルビウムガリウムガーネット)セラミクスの場合、ヘリウム温度では室温の値の87倍になるそうです。
(阪大ILEの年報2006)
反磁性のガラスの温度変化は小さく、変化率は10-4/Kとされています。
(Applied Optics, Vol. 30, Issue 10, pp. 1176-1178 (1991))
いずれにせよ、低温だからということはないと思います。
超伝導磁石は漏れ磁界が大きいので、フォトマルに影響を与えている可能性があります。チェックしてください。
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Date: Mon, 15 Dec 2014 03:17:20 +0000
AA: 佐藤勝昭様
適切な回転角を得るためには、フォトマルが磁場の影響を受けないようにするのがよいということですね。
一度フォトマルが正常に機能するか確認してみます。
漏れ磁界を考慮し、かける磁界を小さくするか、別のコイルを探したいと思います。
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Date: Sun, 18 Jan 2015 14:37:04 +0000
Q4: ??佐藤勝昭様,
お久しぶりです。横浜国立大学3年 小澤一謹です。
先日はファラデー効果についての質問にお忙しい中お答えいただきありがとうございました。
また質問がありメールしました。
漏れ磁場を考慮し、パイレックスガラスで測定したところ文献値に近い値がでました。(0.013[min/Oe・cm])
質問の内容ですが
磁場を反対方向にかけたところ反対向きに偏光面が回転したのですが、これは正しいことでしょうか。
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Date: Mon, 19 Jan 2015 07:36:26 +0900
A4: 小澤一謹君、佐藤勝昭です。
漏れ磁場を考慮して測定してうまくいったのはよかったです。 ファラデー回転の正負は磁界の方向に対して定義されていますので、磁界を反転すると反転するのが正しいのです。
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Date: Mon, 19 Jan 2015 02:24:01 +0000
Q5: 佐藤勝昭様
お返事ありがとうございます。
測定の正確さがましたことを言えるのでよかったです。
光アイソレーターでは磁場方向と光の方向が反転しても回転する方向が同じですが、この実験では磁場方向が変わると回転方向は逆になりました。
光と磁場の相対方向が重要ではなくて、物質の磁化方向が重要なのでしょうか。
また鉛ガラスについてですが、鉛含有率が低い透明度が低い場合はヴェルデ定数は小さくなるのでしょうか。
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Date: Mon, 19 Jan 2015 13:04:37 +0900
A5: 小沢君、佐藤です。 光の方向ではなく磁化方向に依存するのです。拙著「光と磁気(改訂版)」p10-11をお読みください。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Date: Mon, 19 Jan 2015 07:30:25 +0000
Q6: 佐藤様
先生の本を読みました。納得できました。ありがとうございます。
また後半のヴェルデ定数の質問ですが、測定に用いたガラスの透明度が低かったのですが、
・ガラスの透明度が低いとヴェルデ定数は小さくなりますか。
それとも
・ガラスの透明度低い→光吸収大きい→楕円偏向になり光強度のピークがわかりにくい という関係はただしいでしょうか。
また鉛ガラスにおいて鉛含有率とヴェルデ定数は比例関係にありますか。
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Date: Mon, 19 Jan 2015 16:43:18 +0900
A7: 透明度とベルデ定数には、直接関係ありません。
透明度が悪い原因が不均一性や不純物、欠陥による場合、散乱などのために偏光が乱れることが考えられます。
ヴェルデ定数は鉛の濃度には比例すると思います。
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Date: Mon, 19 Jan 2015 08:49:14 +0000
AA: 佐藤様
ありがとうございます。いい考察が書けそうです。
今回の実験を通し、あさってプレゼンをします。
先生には測定方法から原理まで様々なことについてお世話になりました。ありがとうございます。
いいプレゼンが出来るよう頑張ります。
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1338. ナノスケール・シリコンの誘電率
Date: Wed, 31 Dec 2014 01:49:03 +0900Q1: 佐藤勝昭 様、K*大学4年生のI*と申します。大学では物理学を専攻しております。(もしHPに掲載されるのであれば大学名名前は伏せていただきたいです。申し訳ありません。)
以前にも質問させていただき、丁寧なご回答を頂戴いたしました。その節は大変感謝しております。今回も勝手ながら質問をさせていただくことをお許しください。
今回は誘電率に関する質問をさせていただきたくご連絡しました。
1、おそらく理科年表などに載っている物質の比誘電率などはある程度の大きさの試料を使い、測定していると思います。
しかし、もし試料の大きさをナノオーダー(数nm?数百nm)にすると、比誘電率の値とは変わったりするのでしょうか。また、変わるのであればどのように変化するのかなどのデータや論文はございますでしょうか。
2、同様にナノオーダーのものの比誘電率を測定するときに、真空中などで試料表面がクリーンな状態(酸化膜などがつかず、未結合手が出ている状態)で測定した比誘電率と、表面を酸化させたり、水素で終端させて測定した比誘電率では値は変わるのでしょうか。そのようなデータや論文はありませんでしょうか。
個人的には、ある程度大きなものでは表面状態などは誘電率にあまり関係はしないが、ナノオーダーのものになると表面積の割合が大きくなり、表面状態により誘電率が変化するのでは…と考えたのですがそのようなデータや論文が見つけられず困っていました。できれば、シリコンに関するような情報があれば大変うれしいです。
以上になります。 長文になってしまい申し訳ございません。
お忙しいとは存じますが、お時間ございましたら何卒ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。
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Date: Wed, 31 Dec 2014 15:01:09 +0900
A1: I君、佐藤勝昭です。
ナノスケールにおけるシリコンの比誘電率ですか・・? あなたが言うように、バルクと比較して表面の占める割合が大きいのでバルクの誘電率とは異なるでしょうね。
これは、どのような金属を電極に付けて測定するかによって(ショットキー障壁ができるなど)case by caseになると思います。
あなたが考えている系について具体的に検討しないと、一般論では云えません。
それとは異なって、ナノスケールシリコンにおいては、バンド間励起子が量子閉じ込めを受けることによって比誘電率が減少する効果が知られています。
これは、測定条件によらないintrinsicな効果です。
荒っぽい近似によれは、比誘電率εは添付ファイルに示すように、
ε=1+A/Eg2
で表され、バンドギャップEgが大きくなると比誘電率はその2乗で小さくなります。ナノスケールの量子閉じ込め系では、量子準位がEgより高いところに出来るので、誘電率が低下するのです。
詳しくは、R.Tsu, D.Babic, L.Ioriatti: Simple model for the dielectric constant of nanoscale silicon particle; Journal of Applied Physics Volume 82 Issue 3 1327 - 1329 (1997)をお読みください。
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Date: Wed, 31 Dec 2014 16:08:49 +0900
AA: 佐藤勝昭 様、K大学 Iです。
お忙しい中大変申し訳ございません。丁重な対応、心より感謝申し上げます。お教えいただいた内容を参考に勉強してみます。
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1339. CrやTiドープのAl2O3の蛍光について
Date: Mon, 26 Jan 2015 12:21:27 +0900Q: 佐藤先生
メイルにて失礼致します。私は、A独立行政法人にて機能材料研究を行っております研究員Fです。
最近、専門外の無機蛍光体の特性に関心を持ち、試行錯誤をはじめたところなのですが、文献検索を含め自分の調査では分からないところがあり、ネット検索にて先生のHPを拝見し、恐縮ながらご質問させて頂いている次第です。
CrやTiドープのAl2O3に関する下記の点について、もしご教示を頂ければ大変有り難く存じます。
1)CrドープAl2O3(ルビー)は700nm近傍に強い発光を示す(裾を含めると室温での発光範囲は660-740nmくらいでしょうか?)ことは多くの文献で報告されており、先生の公開されていらっしゃられる資料でも触れられていますが、私どもがCrのドープ量を変化させたサンプルを調製している中で、750nmよりも長波長側にも蛍光ピークを示すものが見つかりました。
(我々のサンプル調整法は微粉末を混合し、焼結する方法です。)
長波長側の蛍光に関して調べたのですがそのような報告を見つけることがまだできていないのですが、もし上述のような現象についてご存知でいらっしゃられましたらご教示を頂きたくお願い致します。
(そのサンプルに特異的に発生した何らかの条件(結晶の歪みなど)、あるいは、他の不純物の混入なども含め原因を考えているところではありますが、いかんせん専門外のため手間取っております。)
2)レーザー媒質として活用されているTi:Sapphireの粉末状試料を得るべく、1)同様に、Ti2O3をAl2O3に適量混合し焼結させましたが、文献で報告されているようなブロードな蛍光スペクトル(650-950nm以上)は得られず、むしろ、CrドープAl2O3に非常に近い蛍光スペクトルが観察されました。この理由が分かりません。コメントをいただければ幸甚です。
3)上述のTi:Sapphireもそうですが、レーザー媒質を蛍光材として活用することはあまり無く、蛍光材は蛍光材として別途材料系が探索され、実用化されているように思われるのですが、その理由はどういうものでしょうか?
以上、長文になりましたが、よろしくご教示頂ければ幸甚です。どうぞよろしくお願い致します。
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Date: Mon, 26 Jan 2015 14:58:30 +0900
A: F様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。さて、ご質問ですが、私の知識の範囲でお答えします。
(1)RubyのR線より長波長側に現れる発光は、Cr-Cr対発光です。
Cr3+イオンの濃度が1%程度となると,結晶中のCr3+イオン対が無視できないほどの数になり、吸収スペクトルや、発光スペクトルにイオン対による対スペクトル(pair spectrum)が現れます。
R1線の発光スペクトルは6943Åに現れますが、対発光スペクトルのうちN1線は7040Å、N2線は7009Å(77K)にあらわれます。長波長に現れる原因は交換相互作用によるエネルギーの低下です。
例えば、磁性体ハンドブック(朝倉書店, 1975)p1029を参照してください。
(2)Ti3+は3d電子を1個しか持たないので、Cr3+のR線のような多電子系特有のスピン禁制遷移による鋭いスペクトル線ではなく、基底状態2T2, 励起状態2Eの間のスピン許容の遷移で、基底状態、励起状態ともに、非常にエネルギー的に接近した多数のバイブロニック準位(フォノンと結合した電子準位)が存在し、バイブロニック準位間の遷移を選択することでレーザ作用を起こしています。
したがって、鋭い発光線が観察されたとすれば、不純物の可能性があります。
ブルーサファイアはFe2+とTi4+の間の電子移動でFe3+とTi3+が生じるような吸収帯が赤~緑の波長域にあり、このため青く見えているのですが、この過程でできたFe3+の多電子状態間の遷移が鋭い発光線をもたらす可能性があります。ルビーと同様のスペクトルだとすれば、Cr3+が混じっていた可能性もあります。
(3)レーザーで用いるためには、反転分布を作る必要があるので、3準位レーザの場合、上の励起準位は許容、下の励起準位は禁制であるようにするのが普通です。
ルビーでレーザにおいて励起するための遷移は4A2-->4T2の許容遷移、発光する遷移は2E-->4A2の禁止遷移です。したがって、弱励起でキャビティのない普通の蛍光体の場合、レーザ用材料は光らないので使い物にならないのではないでしょうか?
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Date: Mon, 26 Jan 2015 17:40:58 +0900
AA: 佐藤先生;
この度はお忙しい中、当方の質問に対してご丁寧かつ詳細なご回答を頂き有難うございました。
Q1。については、Cr-Cr対発光の帯域よりも遥かに長い所に振動構造を持つ比較的ブロードな(室温測定においてですが)蛍光が見られているので、これは何か予期しない原因が混在していると考えるべきと理解致しました。
引き続き検討を続けてみたいと存じます。
Q2。は、乳鉢での調製時など、Crが混入した可能性を含め再検討してみたいと存じます。
Q3。は、ご説明を伺い、疑問が解消致しました。
この度は誠に有難うございました。
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1340. 半導体のドーピングとラマンスペクトル
Date: Fri, 30 Jan 2015 15:17:41 +0900Q: 佐藤勝昭 様
初めまして。T*大学4年生のH*と申します。
このたびホームページを拝見し質問させて頂くことになりました。なお、お手数ではございますが、Webに掲載の際には大学名、氏名ともに匿名にてよろしくお願いいたします。
私は希土類であるイットリウムをケイ素にドープさせた物質について研究しております。
そこで、
①イットリウムは価電子を3つ持つためP型半導体(または、P型半導体に似た挙動)を形成するのでしょうか?
②また、こちらの論文によると、顕微ラマン分光を用いた際に、レーザーパワー密度によってラマンのシフトダウンの度合いがP型半 導体、N型半導体、ケイ素の単独で、異なるということが書かれています。
(PHYSICAL REVIEW B 73, 245309 (2006)のFig4部分です。pdfにて添付しますのでご確認ください)
シフトダウンを生じる要因はどのようなものがあるのでしょうか?
お忙しいなか申し訳ありませんが、ご教授頂けるとありがたく存じます。それではよろしくお願いします。
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Date: Fri, 30 Jan 2015 23:50:47 +0900
A: H君、佐藤勝昭です。
4年生ということですが、卒論でしょうか?卒論での疑問については、原則として指導教員に尋ねるべきです。
匿名希望ということなので、何か聞けない事情があるのでしょうね。
以下のことをヒントに、勉強して下さい。
①もし、YがSiサイトを置換すれば、あなたの言うようにアクセプタになるはずですが、3価のイットリウム(Y3+)のイオン半径は約100pm(=1Å), 4価のシリコンのイオン半径は 約40pm(=0.4Å)なので、Siの原子位置を置換するのは困難です。
YをSiにドープしようとしても、置換位置に入らず、格子間原子(interstitial)として入ったり、無理に置換すると、隣のSiが空孔(vacancy)となり、Yと空孔の対をつくって深い準位をつくります。(ドナーにもアクセプタにもならない) GaAsに希土類之Er3+をドープするには、微量の酸素を導入して、Ga-O-Erという形にするそうです。
希土類はoctahedral siteを好むのでSiのようなtetrahedral siteには入りにくいようです。
②についてですが、添付のPhysical Reviewの論文を読みました。
Siナノワイヤのラマンピークのレーザ強度依存性がundoped, P-doped, B-dopedで異なるという内容ですね。
RESULTS AND DISCUSSIONの一番最初にラマンピークの低エネルギーシフトの原因には、4つあるとして、
(1)レーザ光の吸収による温度上昇、(2)高いキャリア密度、(3)量子閉じ込め効果、(4)Siナノワイヤのストレス を挙げています。
Conclusionでは、(1)と(4)がダウンシフトの主因で、(2),(3)はあまり考えなくてよいようです。
私はJSTさきがけ「次世代デバイス」の研究総括をしていたのですが、その一期生にNIMSの深田直樹研究者がいて、 B-doped Siナノワイヤのラマンによるキャリア活性化を研究しており、ラマン線のFano効果を使って、Bをドープしたときの形状解析からキャリア密度を推定していました。またBに局在したフォノンによるラマンピークも見つけていました。
N. Fukata: "Impurity doping in silicon nanowires ", Adv. Mater. 21 (27), 2829-2832 (2009).
が参考になるでしょう。
あなたの卒論テーマは、「Yを添加したSiの顕微ラマンによる評価」なのですか?
顕微ラマンの解釈は、4年生にはかなり高度の研究内容ですね。先生に聞けないのなら、あなたの研究室の先輩の大学院生に教えてもらいなさい。
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Date: Sat, 31 Jan 2015 17:17:20 +0900
AA: 東京農工大学名誉教授
佐藤 勝昭 様
こんにちは!
昨日は多忙であるにもかかわらず迅速かつご丁寧に対応して頂きありがとうございました。
卒論テーマは少し異なるのですが、評価の一部に顕微ラマン分光を用いた測定を含んでいるといった次第です。
佐藤様よりご提示頂いた深田さんの論文を熟読し、自身の卒論に活かしていきたいと思います。
この度は誠にありがとうございました。
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1341. 金の酸化物の作製について
Date: Sun, 1 Feb 2015 15:12:35 +0900Q: 佐藤 勝昭 様、初めてご連絡させていただきます。
HPを大変興味をもって拝見させていただいております妹尾と申します。
化学には特別な知識はございませんが、貴金属に興味を持つ者でございます。
早速でございますが、「金の化学的性質として一般的に酸素とは直接、高温でも化合しない」。と多くの書籍、化学辞典に書かれております。
ところが、先日、無機化合物・錯体辞典(講談社)の中に酸化金Au2O3の製法の一つに、金線を酸素中で熱する。との記載がありました。
Au2O3は、不安定で250℃で酸素と金に分解、生成エンタルピーも+19,100 (cal/mol)でAu単体のほうが安定であり、熱力学的にも高温ほど 分解する方向に反応が進むのではないかと認識いたしておりました。
上記製法は、どのように理解すればよいのか。知識不足のため、お手数ではございますがご教授いただければ幸いでございます。
よろしくお願いいたします。
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Date: Sun, 1 Feb 2015 19:52:43 +0900
A: 妹尾様、佐藤勝昭です。
バルクの金を酸素中で高温に加熱しても金を酸化することはできません。
しかし、ナノメートルサイズの金粒子や直径がナノメートルサイズの金線では、 金結晶の原子配列の段差(専門用語ではステップといいます)のところに酸素 が物理的吸着(adsorption)することが確認されています。
結晶面によって吸着の程度は異なり、(111)面より(211)面のほうが活性が強いとされます。
これによってCOを酸化してCO2にするための触媒として金のナノ粒子が使われます。
Kingという研究者は、空気中で紫外線を当ててオゾンを作ることで金の表面に17 ± 4Å厚のAu2O3皮膜が出来ていることを確認しています。
(D.E. King, J. Vac. Sci. Technol. A. 13 (1995) 1247)
Koslowskiという研究者は酸素プラズマ中で40Åの酸化物が出来ると報告しています。
(B. Koslowski,et al., Surf. Sci. 475 (2001) 1.)
従って、金のナノワイヤを高温の酸素プラズマ中で処理すればAu2O3が出来ると考えられます。
(J. Kim et al. / Surface Science 600 (2006) 4622-4632を参考にしました。)
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Date: Sun, 1 Feb 2015 22:42:59 +0900
AA: 佐藤 勝昭 様
ご教授いただきました妹尾でございます。
ご多忙のところ、早速のご返信ありがとうございます。
当該表現がナノスケール条件下での反応ということで理解いたしました。
佐藤先生、ご教授いただき本当にありがとうございました。
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1342. 複素誘電率とクラウジウス・モソッティの式
Date: Thu, 19 Mar 2015 14:03:38Q: 佐藤先生
はじめて連絡させていただきます。
T*社のK*と申します。
物性の扱いについて行き詰っていたところ、HPを拝見し連絡させて頂きました。
HP掲載の際には社名・氏名ともに匿名でお願いします。
複素誘電率について質問させてください。
現在、Clausius-Mossottiの式を用いて誘電率から分極率を算出しようとしています。
その際に、複素誘電率を式に代入する場合はどのようにすれば良いのか悩んでいます。
計算では分極率を実数で得たいと考えています。
代入は複素誘電率の実部のみとするか、虚部を含めて絶対値とするか、複素数のまま代入して計算後に実部のみを取るか、その他の方法などご教示お願いします。
浅学なため、見当違いな質問かもしれませんが、よろしくお願い致します。
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Date: Fri, 20 Mar 2015 00:51:56
A: K様、佐藤勝昭です。
クラウジウス・モソッティの式は、複素誘電率に対しても成立します。
分極率も一般に複素数です。なぜなら、分極Pとは、電界Eを加えた後に 媒体の電気双極子が変化する様子を与えているので、当然、応答に遅れ が生じますが、この遅れを表現するのが虚数部だからです。
光に対する分極などは、複素数で扱うべきですが、電気泳動の際の 泳動力を求めるような場合は、実数部のみが意味を持ちます。分極率を 何に使うかによるのではないでしょうか。
分極率の実数部を求める場合は、複素誘電率を式に代入し、計算後 実数部をとって下さい。
電気泳動法についての複素誘電率については添付の文献をご参照下さい。
Rom. Journ. Phys., Vol. 59, Nos. 7?8, P. 862-872, Bucharest, 2014
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Date: Fri, 20 Mar 2015 10:34:02
AA: 佐藤先生
早速のご返信ありがとうございました。
大変参考になりました。
これからもHPを参考にさせていただきます。
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1343. fAより小さな電流の測定法
Date: Wed, 25 Mar 2015 15:11:46Q: こんにちは、お世話になっております。L社のH申します。
早速質問させていただきますが、 最近 Oxide TFT(IGZO)の漏洩電流(off-state Current)にかかわった測定をしていますが、 通常の半導体パラメター測定器(例;HP4156など)ではフェムトアンペア(fA)程度が 装置の精度制限らしいですね。
IGZOの漏洩電流はfAよりはるかに下回(10^-21A程度という論文もありますね)っていて、通常の測定器では正確な測定が困難であると痛感しています。
そこでいろんな文献を探ってみると外部キャパシタンスを利用した測定など{Kiyoshi Katoら、JJAP 51(2012)021201}の間接的な方法で 測定可能だと存じておりますが、他に低レベルの電流測定を直接に可能にする測定装置や方法があるとご意見お伺いしたいです。
何卒よろしくお願いいたします。
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Date: Thu, 26 Mar 2015 06:51:46
A: H様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。MOSの専門家にも聞いたのですが、測定器として市販されている ものは、fAが限度であるということです。H様が紹介された論文は、電荷が長時間にわたって保持 されていることから、間接的にリークがyA以下だと推定して、メモリに使えることを述べている ものです。fA以下になると、空気中からのリークだって問題になるので、有効な測定法はないと 思います。お役に立てず申しわけありません
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Date: Thu, 26 Mar 2015 21:05:17
A2: H様、佐藤勝昭です。 Facebokで質問を紹介したところ次のようなコメントがありました。
宮原 恒昱(首都大学東京名誉教授)
微小電流計の初段のOPアンプ内部のFETのゲート漏れ電流がすでに室温で10fAくらいあります。差動増幅でキャンセルするよう にしていますが・・・・。マイナス21乗アンペアは、電子1個が100秒に一回くらい通過するくらいですから、光電子分光のような、 ある種の計数測定が必要かと思います。それでもバックグラウンドを考えると簡単ではありません。
山口 政紀 (東陽テクニカ)
素子を集積して並列につなぐ。サンプルを真空中に置いて余計なリークを防ぐ。計測器の電荷Q測定のモードで長時間積分する。温度を上げて わざとリークを増やす。などいかがでしょう。
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Date: Fri, 27 Mar 2015 10:21:10
AA: 佐藤先生
親切なお返事、どうもありがとうございます。 -21乗という数値は論文で見た情報で、われらの測定(おそらく、FacebookでCommentされたCoulombmeter測定と同じ方法だと思いますが、 TFTのSource端子にキャパシタンスをつないで、そのキャパシタンスに変化する電圧計ることでQを推測する方法
参照:keithley社提供Low level measurements handbook2-3-8章)では Width 1μm当 10-16~10-18程度でした。
TFTのwidth を大きくしたり、測定時の温度を高くする方法など、いろいろ方法で測定器の制限より高い値になるような方法でクロスチェックをした結果です。
Engineering観点では、サブFemtoレベル(-15乗~-1 8 乗 )の電流が上記の方法(時間を沢山かけて蓄積されるQをはかる測定)ではなく 電流の値が直接、瞬時で測れたらより効率的ではないかと思った上での質問でしだが、やはり直接はかるのは無理らしいですね。
計れる方法をより効率化する事を考えていきます。再度、ご意見どうもありがとうございました。
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1344. 自然光学活性について
Date: Mon, 30 Mar 2015 17:11:18Q: 佐藤先生
お久しぶりです。以前にも質問させて頂いた京都大学の古賀と申します。
その節は大変丁寧に質問にお答え頂き、ありがとうございました。
今回は自然光学活性について質問させて下さい。
佐藤先生の著書「光と磁気」で勉強し、磁気光学効果とは単純には外部磁場で磁区が揃った上での スピン軌道相互作用による準位の分裂と、左右円偏光の軌道量子数に関する選択則によるものである、 との解釈に至りました。
ここで疑問なのですが、酒石酸水溶液などの磁場を必要としない円二色性はどのように説明できるのでしょうか?
感覚的には鏡像対称な構造によるものだと理解していますが、量子力学的な説明はできないでしょうか?
また磁気光学効果においても疑問があります。磁気円二色性の原因がスピン軌道による準位の分裂なら、
電子遷移の場合だけ起こって、格子振動の起こる波長範囲では円二色性は起こらないのでしょうか?
以上2つの疑問についてお答え頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------
Date: Wed, 1 Apr 2015 00:07:18 +0900
A: 古賀様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。
(1) 自然旋光性および円二色性(CD)を合わせて光学活性と呼びます。
光学活性を持つ結晶の典型は水晶です。α水晶では、光軸方向に 伝搬する直線偏光は旋光性をもちます。Kramers-Kronigの関係から α水晶も吸収端付近にCDを示します。
水晶を構成する原子の配列状態に右回りのらせんがあることが 右水晶の旋光性の原因とされていますが、原子配置から旋光性を 説明するには至っていないと、小川智哉「結晶物理工学」(裳華房 1976)p.209に書かれています。
しかし、最近の研究では
Mark P. Silverman: Quantum Superposition--Counterintuitive Consequences of Coherence, Entanglement, and Interference (Springer, 2008)Section 7.6 (p299)によれば、
光学異性体のようなキラルな物質においては、電気双極子遷移と 磁気双極子双極子遷移を同時に起こし、光の固有状態は、右回り および左回り円偏光となり、その位相速度に差が生じる。
と書かれています。
さらにノーザン・イリノイ大学のNorma Greenfield先生の授業資料 の Origins of optical activity. の(p6)によれば、
遷移の旋光性は、電気双極性光のよって誘起された電気双極子と 磁気双極子の内積の虚数部で表される。RK=Im(uek・umk) RKがゼロでない値を持つための条件は、次の3つである。
(1) 同じ発色団に電気双極子・磁気双極子の2つの遷移が存在する場合
(2) 2つのグループがそれぞれ単一の電気双極子をもち、それがカップルして磁気双極子をつくる。
(3) 1つの分子に2つの発色団があり、1つが磁気双極子で、もう1つが電気双極子である場合。
量子力学で光学活性を説明するのは難しい。下記文献を参照せよと書かれています。
C.R.Cantor,P.R. Shimmel, Biophysical Chemistry Part II,( W.H. Freeman and Co., NewYork, 1980.)
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(2) 格子振動と光の相互作用は、電子遷移ではないので、スピンが関与しませんから磁気光学効果は起きないと思います。
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Date: Sat, 4 Apr 2015 17:58:39 +9:00
A2: 古賀様、佐藤勝昭です。
分子系の自然光学活性の量子論については、多くの量子化学系の論文や書籍があるようです。
図書館に行って、調べてください。
Dietrich Haase: On the quantum mechanical theory of natural optical activity; Theoretica Chimica Acta 64, 421 (1984)
R. Guy Woolley: On the Optical Activity and the Molecular Hypothesis; Structure and Bonding Volume 52, 1982, pp 1-35
Magdalena Pecul and Kenneth Rund: The ab Initio Calculation of Optical Rotation and Electronic Circular dichroism;
Advances in Quantum Chemistry Volume 50, pp.185-212 (Elsevier , 2005)
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1345. 真鍮板の反りについて
Date: Thu, 21 May 2015 17:27:28 +0900Q: 佐藤勝昭様、突然のメール申し訳ありません。W社Oとと申します。
ネットで検索をしていて物性なんでもQ&Aにたどり着きました。
質問内容
私は仕事で真鍮板(1.2mmと3mm厚)を第二塩化鉄液で腐食(腐食深度480μm)して 印刷用の凸版を製造しているのですが、仕上がった版が反ってしまいます。
長年そのまま作業をしておるのですが、何とか反りを解消したいと思っております。
是非ともご意見を伺いたいです。
よろしくお願い致します。
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Date: Fri, 22 May 2015 08:16:50 +0900
A1: 様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。お困りのようですね。同業他社も同じ悩みなのでしょうか、 それとも御社のみの問題なのでしょうか。
私は凸版印刷について知識がないのでもう少し詳細な情報を下さい。真ちゅう版の厚み、面の寸法、エッティングの深さ、凸版エッチング時の条件など。
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Date: Fri, 22 May 2015 20:21:09 +0900
Q2: 佐藤勝昭様、W社Oです。
ご返事ありがとうございます。説明不足で申し訳ありません。
詳細といたしまして、
材質:真鍮
厚み/サイズ:1.2mm厚/400mm×365mm 3.0mm厚/450mmx365mm
エッチングの深さ:1.2mm厚/0.53mm 3.0mm厚/1.2mm
です。
エッチング行程ですが、
生の真鍮板にスピンコーターにてレジストを塗布
↓
その上にネガフィルムを密着
↓
UV露光装置で露光
↓
現像
↓
370℃オーブンにてバーニング
↓
エッチング行程
・版裏に黒ワニス塗布
・表面を第二塩化鉄液で肌出し
↓
エッチングマシーンにて腐食
○第二塩化鉄液に添加剤を混ぜた溶液を吹き付けて腐食
○塩酸で洗浄
○キリン血を非腐食の土手部分に付着させる(横からの腐食防止)
○370℃オーブンでバーニング(1min)
○冷却
※○の5工程を腐食時間を変えて繰り返す。(1.2mm厚は5回 腐食時間1min,2min,3min,5min,7min)
(3.0mm厚は7回 腐食時間1min,2min,3min,5min,7min,10min,12min)
後は版洗浄して断裁です。
金属凸版腐食では、弊社は亜鉛と真鍮の実績が有りますが、どちらも反りが生じますので、同業他社も同じ問題を抱えていると思われます。
現在は手等で反りを戻して納品しておりますが、不完全で何とかできないかと思っております。
よろしくお願い致します。
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Date: Fri, 22 May 2015 23:38:24 +0900
A2: O様、佐藤勝昭です。
詳細な情報ありがとうございます。
エッチング前の平坦な真ちゅう板を370℃に加熱後室温に冷却しても加熱・冷却が均一なら反りは生じないはずです。
エッチングした部分では冷却が早く、バルク側は冷却が遅いので、応力のちがいから塑性変形が起き、反るのではないかと思います。
1.2mm厚の真ちゅう板に深さ0.53mmのエッチングをして370℃の加熱・室温への冷却を5回も繰り返すのですから
加熱・冷却の速度のちがいで何らかの塑性変形が起きるでしょう。
解決方法としては、加熱・冷却が均一に起きるようにするとか、現実的ではないけれど、上下を厚い金属ではさみ、強い力で押さえつけて変形を起こさなくするなどが考えられます。
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Date: Mon, 25 May 2015 11:14:29 +0900
AA: 佐藤 勝昭様, お世話になります。W社のOです。
ご連絡ありがとうございます。加熱・冷却の均一化を図ってみたいと思います。
大変助かりました。ありがとうございます。
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1346. 励起子吸収がある場合の(αhν)2プロットによるバンドギャップ推定
Date: Mon, 29 Jun 2015 14:51:46 +0900Q: 佐藤勝昭様 突然のメール申し訳ありません。私はN*大学 4年のH*と申します。
(もしHPに掲載されるのであれば大学名名前は伏せていただきたいです。申し訳ありません。)
物性なんでもQ&Aのページを拝見してメールさせていただきました。
私は薄膜太陽電池の光吸収層の研究をしております。
現在、とある試料の透過率T、反射率Rから吸収係数aを計算し、(αhν)2プロットよりバンドギャップを算出しようとしております。
しかし、励起子吸収(?)が大きく発生しており(添付図)、バンドギャップを求めることができませんでした。
このようなプロットからバンドギャップを求めるにはどのような処理を施せばよいのでしょうか?
お忙しいところ申し訳ありませんが、 ご教授願えたら幸いです。 よろしくお願いします。
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Date: Tue, 30 Jun 2015 23:21:19 +0900
A. H君,佐藤勝昭です。多忙のため、お返事が遅くなってごめんなさい。
励起子吸収がバンド間遷移に重なっている場合は、励起子吸収スペクトルを ローレンツ型の吸収曲線で近似して、それとバンド間吸収スペクトルとを足し合わせて もとの吸収曲線にフィッティングするのがよいと思います。
[ローレンツ曲線については、花村栄一「固体物理学」(裳華房)参照:この本では分極率をαで表記していますから注意!]
ローレンツ型の複素誘電率ε(ω)=ε'(ω)+iε"(ω)のスペクトルは
ε(ω)=1+4π(Ne2/m*)Σn(fn/(ωn2-ω2-iγω)
複素誘電率εと屈折率nと消光係数κの間にはε=(n+iκ)2 が成り立ち、
[これについては、佐藤・越田「応用電子物性工学」(コロナ社)第3章参照]
ε'=n2 - κ2, ε"=2nκ
吸収α(ω)は複素誘電率の虚数部に次式で関係します。
α(ω)=2ωκ/c=ωε"/c
パラメータとして(Ne2/m), γ、fnを適当に選んでフィットしてみて下さい。
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Date: Wed, 1 Jul 2015 11:14:02 +0900
AA: ご返事ありがとうございます。
さっそく試してみたいと思います。
お忙しい中、丁寧にご教授いただきありがとうございました。
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1347. 誘電体内部での電磁波エネルギー収支について
Date: Thu, 20 Aug 2015 09:22:19 +0000Q: 佐藤先生、T*社 A*と申します。
初めてメールさせて頂きます。お世話になります。
「物性なんでもQ&A」を見て、メール致しました。大変失礼ですが、匿名にてお願いいたします。
浅学の為、光学の計算で良く分からない点が有ります。虚数部を持つ屈折率の誘電体内部での電界とエネルギーの関係式について教えて頂けないでしょうか?
空気から誘電体への反射率,透過率は、
r0=(1-n-ik)/(1+n+ik), t0=2/(1+n+ik)
誘電体から空気への反射率,透過率は、
r1= - (1-n-ik)/(1+n+ik), t1=2(n+ik)/(1+n+ik)
になるかと思います。
ここでエネルギー保存なのですが、
(1) 空気から誘電体の場合は、
|r0|^2={(1-n)^2 + k^2}/{(1+n)^2 + k^2}=1-4n/{(1+n)^2 + k^2}
|t0|^2= 4 /{(1+n)^2 + k^2}
実数の例で良く見かける様に単純に、|t0|^2に誘電体の屈折率の実部(n/1)を掛ければ解決するのですが、
(2) 逆の誘電体から空気の場合は、
|r1|^2={(1-n)^2 + k^2}/{(1+n)^2 + k^2}=1-4n/{(1+n)^2 + k^2}
|t1|^2= 4{n^2+k^2} /{(1+n)^2 + k^2}
強引に答えを合わせようとすると、|t1|^2に誘電体の屈折率の実部/絶対値2乗を掛けなければいけなくなります。
本来それぞれ、(屈折率の絶対値/1), (1/屈折率の絶対値)を掛ける事が、物理的に正しそうに感じます。
安直なイメージですが、そもそもこの2つの係数は掛けて1にならないと、誘電体内部を伝播する光のエネルギーが定まらないと思えます。
私の理解したかった関係式は、
入射波のエネルギー=反射波のエネルギー+透過波のエネルギーから
|1|^2 = |r|^2 + α|t|^2
(αは入射側媒体と透過側媒体間での電界強度を補正する係数。
入射側媒体の屈折率をn0, 透過側媒体の屈折率をn1とした場合、α=n1/n0と思われます。)
が成り立つと思っているのですが、そもそもこの考え方に問題が有りそうでしょうか?
お忙しいところ、申し訳有りません。
よろしくお願いいたします。
以上
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Date: Mon, 24 Aug 2015 14:31:59 +0900
A: A様、佐藤勝昭です。
入射側では、反射波と入射波が干渉しているので、界面でのエネルギー保存は
[入射波と反射波の干渉波]のエネルギーと透過波のエネルギーが保存されることになります。
界面においては電界の連続性から
E0+rE0=tE0が成り立ちます。
1+r=tが成り立つので
1=t-rとなり、絶対値の2乗について1=|t-r|^2が成立します。
これを書き直すと、
1=(t*-r*)(t-r)=|t|^2+|r|^2-Re(t*r+r*t)
干渉項Re(t*r+r*t)は必ずしも|t|^2に比例しないので
|1|^2 = |r|^2 + α|t|^2
は必ずしも成立しないと思います。
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Date: Mon, 24 Aug 2015 05:52:10 +0000
AA: 佐藤先生
T社 Aです。いつもお世話になっております。
早速のご回答有難うございました。
干渉項Re(t*r+r*t)はかならずしも|t|^2に比例しないので
はい、突き詰めるとこの干渉項が邪魔している為
、 |1|^2 = |r|^2 + α|t|^2
が成り立たなくて困っていました。
そもそも、この関係式が成り立つという考えを改めるべきの様ですね。
考え直してみたいと思います。
お忙しいところ、お時間を割いて頂き有難うございました。
以上
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1348. 仕事関数制御についての質問
Date: Fri, 21 Aug 2015 21:09:56 +0900Q: 佐藤勝昭様 突然のメール失礼致します。 H*大学M1のM*と申します。(匿名希望) 先生のHPを拝見し、連絡させていただきました。研究テーマは、MOSFET等のデバイス作成です。 質問の内容は、仕事関数の制御についてです。 仕事関数について勉強している中で、PtやAu等の化学的に不活性な金属の仕事関数が高いことを知りました。 これらの仕事関数の値は、酸化物系にはおよびませんが、合金化や表面処理で、電子状態を変化させ バナジウム酸化物のような高い値を得ることは、物理的に可能なんでしょうか。 よろしくお願い致します。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Date: Sun, 23 Aug 2015 21:41:49 +0900
A: M君、佐藤勝昭です。
仕事関数には、バンド構造だけでなく、表面の電子状態が関わるので複雑ですが、合金化によって制御できます。
MOSのメタルゲートのための仕事関数制御は、(国研)物質材料研究機構(NIMS)の知京主任研究者のグループで取り組んでおられます。
NIMS now Vol.5 (2006)
Pt-Wの合金を作って仕事関数の変化を確認しておられます。知京豊裕さんに直接お尋ねになってはいかがでしょう?
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Date: Mon, 24 Aug 2015 21:15:01 +0900
AA: 佐藤勝昭様
H大学 Mです。
ご回答ありがとうござます。
頂いたURLを確認しました。
組成の変化で、仕事関数を制御することが可能とのことなので実際に作成してみようと思います。
ありがとうございました。
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1349. アクリルゴムの熱膨張係数について
Date: Mon, 24 Aug 2015 14:27:41 +0900Q: 佐藤勝昭 様
初めまして。F**大学修士1年のO*と申します。
このたびホームページを拝見し質問させて頂くことになりました。
なお、お手数ではございますが、Webに掲載の際には大学名、氏名ともに匿名にてよろしくお願いいたします。
現在私は、電圧を印加することで膨張するアクリル系エラストマーを使用したアクチュエータを製作しています。
また、それに伴い有限要素解析を行う予定なのですが、電圧による膨張率を測定することは非常に困難であるため、 電圧による膨張率を熱膨張率と置き換えて解析することになりました。
しかし、メーカーに問い合わせた結果アクリル系エラストマーの熱膨張率はわからないとのことでしたので、 アクリルゴムの熱膨張係数を使用しようと考えています。
しかし、知識不足のためアクリルゴムの熱膨張係数がわからず、ご教授願いたいと思い連絡しました。
自らの未熟のためにお手数おかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。
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Date: Mon, 24 Aug 2015 21:15:01 +0900
A: O様、佐藤勝昭です。
アクリルエラストマーを用いた人工筋肉アクチュエータは、誘電体に電界を加えることによって、 Maxwellの応力で膨張が起きる現象を利用します。
そのメカニズムは
メリーランド大学マイクロテクノロジー研究室のホームページ
を参考にしてください。
また、 R. Pelrine, R. Kornbluh, Q. Pei, and J. Joseph, Science, 287:836-839 (2000)
によれば、100%を超える膨張が報告されています。
熱膨張ではこんなに大きく膨張することはありませんから、参考にならないと思います。
原点に立ち返って、参考文献を読んで、誘電応力の大体の大きさを見積もってはいかがですか?
研究室の指導教員や先輩学生ともよく話し合ってください
参考文献: (1) Ron Pelrine, et al.: Dielectric Elastomer Artificial Muscle Actuators: Toward Biomimetic Motion; Proc. SPIE 4695, Smart Structures and Materials 2002: Electroactive Polymer Actuators and Devices (EAPAD), 126 (July 10, 2002)
(2) Nguyen Huu Chuc et al.: Artificial Muscle Actuator Based on the Synthetic Elastomer; International Journal of Control, Automation, and Systems, vol. 6, no. 6, pp. 894-903, December 2008
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Date: Tue, 25 Aug 2015 00:40:47 +0900
AA: 佐藤勝昭 様
F大M1年のOと申します。夜分遅くに失礼します。
返信ありがとうございます。
確かに熱膨張では大変形を生み出すことができないため、有限要素解析においても参考にならないですね。
参考文献を読み直して、おおよその見積もりを出してみます。
参考文献の添付までしていただきありがとうございます。
お忙しい中、ありがとうございます。
失礼いたします。
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1350. AlGaAsはGaAsよりAs抜けが起きやすいか?
Date: Tue, 1 Sep 2015 11:53:31 +0900Q1: 佐藤先生、はじめまして。私はD*社のS*といいます。
(所属・氏名は匿名でお願いします。)
赤外LEDのp型不純物の拡散工程について質問させてください。
弊社が製造しているLEDは点光源が特長で、大小様々なサイズの発光部が 光るチップ構造になっており、発光部(層)はAlGaAsです。
(製造工程の詳細な記述を省略:佐藤)
1バッチあたりの発光部の総面積が小さいケースで発光部にダークスポット が発生しやすい傾向がみられます。
(製造工程の詳細な記述を省略:佐藤)
この状況を説明するため
「GaAsに対してAlGaAsからのAs抜けの速度が極端に速く、発光部 の総面積が小さいほうは、Asの飽和蒸気圧に到達するまでの時間が余計に かかるためAs抜けを助長し、結晶欠陥の発生を促す。」
という仮説を立てました。
この現象を論理的に説明する何か良いアイデアはないでしょうか?
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Date: Tue, 1 Sep 2015 17:05:32 +0900
A1: S様、佐藤勝昭です。
お困りであることは理解できますが、ご質問の内容がなんでもQ&Aの趣旨である一般性がなく、 個別の技術相談ですので、お答えしかねます。また、質問内容はオープンにしますので、 たとえ匿名でも、プロセスのノウハウが明らかになります。従って、なんでもQ&Aとしてはお答え できません。
なお、ヒントですが、ダミー基板を使い回していると、ダミー基板上に 堆積したp型ドーパントのため、LED上のドーパント濃度が高くなり 過ぎていることが考えられます。ダークスポットはヒ素抜 けでなく、過剰ドーパントということは考えられないでしょうか?
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Date: Wed, 2 Sep 2015 08:24:50 +0900
Q2: 佐藤先生、早速の返信ありがとうございます。 質問の内容が一般性がないとのことですが、ひとつだけ教えてください。 AlGaAsとGaAsを真空容器中で加熱した場合、Asの分解速度に 差が生じる可能性はありませんか?両物質とも私が探した資料の中に飽和 蒸気圧のデータが見当たらず過剰pドーパントの件はともかく、同一条件下での 発光部面積の大小の差違を説明するためにもアドバイスをよろしくお願い します。
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Date: Sat, 5 Sep 2015 20:05:44 +0900
A2: S様、佐藤勝昭です。
お返事が遅くなり申し訳ありません。
実は、東京農工大学の熊谷先生にメールでAs蒸気圧について問い合わせておりました。
このほど熊谷先生から次のような見解が示されました。
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難しい内容で中々良い答えが有りませんが、私も先生と同じく、ダミー基板の 汚染が原因でpドーパントの影響が出ているのではと思います。
念のため、600℃でのAlAsとGaAsの分解の平衡定数を計算してみました。
AlAs(s) = Al(s) + 0.5As2(g) K=8.49E-10 @600℃
GaAs(s) = Ga(l) + 0.5As2(g) K=4.86E-6 @600℃
よって、GaAsよりもAlAsの方がずっと安定で、「GaAsに対してAlGaAs からのAs抜けの速度が極端に速く、…」という推察は成り立たないのではと思 います。
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以上ですが、このQ&AをWebにアップしてもよいでしょうか?
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Date: Mon, 7 Sep 2015 08:20:11 +0900
AA: 佐藤先生、お手を煩わせて大変恐縮です。
pドーパントの影響については一度実験で確認したいと思います。非常に参考になりました。
Q&A掲載の件ですが、最初の質問は先生のご指摘通り、内容に公開したくない部分が 多々あるため遠慮させて頂きたいと思いますが、2つ目の質問については匿名を条件に 掲載していただいてもかまいません。いろいろお世話になりました。
(これを受け、Q1の製造工程の詳細な記述を省略して掲載しました:佐藤)
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1351. 水の配向とフォノンの関係(ハイパーラマン散乱)
Date: Thu, 1 Oct 2015 05:17:04 +0000Q1: 佐藤勝昭 様
HPを拝見しました.私K*大学M1のY*と申します(webにアップする場合は匿名でお願いします.)
お忙しいと思いますので、お時間よろしければ教えて下さい。
私の研究室での論文紹介で私に渡された液体の非線形光学の論文で分からないことがあり,研究室の先生も専門分野ではなく分からないため質問させて下さい.
Citation: The Journal of Chemical Physics 141, 224506 (2014);doi: 10.1063/1.4903541 View online: http://dx.doi.org/10.1063/1.4903541
という論文です.(私の研究室の先生方は液体の長距離秩序に興味があると思われます.)
この論文では重水(D2O)に1064nmの入射光(レーザー光)をいれ,532nm(with spectral bandwidth 60cm^-1)の散乱光強度を複数の角度で四つの偏光角度で測定しています.それを論文中の式でフィッティングしています。
ここで質問ですが、(1)これはレイリーウィング散乱と見ていいでしょうか?
もしそうだとして、(2)レイリーウィング散乱とはどの様な物理的な運動に起因するものでしょうか?
一応調べた範囲では、「配向を持った分子の方向が,熱揺らぎのため振動をしており、それによる散乱。」 ということらしいですが、物理的なイメージがつかめません。
この論文では、最終的に水に配向があると結論づけているのですが、どうしてそうなるかが分からず、 レイリーウィング散乱が鍵になっているのではないかと予想しています。
また(3)配向がある理由がmolecular rotation-translation coupling in acoustic phononによるといっていますが、 これに関してもよく分かりません。
以上の点について、もしよければ何か教えて下さい。
ちなみに、自分なりに非線形光学の入門書を関係ありそうなところは読んだので、 最低限の非線形光学の知識はあるつもりです。
参考文献も半分くらい読む努力はしました。
しかし、液体中のphononが出てくる話は不慣れで、配向とacoustic phononとどういう関係があるのか つかめませんでした。
化学物理を研究しておりますので、物理系の院生くらい物理を知っている前提で、 容赦ない回答をいただけると嬉しいです。
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Date: Thu, 1 Oct 2015 18:42:50 +0900
A1: Y君、佐藤勝昭です。 Nevada大学のDr.David Sheltonは、非線形光学を用いた偏光ハイパー・レーリー散乱の専門家です。
下記の論文を読んで見てください。
Philip Kaatz and David P. Shelton: Polarized hyper‐Rayleigh light scattering measurements of nonlinear optical chromophores; J. Chem. Phys. 105, 3918 (1996)
Philip Kaatz, Elizabeth A. Donley and David P. Shelton: A comparison of molecular hyperpolarizabilities from gas and liquid phase measurements; J. Chem. Phys. 108, 849 (1998)
Philip Kaatz and David P. Shelton : Polarized hyper-Rayleigh light scattering measurements of nonlinear optical chromophores; J. Chem. Phys. 105, 3918 (1996)
David P. Shelton: Hyper-Rayleigh scattering spectrum of liquid nitromethane; J. Chem. Phys. 123, 111103 (2005)
David P. Shelton: Are dipolar liquids ferroelectric? J. Chem. Phys. 123, 084502 (2005)
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Date: Thu, 1 Oct 2015 12:08:41 +0000
Q2: 佐藤勝昭様
お返事ありがとうございます.
返信遅くなってしまいすいません.
早速読んでみます.
Shelton教授はその道では有名な方だったのですね.
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Date: Fri, 2 Oct 2015 11:32:29 +0000
Q2': 今読んでいる論文
David P.Shelton: Long-range orientation correlation in water; J.Chem.Phys. 141,224506 (2014)
の式(1)?(4)の導出が記述してある文献を送ります.
これも,もし必要でしたら参考にして下さい.
David P. Shelton: Polarization and angle dependence for hyper-Rayleigh scattering from local and nonlocal modes of isotropic fluids; J. Opt. Soc. Am. B/Vol. 17, No. 12/December 2000
David P. Shelton: Nonlocal hyper-Rayleigh scattering from liquid nitrobenzene; The Journal of Chemical Physics 132, 154506 (2010)
それから,現時点での私の理解を述べます.
ある大きさのdomainのある運動モード(polar collective modeと記述あり)がtranverseな方向に伝わっており,配向をなしている.
その運動はtranslation-rotation couplingな運動をしている.運動が波のように伝わっているのでacoustic phononと呼んでいる.
疑問としては,運動のモードが実際にはよく分からない,という点です.あと,自分の理解にも自信が持てません.
この理解に関してもコメントいただけると嬉しいです.
よろしくお願いします.
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Date: Sun, 4 Oct 2015 01:54:30 +0900
A2: 君、佐藤勝昭です。
私は、液体の構造に土地勘がないので、long-range orientation・・のポイントになる部分を訳してみました。
(添付ファイル)
従来、水をはじめとする液体は、分子配向はランダムで、長距離配向はないと考えられていましたが、非線形光学HRS の解析から長距離の配向秩序が見出され、シミュレーションと矛盾しないというのが、この論文の主旨ですね。
分子の配向の揺らぎ(回転)と分子の運動(変位)が結合して全体として極性をもつ領域(ドメイン)があって、 縦波の分極波が伝わるだけでなく、横波の分極波も伝わるモードがあるのだと思います。
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Date: Tue, 6 Oct 2015 02:49:42 +0000
Q3: 佐藤勝昭様,Yです.
和訳に労力を割いていただき恐縮です.ポイントや大筋がはっきりしました.ありがとうございます.
まだ細かいところで質問させて欲しいのですが,ランダムな分布をしている液体の場合SHGはないですが, 今回の場合,ランダムな配向からの散乱の寄与も考えています.
私には矛盾しているように思われます.つまり,ランダムな配向からの散乱がなく,秩序を持った配向からの散乱のみになるはずです.
何か勘違いしていると思いますがこの点についてどう考えればよいでしょうか?
何度もすいません.よろしくお願いします.
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Date: Tue, 6 Oct 2015 14:50:28 +0900
A4: Y君、佐藤勝昭です。 局所モードのHRSはhyperpolarizability μa(2ω)=(1/4)βabc Eb(ω)Eg(ω)
とEの2次で与えられるので、ランダムであっても中心対称が存在しなければ、ゼロにならないはずだと思います。
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Date: Tue, 6 Oct 2015 06:14:53 +0000
Q5: 佐藤勝昭様,Yです.
素早いお返事ありがとうございます.恥ずかしい質問ですが,「ランダムで中心対称性が存在しない,」
とはある瞬間にスナップショットをとってその瞬間には中心対称性がない場合もあるという意味でしょうか?
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Date: Thu, 22 Oct 2015 10:21:28 +0900
A6: Y君、佐藤勝昭です。 お答えが遅くなってごめんなさい。
私も自信がなかったので、液体の非線形光学がご専門の 埼玉大学工学研究科応用化学専攻の山口祥一教授にお伺いしました。
先生からのお返事は、
「液体は一様等方でSHG不活性のはずなのに,ハイパーレイリー散乱が観測されるのはなぜか,というお話だったと思います.
電話で先生も仰っていた通り,2倍波を出す双極子のベクトルをそのまま液体全体で足し上げてしまうとゼロになってしまいます
(SHG不活性)が,各分子からの散乱光は双極子の自乗ということで,それを足し上げたものがハイパーレイリー散乱ということになろうかと思います.
このあたりの話を簡潔にまとめたものは,残念ながら見当たりませんでした.どうもすみません.」
ということでした。
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Date: Fri, 23 Oct 2015 00:19:04 +0000
AA: 佐藤勝昭様,Yです.
お返事ありがとうございます.他の先生にも質問して下さりありがとうございます.
「分子のモーメントのゆらぎ」ですか.直感的に納得できます.
佐藤先生に助けてもらい理解がとても進みました.
ボランティアでやっていただいているのに大変失礼ですが,まだよく分からないこともあります.
(どういう集団運動を仮定して理論式を得たのか,集団モードからの散乱とはどういう物理現象なのか,分子の対称性とP,Rは関係あるのか) 次にこの問題と出会った時により深い理解をしようと思います.
いろいろご教授頂き本当にありがとうございました.
P.S 佐藤先生の著書「理科力を鍛えるQ&A」を最近読み始めました.知らないことがたくさん書いてあり面白いです.
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1352. 全反射と金属の反射のちがい
Date: Thu, 29 Oct 2015 10:03:03 +0900Q1: はじめまして。突然のメール、失礼致します 。
HPをみてメールさせて頂いております.
私は、S*社の平本と申しまして、現在、LEDデバイスの設計を担当しております。
HPに載せる際は、社名のみ匿名にして頂ければと思います。
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光の挙動について色々と事実索していたところ先生のWEBサイトにたとりつきこの度メールさせて頂きました。
素人質問で大変恐縮ではございますがこ教授頂ければ幸いです。
質問はAgの反射率iについてです.下記のように理解しておりますがこの認識で間違いないのか確認させて頂ければと思いました。
または根本的な部分についても、事象がこんがらがってしまいましたので、系統立ててご教授頂ければと思いました。
お忙しい中.お手数ですがよろしくお願いします。
私の認識は、反射には大きく2種類有るが.Agの反射特性は①ではなく② に依る.というものです。
①屈折率差に起因する全反射(スネルの法則に基づく)
②自由電子による遮蔽による反射(屈折率は関係なし)
一方、根本的なところで考えると、②の特性は誘電率で決まる。
複素屈折率も誘電率で決まる。
金属の複葉屈折角は複素屈折率で決まる。
金属の反射率も複素屈折率で決まる(金属において1-反射率=吸収率になる?)
このように考えると.①と②は相関がある為、実は②の振る舞いは①に含まれる。
すなわち複素屈折角を正しく求めると結果、どの角度から光が入射しても全反射の挙動になるのでは?となり
先の認識と相反してしまいました。
質問の背景ですが、(幾何光学で光線の振る舞いを計算する)シミュレーションソフトにおいて
従来は面にAgの反射率特性を与えておりましたが、Agの屈折率を調べたところ0.15前後だった為
実は屈折率差に起因する全反射によるものなのか?いや、それだと空気⇒Agでは垂直入射の光が
(スネルの法則を適用した場合は)屈折してしまい、実際の挙動と合わない・・・というような混乱によるものです。
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最後に、このようなサイトを立ち上げ、広く門戸を開けて下さり、心より感謝申し上げます 。
以上、宜しくお願い致します。
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Date: Thu, 29 Oct 2015 11:11:35 +090
A1: 平本様、佐藤勝昭です。
金属の高い反射率は基本的には複素誘電率の実数部ε'が負になることによります。
ε'=n^2-κ~2なので、消光係数κが屈折率より大きいことが負のε'の原因です。
あなたは、消光係数のことを考えていなかったので混乱したのだと思います。
なお金属の反射と色については添付の解説(トライボロジスト誌)をお読み下さい。
屈折率と誘電率の関係については、添付の書籍コピー(機能材料のための量子工学)を参考にして下さい。
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Date: Thu, 29 Oct 2015 11:29:13 +0900
Q2: 佐藤様、早々のご返信、真にありがとうございます 。
まずは送付頂いた添付ファイルを熟読致します。
その後、まだ答えに確信がもてなかった場合は、再度質問をさせてください。
取り急ぎ御礼のみ。
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Date: Thu, 29 Oct 2015 12:09:41 +0900
A2: 平本様、佐藤勝昭です。
資料を読んでいただくとして、ご質問に一応お応えします。
全反射と金属の反射はインピーダンス不整合という点では同じですが、機構が別だと 考えて下さい。
全反射は、単に屈折率の大きな媒体から小さな媒体に光が進むとき臨界角を超えると 伝搬光は伝わらないで近接場光のみ存在するという現象です。
一方、金属のプラズマ周波数以下での高い反射率は、角度によらず起き、金属の吸収 が大きいために金属の表面で吸収されてできた電気双極子がアンテナとなって直ちに 光を放射することによって起きるのです。各双極子からの放射は干渉し合って、反射 の法則で決まる方向に反射するのです。(このようなミクロな機構は本に書いてあり ませんが・・)
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Date: Thu, 29 Oct 2015 16:35:56 +0900
AA: 佐藤様 資料拝読いたしました。
完全に理解しきれた・・・とは言い切れないまでも当初の疑問については解消されました。
改めて勉強ができて楽しかったです 。
ありがとうございました。
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1353. 磁性微粒子の高周波特性
Date: Fri, 18 Dec 2015 10:33:45 +0900Q1: 研究開発戦略センター フェロー 佐藤様
いつもお世話になっております。以前、磁性材のセミナーでご講演を拝聴させていただきましたA社Oと申します。その節は、大変お世話になりました。
突然のご連絡にて大変恐縮ですが、磁性粉体について、ご教示いただきたいことがございます。
渦電流を抑えるために、粒径を小さくすることが有効と聞いております。
一方で、表皮効果という理論も有るようで、整理したいです。
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教えていただきたいことは、
1、 渦電流の発生メカニズムはどのようか?抑えるには、どうしたら良いか?
2、 表皮効果はどのような現象か?表皮効果が発生しているときの磁束はどのようになっているのか?
3、 「高周波中の磁性粉は、表皮に近い部分のみ磁性があり、中心部は磁性が無くなる」と聞いたことがあります。これも渦電流もしくは表皮効果が影響しているのでしょうか?
御回答いただけますと幸いでございます。
御手数おかけいたしますが、御検討お願い致します。
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Date: Fri, 18 Dec 2015 15:01:29 +0900
A1: O様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。
1、 渦電流の発生メカニズムはどのようか?抑えるには、どうしたら良いか?
金属に変化する磁界を印加すると、変化を打ち消す様な磁界を発生させようとして、
渦状の電流が流れる現象です。電気抵抗率が高ければ、渦電流は流れません。
酸化物などとのナノグラニュラー構造を作って抵抗を高めます。
2、 表皮効果はどのような現象か?表皮効果が発生しているときの磁束はどのようになっているのか?
表皮効果は、電磁波が媒体の中に入って減衰することによっておきます。表皮深さは
δ=(2/σ'ωμ0)^(1/2)で表されるので、導電率の実数部が大きいと短くなります。
静磁場の磁束については関係ありません。
3、 「高周波中の磁性粉は、表皮に近い部分のみ磁性があり、中心部は磁性が無くなる」と聞いたことがあります。これも渦電流もしくは表皮効果が影響しているのでしょうか?
私は、そのようなことを聞いたことがありません。
「中心部は磁性が無くなる」というのは、内部にまで高周波磁界が入らないので、
中心部からの磁気共鳴の応答がなくなるということをいっているのではないでしょうか?
なお、ナノ微粒子軟磁性体の高周波特性については、
電気学会編「ナノ構造磁性体ー物性・機能・設計」共立出版2010.6.25刊 第2章を参考にしてください。
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Date: Fri, 18 Dec 2015 19:00:31 +0900
Q2: 佐藤様、早速のご返信ありがとうございます。また、ご丁寧な解説に感謝いたします。
「内部にまで高周波磁界が入らない」とは、渦電流などで磁界が減衰(ジュール熱へ変換)していき到達しないことを指しますでしょうか?
それとも、そもそも磁界が入らないと理解したら良いでしょうか?不勉強で申し訳ございません。
ご提案の著書も確認致します。
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Date: Fri, 18 Dec 2015 21:44:44 +0900
A2: O様、佐藤勝昭です。 表皮効果の式は
E=E0 exp(-iωt) exp{i(ωμ0σ/2)1/2z} exp{-(ωμ0σ/2)1/2z}
と表され、exp{-(ωμ0σ/2)1/2z}の形で減衰します。
高周波磁界も同じ形で減衰します。
これは、仰るとおり、まさに、ジュール熱へ変換が起きているのです。
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Date: Mon, 21 Dec 2015 15:50:52 +0900
AA: 佐藤様, Oです。
いつもお世話になっております。勉強させていただき、誠にありがとうございます。
お忙しい所、丁寧にご回答いただき感謝いたします。
今後ともよろしくお願い致します。
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1354. プラズモンの電場増強効果とステンドグラスの色
Date: Fri, 18 Dec 2015 19:04:48 +0900Q1: こんばんは、初めまして。T**大4年K**です。
HPを拝見させていただき、ご連絡差し上げました。
局在表面プラズモンの光に対する性質について理解できないことがあります。
是非おしえていただけたらと思います。
局在表面プラズモンは、その金属ナノ粒子に対応する共鳴波長(または振動数)を吸収することで 電場増強効果を発揮するということを学びました。
この電場増強効果を用いて、共鳴波長を持つLEDの発光効率を強めることができるとのことでした。
また、もう一つ、ステンドグラスで応用されている原理を調べました。
ガラス中の金属ナノ粒子が共鳴波長を吸収して透過させなくなり、代わりに共鳴波長を持つ色の補色が見えるようになるとのことでした。(例えば共鳴波長が緑色の領域なら赤が見えるようになり、緑は透過しない)
このことを踏まえると、上記の、プラズモンを利用してLEDの発光を強めるというのは、LEDの光を吸収し透過しないので不可能なのではないかと考えてしまいました。
もしくは逆に、共鳴波長の発光効率を上げることができるならば、ステンドグラスは共鳴波長の色に見えるのではないかと。
何か勘違いがあるように思いますが、教えてください。
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Date: Sat, 19 Dec 2015 01:12:24 +0900
A1: さん、佐藤勝昭です。
4年生ということは、卒業研究ですか?卒研での疑問は、本来指導教員に聞くべきものですよ。
ヒントを差し上げましょう。
ステンドグラスの場合は、ガラスの誘電率と金属プラズモンの誘電率の重み付き平均による実効誘電率になっています。
このような実効誘電率の取り扱いをMaxwell-Garnett近似といいます。
この場合は、エネルギーの集中効果を使っていません。
一方、ナノメートルサイズの金属粒子に光を照射すると粒子表面に表面プラズモン共鳴が励起され、 光のエネルギーが粒子表面に集中する効果が得られます。このように光を制御する効果をもつ金属 のナノ構造はナノアンテナと呼ばれます。表面プラズモン共鳴の電場集中効果によりナノアンテナ の周囲では照射した励起光の強度が高くなり蛍光体に光が集中し強く励起されるのです。ナノアン テナは光を特定の方向に回折し、外部に放出する役目を果たすたします。
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Date: Sat, 19 Dec 2015 12:26:45 +0900
Q2: Kです。早速のご回答ありがとうございました。
佐藤先生のおっしゃる通り卒業研究の内容であり、この疑問は指導教員に聞くべきものでした。
指導教員の考え方が理解できないので、佐藤先生にご意見いただければと思いました。
ご返信いただいたことで、ステンドグラスと電場増強では別の現象が起こっていることがわかり、とてもすっきりしました。
詳しいことはまた調べてみようと思います。感謝いたします。
また、
増強したい光の波長を吸収するようなプラズモンをLED上に作ればLEDの発光強度は大きくなる可能生がある。
透過率は電場増強にはあまり関与しないとの見解のもと実験を行っていますが、不安になりました。
私の考えの勘違いはどういった点でしょうか。
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Date: Thu, 24 Dec 2015 16:14:10 +0900
A2: さん、佐藤勝昭です。
プラズモンによるLEDの光増強を研究しておられる岡本先生に伺いました。
先生の見解は以下の通りです。参考にして下さい。
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「金属微粒子による局在表面プラズモンを利用する場合、励起波長とプラズモン共鳴波 長が重なれば増強しますが、発光波長と重なる場合は、金属微粒子のサイズによって 吸収断面積と散乱断面積が異なりますので、その比によって消光か増強かのどちらかが起きます。
従って、小さい微粒子の場合は吸収が増強される場合が多く、逆に大きめの微粒子の場合はプラズモン が集めた光を散乱するので、発光増強できるということだと思います。」
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Date: Fri, 25 Dec 2015 14:04:49 +0900
AA: 佐藤勝沼先生
T*大学のK*です。
お忙しい中、別の先生に確認などしてくださりありがとうございます。
突然連絡をしたにも関わらずこのような対応をしていただけたことに、 大変感銘を受けております。
岡本先生のプラズモンの本は何冊か拝見しており、岡本先生にまでご意見を頂けて嬉しい限りです。
そして想像以上に金属表面プラズモンによる電場増強が難しいということがわかりました。
ここ最近の疑問がそういうことだっかのかと、納得できました。
ありがとうございました。
佐藤先生の質問コーナーを通じて多くの知識を得ることができたことに感謝申し上げます。
多岐に渡り丁寧な回答をどうもありがとうございました。
より一層卒論研究に励みたいと思います。
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1355. 炎色反応の記述
Date: Wed, 23 Dec 2015 09:00:12 +0900Q1: はじめまして。福田と申します。某企業で化学系の専門職を長年勤め、現在は退職して無職です。
「基礎から学ぶ光物性」 (第9回第1部ルミネッセンスとは)を見て、一つ疑問があります。6枚目のスライドに、
(1) 原子が光る→炎色反応 原子は高温に熱せられると、熱励起により励起状態になった原子が基底状態に 戻るときに特有の色の発光をする性質があります。これを「炎色反応」と呼びます。
という記述がありますが、Cu、Ca,、Sr等の炎色反応の色は、原子スペクトルの色ではなく、塩化銅、塩化カルシウム、 塩化ストロンチウムに起因する分子スペクトルの色と思うのですが、いかがでしょうか?
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Date: Wed, 23 Dec 2015 09:27:06 +0900
A1: 福田様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。Wikiでは、「高温の炎中にある種の金属粉末や金属化合物を置くと、 試料が熱エネルギーによって解離し原子化される。それぞれの原子は熱エネルギーによって電子が励起し、 外側の電子軌道に移動する。励起した電子はエネルギーを光として放出することで基底状態に戻り、この際に 元素に特徴的な輝線スペクトルを示す。」
となっています。原子スペクトルと考えてよいでしょう。
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Date: Thu, 24 Dec 2015 23:38:44 +0900
Q2: 佐藤先生
早速のお返事をいただき、ありがとうございます。
実は、私は定年退職後、初心に帰って高校の化学教科書を復習しており、今、炎色反応をいろいろ調べています。Cu、Ca、Srの炎色反応の色について、輝線スペクトル(原子スペクトル)ではなく、バンドスペクトル(分子発光)に起因するのではないかと思ったのは、インターネットで次のような記述を見たからです。
「炎色反応により放出される光には、主に3種類ある。1つには、線スペクトルで特定の波長のところにでてくる多数の純粋に近い単色光からなり、その形状が多数の細い線からなるスペクトルである。2つ目は、連続スペクトルで分光器の分解能を上げても分解されずに連続的に現れるスペクトルである。3つ目は帯(おび)スペクトルで分子の与えるスペクトルである。原子のそれのように線ではなく、幅を持った帯状のスペクトルである。
スペクトルの中でたくさんのスペクトルが集中している部分をバンドスペクトルという。この光の特徴は原子やイオン、固体から出るのではなく、気体分子、特に二原子分子から放出される点にある。2500℃ほどの温度で発色させるには好都合であり、花火にはもちろん炎色反応で見られる鮮やかな色の部分はこのバンドスペクトルであると考えられる。」
また、別の記事には、表-1に、「Cu (炎色:緑、波長:537.0nm (CuOH)), Ca (炎色:赤黄、波長:622.0nm (CaOH)), Sr (炎色:紅、波長:605.9nm (SrOH))」 という記述がありました。
アルカリ金属の炎色は確かに 輝線スペクトル(原子スペクトル)ですが、アルカリ土類金属やCuはどうも バンドスペクトル(分子発光)が主因のような気がします。インターネット情報で怪しい面もありますが、もう少し調査してみたいと思っています。
今後とも、ご指導のほどよろしくお願いします。
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Date: Fri, 25 Dec 2015 07:24:09 +0900
A2: 福田様、佐藤勝昭です。
ご指摘いただきありがとうございます。
私は、話を簡単にするため、輝線スペクトルのみを扱いましたが、 たしかに気体分子から発光している発光帯がありました。
資料に注意書きを入れたいと存じます。
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1356. 金の透過光について
Date: Wed, 23 Dec 2015 23:06:00 +0900Q1: 佐藤 勝昭 先生
はじめまして。
私は高校で化学を教えております山本喜一です。
この度、金がなぜ金色をしているのかを調べておりましたら、先生の「金属の色と金属光沢」に巡り合い、大変勉強になりました。
次に疑問に思っているのは、薄い金箔が青い透過光を示す原因についてです。
金箔に光を当てた場合、550nmよりも長波長側の光はプラズマ振動によって反射され、550nmよりも 短波長の青い光は5d→6s間のバンド遷 移に使われて、最終的に熱になってしまうのであれば、 青い透過光は生じないはずだと考えております。
どのような仕組みで、金箔が青い光を透過させるのかをご教授いただければ、幸いです。
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Date: Thu, 24 Dec 2015 10:40:05 +0900
A1: 山本先生、佐藤勝昭です。
PalikのOptical Constants of Solids Vol.1 p294に掲載されている金の消光係数kのスペクトルを元に吸収係数αを
α=4πk/λ
の式で計算し、これに基づき厚さd=20nm=200Åの金薄膜の透過率T(%)を
T=exp(-αd)*100
として計算しました。
添付図の様に透過率のピークは4900Å(青緑)付近にあり、短波長側(青側)は緩やかに低下し、長波長側(緑側)は急激に低下しています。
このため、目には青の成分が強く入り、青っぽく見えるのでしょうね。
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Date: Thu, 24 Dec 2015 21:12:25 +0900
Q2: 佐藤 勝昭 先生
お忙しいところ、早速のご返信ありがとうございます。
不勉強で申し訳ありません。
先生に計算していただいた透過光のスペクトル分布は、プラズマ振動や5d→6Sバンド間遷移とはどのような関係があるのでしょうか?
ご教授いただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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Date: Thu, 24 Dec 2015 23:00:39 +0900
A2: 山本先生、佐藤勝昭です。
添付の図は、Cu, Ag, Auの誘電率のスペクトルです。
厳密な意味で誘電率の実数部が2-5eVで0を横切るのはAgだけです。
Auにおいて2eVより低エネルギーのε"のスペクトルは自由電子による Drude吸収のすそです。
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Date: Fri, 25 Dec 2015 08:58:33 +0900
AA: 佐藤勝昭 様、山本です。
お忙しいところいろいろと教えていただき、ありがとうございました。
大変勉強になりました。
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1357. 複素誘電率について
Date: Thu, 31 Dec 2015 17:26:31 +0900Q: 佐藤勝昭先生
HPを拝見させていただきました。K*大学4年生のT*と申します。Webへ掲載する名前は匿名でお願いいたします。
誘電率及び複素誘電率について質問させていただきたく存じます。
複素誘電率は一般的に
ε=ε1+iε2 ・・・ (1)
の形で表されるのは様々な教科書に書かれているかと思います。
一方で、ネットや文献で物質の誘電率を調べると特定の実数値(例えばガラスであれば4.0など)で表記されています。
これは、上式の(1)と矛盾しないのでしょうか?
もしくはこのように文献値に示される実数値は、ε1なのかε2なのか、|ε|なのか、はたまたこれとは別のεのことなのでしょうか?
いろいろ調べていくと、デバイ型の誘電率では、ε(∞)やε(0)という値が出ることがわかったのですが、これらの値のことなのでしょうか?
私の誘電率に関する理解が間違っている部分があればご指摘いただければと思います。
お手数おかけいたしますが、ご回答いただければ幸いです。
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Date: Thu, 31 Dec 2015 19:00:25 +0900
A: 君、佐藤勝昭です。
複素誘電率の実数部が普通の誘電率です。虚数部は、誘電損失を表す物理量です。
キャパシタ(コンデンサ)の場合、その容量を決めているのは誘電率の実数部です。
コンデンサの損失を決めているのが誘電率の虚数部です。コンデンサに使う誘電体の性能(悪さ)を表すために誘電正接tanδ=ε"/ε'が使われます。
誘電率も誘電正接も周波数依存性があります。京セラの誘電体のカタログによれば、1MHzにおける比誘電率、誘電正接が下の表のように載っています。
材質 | 比誘電率 | 誘電正接(10-4) |
---|---|---|
アルミナ(Al2O3)A445 | 9.8 | 20 |
イットリア(Y2O3)Y100A | 11 | 5 |
サファイアSA100 (⊥c) | 9.3 | <1 |
アルミナA-445 | ε'=9.8 | ε"=1.96x10-2 |
イットリアY100A | ε'=11 | ε"=5.5x10-3 |
サファイアSA100 | ε'=9.3 | ε"<9.3x10-4 |
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誘電体の周波数特性は、誘電分極の種類によって異なります。
共有結合性の誘電体の誘電率は電子分極から生じバンドギャップの大きなものは誘電率のピークはバンド間遷移で起きます。
イオン結晶の場合は、ローレンツ型の分散となり赤外部に共鳴型のピークになります。
液晶などの配向分極の場合は、デバイ型の誘電率分散式で表されます。
デバイの分散式は比誘電率εの角周波数ω依存性として次式で与えられます。
ε(ω)=ε(∞)+Δε/(1+iωτ)
この式では誘電緩和による誘電率虚数部のピークはω=1/τで表されます。
直流における誘電率は
ε(0)=ε(∞)+Δε
で与えられます。
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誘電体については、佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)第4章(古川猛夫執筆部分)をお読みください。
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Date: Thu, 31 Dec 2015 21:40:36 +0900
AA: お忙しい中、早急かつ明快なご回答いただきまして誠にありがとうございます。
なるほど、実数の誘電率は複素誘電率の実数部だったのですね。
自明なことなのか、それを明記した資料がなかなか見つからず、困っていました。
勧めていただいた佐藤先生の書籍を是非読ませていただき、詳しく勉強させていただきます。
本当にありがとうございました。
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1358. ファラデーの電磁誘導の法則について
Date: Tue, 5 Jan 2016 20:50:04 +0900Q: 初めまして、突然のメール失礼致します。N*高専5年のI* と申します。
卒業研究で行き詰っていたところ、HPを見てご連絡させていただきました。
電磁気学についての質問です。
現在行っている研究で、準定常状態におけるファラデーの法則について悩んでいます。
質問の内容ですが、
添付した写真のように抵抗を持つ閉回路で積分形のファラデーの法則を適用すると
右辺が0または磁束の時間微分どちらになるのかということです。
準定常状態においてはキルヒホッフの第2法則が成り立つため0となります。
しかし、-gradVが周回積分を行うと0になるのは理解できるのですが、誘導された電場であるベクトルポテンシャルAの時間微分を周回積分 した項が0になるとは思えないのです。
浅学のため的外れなことを考えているかもしれませんが、是非ともご意見を伺わせてください。
よろしくお願い致します。
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Date: Tue, 5 Jan 2016 23:12:13 +0900
A: I君、佐藤勝昭です。
卒業研究の疑問は、本来、指導教員に聞くのが原則です。
理解するには、rotE=∇xEなどの高度な微分演算を学ぶ必要があります。
添付ファイルの式(5)の様に、閉曲線Cに沿ってのEの線積分は ストークスの定理により、∇xEをcが囲む面積積分に等価です。
∇xEは式(4)によれば、磁束密度Bの時間tについての偏微分に等しいので 積分と偏微分の順番を入れ替えると式(5)の4番目の式のように磁束密度の 面積分の時間微分になっている。磁束密度の面積分は磁束Φなので 式(5)の第5式のようになります。磁束の変化がある限り0になることはありません。
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Date: Wed, 6 Jan 2016 14:19:00 +0900
AA: お世話になっております。N高専5年Iです。
お忙しい中、早速のご返答ありがとうございました。
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1359.液中プラズマについて
Date: Wed, 3 Feb 2016 16:51:13 +0900Q1: HPの方を拝見させて頂いて質問させて頂きました。参考にさせて頂いております。
私はM*大学・理工学部3年のI*と申します。匿名でお願い致します。
授業でプラズマについて勉強しました。なかでも、液中プラズマが注目されていて、 液中プラズマはナノ粒子などの生成に期待されているとのことでした。プラズマに関しては 一生懸命、勉強しまして基本的な知識はあります。
しかし液中プラズマについて調べていく中で、液中プラズマはナノ粒子を合成する際に、 粒子を均一にし、分散性があるということでしたが、その理由が調べても書かれていません。
なぜ、液中プラズマには粒子を均一に分散させる効果があるのでしょうか?
よろしくお願い致します。
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Date: Thu, 4 Feb 2016 01:05:39 +0900
A1: I君、佐藤勝昭です。
「液中プラズマ」とは液体中の気泡中に温度数千K のプラズマを発生させる技術です.
数千Kの高温なのでダイヤモンドでも合成できます。気泡は極めて狭い反応場なので、 ナノ粒子を均一に製造するのに向いているのでしょう。
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Date: Thu, 4 Feb 2016 11:53:49 +0900
Q2: M大 Iです。迅速な対応ありがとうございます。分散性の高さも同様に反応場が 気泡中の狭い範囲のためだからでしょうか?
よろしくお願い致します。
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Date: Thu, 4 Feb 2016 21:20:18 +0900
A2: I君、佐藤勝昭です。
分散性については、東京都立産業技術研究センター研究報告,第10 号,p92 (2015年) が参考になります。
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Date: Sat, 6 Feb 2016 13:33:36 +0900
Q3: M大Iです。何度も質問してしまい申し訳ありません。
液中プラズマについて学んで行くうちに疑問に思ったのですが、液中プラズマでナノ粒子を合成する にあたって授業ではいずれも利点しか示されていません。デメリットはないのでしょうか?
よろしくお願い致します
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Date: Sun, 7 Feb 2016 22:22:50 +0900
A3: I君、佐藤勝昭です。
J. Plasma Fusion Research Vol.84, No.10 (2008)に次のような記述があります。
「水中でアーク放電を起こすときの電極間距離は約1 mmであるが,電極の間の狭い空間で形成する生成物は陰極上 に堆積した後,放電中に陰極より脱離して水底に沈むことが多い.
また,プラズマから液に向かって移動する炭素蒸気が冷却・固化してできた生成物は,表面が疎水性で粒子径が十分に 小さければ表面張力によって液面に浮遊する.」
と書かれており、実際にナノ粒子生成物を高効率で得るのは工夫が必要だと思います。
また、高圧アーク放電は電源装置が大きく使い勝手が悪いので、最近はマイクロ波液中プラズマを使うことが行われているようです。 例えば、北大先進材料ハイブリッド工学研究室 「マイクロ波液中プラズマ法によるナノ材料の創成」 をお読みください。 いずれにせよ、発展途上の技術なのでスケールアップして生産ラインで使うには、多くの解決すべき課題があるのではないでしょうか。
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Date: Fri, 12 Feb 2016 00:07:58 +0900
AA: 佐藤勝昭 様、M大学部Iです。
返信が遅くなり本当に申し訳ありませんでした。
参考文献の方送って頂き大変助かります。
これからもっと勉強していきます。
本当にありがとうございました。
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1360.硫酸銅水溶液をビタミンCで還元したときの色
Date: Fri, 12 Feb 2016 01:21:35 +0900Q1: 佐藤勝昭 様、HPを拝見してメールさせて頂きました。
私は個人塾でアルバイトをしています。N*大学2年S*と申します。匿名でお願い致します。
生徒の方から、学校の授業の実験について質問を受けたのですが分かりませんでした。
実験は、硫酸銅五水和物(CuSO4・5H2O)を純水に溶かして硫酸銅水溶液を作製
その後、水酸化ナトリウム水溶液を滴下して水酸化銅(Cu(OH)2)を生成
すると、溶液の色はきれいな青色になります。(銅の錯イオンも関係して?)
ここまでは理解できたのできました(有名な反応ですので)
その後、L-アスコルビン酸(C6H8O6)というビタミンCを入れると緑色になり、さらに入れるとオレンジ色に変化したそうなのです。
その変化の化学式は予想はできるのですが、この色は何が起因しているのか(原子・分子・イオン(錯イオン)など)がわかりません。
お答えができそうであれば、お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い致します。
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Date: Fri, 12 Feb 2016 10:44:50 +0900
A1: S君、佐藤勝昭です。
塾講師なのに熱心に生徒と向き合っておられ感心します。
(以下の説明は高校生には難しいかも知れませんね。)
Cu2+の水和物(Cu(H2O)6)2+は薄い青色です。この青色の起源は、 Cu2+のもつ3d軌道における配位子場遷移です。Cu2+イオンの3d軌道は、6個のH2O 配位子による配位子場によってエネルギーの低いt2g軌道とエネルギーの高いeg軌道に分裂しています。
(この分裂の大きさは配位子の種類によって異なります。共有結合性が強いほど大きくなります。)
添付図1の吸収スペクトルに示す様に、(Cu(H2O)6)^2+は赤の波長域にt2g→egの吸収帯があるのですが、600nm-340nmには吸収が なく、赤の補色であるシアン(青緑)の色が見えます。
L-アスコルビン酸で還元しますと、第1段階ではCu2+→Cu1+となります。
Cu1+の3d電子は3d10閉殻となりますから、3d電子による配位子場遷移が 減少、L-アスコルビン酸の色(添付図2)の黄色が混じって緑に見えます。
さらに還元を続けると、Cu1+→Cuとなり、銅のナノ粒子が分散します。
銅粒子の表面プラズモンの影響で3つめの添付図のように強い橙色に着色します。
図はhttp://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2011/gc/c0gc00772b#!divAbstract から
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Date: Fri, 12 Feb 2016 13:22:29 +0900
Q2: 佐藤勝昭 様
N大学2年 Sです。
詳しい説明のほうありがとうございました。正直に申しますと難しいですね。
(見たこともない用語ばかりで驚きました)
英語の論文まで頂きまして、大変感謝しております。
化学はとても好きなので、これからもっと勉強します。
生徒に少しでもうまく伝えられるように、頂きました資料とともに学習します。
本当にありがとうございました。
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Date: Fri, 12 Feb 2016 18:52:05 +0900
A2: S君、佐藤勝昭です。
電気電子工学科2年生では配位子場遷移は学んでいないですね。
私の友人で東大名誉教授の小島憲道先生の基礎現代化学の講義パワポのp25以降が参考になります。
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Date: Sat, 13 Feb 2016 02:47:54 +0900
Q3: 佐藤勝昭 様、N大学2年Sです。
ありがとうございます。わざわざ資料まで送って頂き本当に勉強になります。
ここで質問させて頂いてから、自分でもいろいろ調べました。(春休みに入りましたので、、)
すると、一つ論文を見つけまして、読んでおりました。
それは、硫酸銅水溶液にL-アスコルビン酸を入れて水酸化ナトリウム水溶液を入れて プラズマを照射して銅を作製するというものでした。
プラズマについての知識は正直ほとんどありませんが、単純に佐藤様に教えて頂きました、L-アスコルビン酸でオレンジ色の状態 (銅の表面プラズモン)まで還元しているのであれば、そのプラズマというのを照射して銅にするというのが疑問に思いました。
プラズマを照射する前のオレンジの状態で銅なのではないでしょうか?
質問の仕方が下手で、伝わりづらいかもしれませんが、よろしくお願い致します。
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Date: Sat, 13 Feb 2016 07:24:52 +0900
A3: 君、佐藤勝昭です。
熱心ですね。
確かにオレンジ色の状態の色をきちんと見たわけではないので、はじめのご質問の最後の状態でCuのナノ粒子まで還元したのか不明ですね。
プラズマ照射と言うのは、おそらく液中プラズマ放電を起こして分散性の高いナノ粒子を作ったのでしょう。
この技術については、なんでもQ&Aの1359番を参照ください。
ナノ粒子の表面プラズモンによるオレンジ色の着色については、金のナノ粒子を分散させたガラスが赤く見えるのと同じで、プラズマを使ったプロセスとは別の話です。
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Date: Sat, 13 Feb 2016 10:48:10 +0900 AA: 佐藤勝昭様、Sです。
詳しく対応して頂いて本当に感謝です。プラズマという技術も面白いですね。
生徒に、ちゃんと伝えられるように、もう少し勉強してみます。
本当にありがとうございました。
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1361.Er3+イオンの蛍光スペクトル
Date: Thu, 18 Feb 2016 13:17:02 +0900Q: 佐藤勝昭 様
HPを見てこのメールをお送りした次第です。
K高専材料工学科5年のIと申します。
現在、卒業研究において少し行き詰っており、指導教官に質問したところ、佐藤勝昭様のHPで質問してみては?
という助言をいただき、メールさせていただきました。
Er3+イオンのエネルギー準位に関する質問です。
現在卒業研究において、酸化物ナノ粒子にErを添加し、近赤外領域においての蛍光特性の評価を行っています。
Erは光ファイバーや増幅器などに使用されており、980nmの波長で励起され、1550nmの蛍光が起こります。このとき、 励起状態の4I13/2から基底状態の4I15/2への光学遷移によって蛍光が起こります。
ここからが質問となります。
・配位子の影響により4I13/2や、4I15/2の準位が7つ、8つ程細分化されるようなのですが、今のところ細分化された 準位の詳細が書かれている文献が見つかりません。細分化された準位について詳しくご教授いただけないでしょうか。
・また、測定した蛍光スペクトルは1300nmから1600nmの範囲で測定を行ったのですが、①1350nm~1400nm, ②1450nm~1500nm,③1550nm~1600nmにおいて蛍光が起きており、それぞれ①4I9/2→4I15/2,②4I11/2→4I15/2, ③4I13/2→4I15/2の光学遷移によるものだと私は考察しました。③についてはいろいろな文献に書かれていたため、 恐らく当たっていると思うのですが、①と②については詳細な文献がなかったため、断定することができません。
①,②,③それぞれの蛍光はどの軌道の遷移によるものなのでしょうか。
蛍光ピークがどの軌道遷移によるか説明する必要があるので、これらの準位については私にとって大変重要な情報となります。
大変お忙しいところ申し訳ありませんが、学部2年生レベルでも理解できるような説明をお願いしたいです。
それではよろしくお願いいたします。
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Date: Thu, 18 Feb 2016 15:59:48 +0900
A: I君、佐藤勝昭です。 高専生には程度の高すぎる問題なので、やさしく説明できるか自信がありません。 Er3+は4f電子を11個もっています。4f軌道の軌道角運動量量子数L=3です。ということは、Lz=3, 2, 1, 0, -1, -2, -3なので7個の軌道があります。
この7個の軌道に11個の電子をHund則に従って、スピンの合計がなるべく大きくなるよう詰めていくと7個の上向きスピン電子でLz=3, 2, 1, 0, -1, -2, -3が埋まり、L=0, S=7/2となり、残りの4個の電子は下向きスピンとなってLz=3, 2, 1, 0を占めるので、L=6S=4x(1/2)=2です。上向きと下向きを合計すると、L=6, S=7/2-2=3/2 となります。
L=0,1,2,3,4,5,6に対して、S,P,D,F,G,H,Iで表すことになっているので、軌道角運動量を表す記号はIです。一方、スピンについては、スピン3/2のz成分は3/2, 1/2, -1/2, -3/2の4通りを取れるので、これをIの左肩に書きます。4Iとはそれを表します。一方、添字には基底状態の全角運動量の成分を書くことになっており、4f11の場合は|L+S|=6+3/2=15/2です。それで基底状態は4I15/2と書くのです。
励起状態は|L-S|=9/2, |L-S|+1=11/2,|L+S|+1=13/2を取れるので4I9/2, 4I11/2, 4I13/2の3準位となります。
質問回答1.あなたの①と②, ②と③の平均のエネルギー差はそれぞれ533cm-1, 383cm-1と、ほぼスピン軌道相互作用の大きさなので、アサインはOKでしょう。
結晶場やスピン軌道相互作用を考えなければ4I13/2は13/2,11/2,9/2,7/2,・・,1/2の7つの成分が、4I15/2は15/2,13/2,・・・,1/2の8つの成分が縮退しています。実際には、電子相関、スピン軌道相互作用、結晶場等による分裂が起きます。
固体中の希土類イオンのエネルギー準位の細かい話は、1957年のElliottらの論文 J. P. Elliott, B. R. Judd, W. A. Runciman: Energy Levels in Rare-Earth Ions; Proc. R. Soc. Lond. A 1957 240 509-523 に詳しく書かれています。
Abstractによれば、(a)電子間のクーロン相互作用、(b)電子のスピン軌道相互作用、(c)結晶場 を考慮して論じているようです。(私は読んでおりませんが、高専生にははっきり言って無理です。)
GdOClに添加したEr3+の結晶場を考慮した扱いについては、1997年のHolsoらの論文 J. Holso, E. Sailynoja,R.-J. Lamminmaki, P. Deren, W. Strek, P. Porcher: Crystal field energy level scheme of Er3+ in GdOCl Parametric analysis; J. Chem. Soc., Faraday Trans., 1997, 93, 2241-2246が詳しく扱っています。
Abstractによれば、17個の2S+1 L J 準位; すなわち4f11配置の 182個のクラマース2重項から生じた61 個のスタルク分裂した成分から成り立っているということが書かれています。解析には電子相関を表すラカーのパラメータ (E 0?3 ), ツリーのパラメータ (α, β, γ) 、ジャッドのパラメータ (T k ; k = 2-4, 6-8) およびスピン軌道相互作用定数(ζ 4f)、C4v結晶場を表すBqk(B02, B04, B44, B06, B46)でフィットしたとあります。
質問回答2:微細構造まで説明するのは、高専生レベルでは無理です。、(a)電子間のクーロン相互作用、(b)電子のスピン軌道相互作用、(c)結晶場 などで分裂していると書くべきでしょう。
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Date: Thu, 18 Feb 2016 17:52:31 +0900
AA: 佐藤勝昭 様
早速のご返答、ありがとうございます。
非常にわかりやすいご説明ありがとうございます。
佐藤さんの解説を参考に、卒業研究の考察をさらに深めていこうと思います。
本当にありがとうございました。
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1362. PVC樹脂の物性
Date: Thu, 10 Mar 2016 08:57:20 +0900Q: 佐藤勝昭様、初めてご連絡をさせていただきます。 Y*社のT*と申します。
佐藤様のHPを拝見して、質問をさせて頂きます。
大変お手数かとは思うのですが、WEBへの掲載の際には、社名、氏名とも匿名にてお願いを致します。
早速ではありますが、樹脂(PVC)の特性について質問をさせていただきます。
『PVCは低温で硬く、もろくなる』というのは一般的な知見だと思うのですが、 日本の1月(冬)の平均気温6.1℃、8月(夏)の平均気温26.7℃(“気象庁 過去の気象データ”より抜粋)。
この20℃程度の温度変化はPVCに対してどれほどの物性変化をもたらすのでしょうか。
樹脂材料をプレス加工しているのですが、冬に樹脂が“欠ける”ということが多々あります。なぜでしょうか。
ご多忙化と存じますが、ご回答のほど宜しくお願い致します。
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Date: Thu, 10 Mar 2016 10:50:32 +0900
A: T様、佐藤勝昭です。
メールありがとうございます。樹脂は私の専門ではありませんので
Webサイトの情報をもとにでお答えします。
ポリ塩化ビニールのガラス転移温度Tgは83℃です。ガラス転移温度とは液体状態の物質を急冷したとき、安定な結晶状態に転移することなく、 ガラス状態(ランダムな分子配置を持つ状態)に移る温度です。
高分子は一般にTg以上の温度ではゴムのような弾性を示しますが、Tg以下になると、温度が下がるほどもろくなります。
ガラス状態は、非平衡なので何かの外部状況で平衡状態の結晶になり、もろくなります。
(窓ガラスなどが結晶化によって失透する現象がよく知られています。)
PVCにわずかな可塑剤を入れると、Tgを最大-40℃まで下げることができ、室温で、ゴムのような弾性を示します。
可塑剤の量でコントロールできるのではないかと思います。
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Date: Thu, 10 Mar 2016 12:06:42 +0900
AA: 佐藤勝昭様、Y社のTです。
早々にご回答頂き、ありがとうございました。
樹脂材料において、Tgが重要であり物性変化があることがわかりました。
結晶性か非結晶性の樹脂なのかということも含め、奥が非常に深く“樹脂が欠ける”現象に対して、 紹介していただいたサイトも参考にさせていただき、さらに掘り下げて調べていきたいと思います。
また質問をさせていただく際には、お手数かと思いますが、何卒宜しくお願い致します。
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1363.異種金属の接触電位差
Date: Tue, 12 Apr 2016 14:45:53 +0900Q1: 佐藤勝昭先生 はじめまして。T大学2年のT*と申します。(公開の際は匿名でお願いいたします。)
個人的に太陽電池に興味を持っておりまして、『太陽電池のキホン』や『高校数学でわかる半導体の原理』などでまずは基本的なことから 勉強をしております。しかし、半導体や金属の接合について根本的な理解が出来ていない点があると感じており、 思い切ってこちらにて質問させていただくことにしました。初歩的な質問で恐縮ですが、お教えいただけますでしょうか。
① 異種金属同士の接合では、仕事関数の差分の接触電位差が生じるということですが、これは半導体同士の接合で見られる様な電位の曲がりは起こらず、 界面においてステップ状に電位が変化するという理解で正しいでしょうか?
その場合、接合界面にプラスとマイナスの電荷が貯まることで一種のコンデンサーの様な状態になっているのかと想像しており、例えばAlとAuの接合の場合、 どれくらいの電子が動くか計算してみたいと思いました。しかし、コンデンサーとして捉えた場合の電極間の距離dがどうもうまく定義できず、 行き詰まってしまいました。異種金属接合界面における電子移動の量などを定量的に算出できる方法などあればお教えいただけたらと思います。
また、こうして接合した異種金属の場合、接合したままの状態でAl側とAu側での仕事関数をそれぞれ測定したとすると、その値は同じになるのでしょうか、 それとも異なるのでししょうか?もともとのAlとAuの仕事関数がそれぞれ得られるのだとしたら、接触電位差で生じた電位差はどこに行ってしまうのでしょうか? Alに対してAu側の電位が高い状態(電位がマイナス)になっているのだとしたら、Alに接合したAuから電子を引き出す場合と、独立したAuから電子を引き出す場合と では必要なエネルギーが異なる様に感じてしまいます。真空準位がシフトするという説明がなされる場合もありますが、真空準位とは無限遠の真空状態を仮定した 時の電位だと理解しており、その値が変動してしまうという解釈にも違和感があります。
② 「なんでもQ&A」No.728の図bにおいて、 n型半導体側にφm-φsの電位差が生じていますが、金属側に溜まった電子は、質問①の金属同士の接合で見られるようなステップ状の電位変化を生まないの でしょうか?半導体側のプラス電荷と同じ量だけの電子が、接合界面の金属側に溜まっているように思い、半導体側と金属側でそれぞれ(φm-φs)/2ずつの 電位差を生み出し、半導体側はバンドが曲がるけれど金属側では電子が自由に動けるためにステップ状の電位変化になるのではないかと思ってしまいます (もちろん、半導体側だけに電位をかけることは難しいので、この場合も障壁を越えるためにはφm-φsの電圧が必要であることに変わりはないのですが)。 全ての電位差が半導体側だけで作られるというのはどういった原理によるものなのでしょうか?
また、同図cにおいて、半導体側のバンドが曲がる理由がわかりません。 参考書などで「空乏層ができるためバンドが曲がる」といった説明をよく目にするのですが、n型半導体と金属のオーミック接合の場合、n型半導体に電子が 注入する形になると思います。もともと電子が多い状態にさらに電子が増えるだけなので、空乏層はできないように思うのですが、間違いでしょうか? 「空乏層ができる」=「バンドが曲がる」という理解が違うのか、あるいはこの場合でも空乏層はできているのでしょうか?同様に、真性半導体と金属の 接合でも、こういったバンドの曲がりは生じるのでしょうか?
③ 「なんでもQ&A」No.366で 縮退半導体のことを知りました。金属に似た性質も示すということですが、縮退半導体と金属を接合した場合は、①の金属同士の接合のように接触電位差が 生じて界面でステップ状の電位変化が生じるのでしょうか?それとも、②の縮退していない半導体と同様に、バンドの曲がりが生じるものなのでしょうか?
縮退半導体を用いるとオーミック接合を作れる原理が、「バンドは曲がるけれど、空乏層の幅が狭くなってトンネル電流が流れる」ということなのか、 それとも「バンドは曲がらずに金属同士の接合と同様に扱える」ということなのか、どちらでしょうか?あるいはこの2つは連続した現象で、金属同士 の接合の場合にも、細かく厳密に見ていけば半導体の時のようなバンドの曲がりが、極僅かな幅で急激にあるものなのでしょうか?
初歩的な質問で恐縮ですがお教えいただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
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Date: Tue, 12 Apr 2016 23:18:23 +0900
A1: T君、佐藤勝昭です。 確かに、金属/絶縁体/半導体(MIS)構造や、金属/半導体ショットキー接合は 固体物理の教科書に出ていますが、異種金属の接合については載っていませんね。 金属どうしの接合については立教大サイトが参考になります。
添付図に従って説明しますと
(a)仕事関数が異なる2つの金属A,Bがあったとします。
(b)電子がBからAに移動してフェルミ準位EFが同じになるまで電子が移動します。
(c)電子の移動に伴って真空準位が下がります。これはEFから見る真空準位が、 電子の移動する前と同じでなくてはならないためです。
この結果真空準位に仕事関数差の電位差が生じます。これが接触電位差です。 (d)金属の表面には、電子が出て行ったB側にプラスの表面電荷が、電子を受け入れたA側にマイナスの表面電荷が生じます。
光電子放出実験によって電子が飛び出す閾値を測ると、接合前の仕事関数が得られるはずです。
一方、金属と半導体のショットキー接合を考えますと、半導体側の空間電荷の分布を考慮したポワソンの方程式を解くと、距離に対し2次関数で変化します。
佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)p88-89のショットキー接合の記述(添付)を参考にして下さい。
学部3年になってから学ぶと思いますが、量子論に基づく固体物理学、特に、フェルミ準位について、よく学習しておいてくださいね。
各質問にお答えします。
(1) 金属内では、電位の曲がりは起きません。電磁気学で学んだように、理想的には導体内は電位が一定です。
接合界面における電荷の動きですが、フェルミ準位をそろえるためにどれだけ電荷移動が起きるかを計算する必要があります。
きちんとやろうとすると、バンド計算をしてフェルミ面付近の電子の状態密度を見積もる必要があるでしょう。
(2) 金属・金属接合面で電子のエネルギーはステップ状には変化しません。
真空準位の電位が変化するのです。電磁気学では、金属内の電位は一定ですが、n型半導体側は、界面付近の電子が金属に流れ込んだため、 プラスの空間電荷の分布ができたので、ポワソン方程式に従って2次関数的な電位変化が生じます。
金属側に入った電子は通常は多数の電子の海に少しだけ入ったので、電位変化は無視できますし、界面には結合の切れたことによる トラップ準位があるので、そこに捕まっているはずです。
(3) 縮退半導体は、フェルミ準位が伝導帯に入っているので、金属的な電気伝導を示しますが、キャリア密度は金属に比べ圧倒的に 少ないので、電子が金属に流れ込んでフェルミ準位を一致させた結果、界面には正の空間電荷ができ、非常に薄いポテンシャル障壁 が生じます。しかし、大変薄いので、トンネル的に電流は流れ、オーム性接触になると考えられます。
産総研の半導体解説サイト を参考にして下さい。
(3度にわたってメールで回答したものを、ここではまとめて示してあります。)
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Date: Fri, 15 Apr 2016 19:08:31 +0900
Q2: 何度もご返信いただき、ありがとうございます。電車や会議の合間を利用してこんなに早くお返事いただけるとは思っていなかったので、ただただ感謝でいっぱいです。
始めはあまり理解が進まず、どういう風に質問をし直したら良いものかとあれこれ考えていたのですが、 何度も丁寧なご回答をいただけたことで、接合界面を介して電荷が移動して真空準位が変化する様子を イメージすることができるようになりました。「応用物性」も図書館で読むことができ、 真空準位の曲がりが空間電荷の分布によってポワソン方程式を解くことで得られる 2次関数なのだということがよく分かりました。
この考え方でいくと、異種金属の接合においても、極端にキャリア密度が低い金属を用いたとすると、 フェルミ準位をそろえるために電荷が移動することで空間電荷の分布が生まれ、 ポアソン方程式を解けば半導体の場合と同じような2次関数的な真空準位の曲がりが得られると思うのですが、 正しい理解でしょうか?
(そこまでキャリア密度の低い金属、というものが存在するのかはわからないのですが、理論上の話です。)
重ねての質問になってしまって恐縮ですが、お教えいただけましたら幸いです。
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Date: Fri, 15 Apr 2016 20:36:12 +0900
A2: T君、佐藤勝昭です。
「極端にキャリア密度が低い金属」ですが、縮退半導体がそのケースです。
金属と呼ばれるものでは、キャリア濃度は1022/cm3程度あるのに対し 縮退半導体のキャリア濃度は1018/cm3~1020/cm3程度です。
酸化物の中には、絶縁体だけどMott-Transitionを起こして金属的伝導を示すものがあります。
例えば、Li_x Zn_(1-x) V_2 O_4などがその例です。このような「金属」では、ご指摘のような ことがおきますが、Au, Ag, Alなどの本当の金属では、桁違いにキャリア密度の低いものは ありません。半金属Biなどはこれより小さいです。
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Date: Mon, 18 Apr 2016 14:24:21 +0900
AA: 佐藤先生
ご返信ありがとうございます。おかげさまで混乱していた頭がすっきりと整理できました。
これで、もう少し難しい参考書なども読んでいけそうです。引き続き勉強させていただきます。
丁寧にご回答くださり感謝いたします。ありがとうございます。
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1364.希土類イオンの蛍光スペクトルについて
Date: Mon, 02 May 2016 15:30:43 +0900Q1: 佐藤勝昭先生へ
私はG*大学大学院機能材料工学専攻M2のK*と申します。ホームページを拝見し質問をさせていただきました。(匿名でお願いします。)
現在、磁性と蛍光について研究しておりますが理解できない点が多く、思い切って質問させていただきました。初歩的な質問ばかりですかお願い致します。
- 希土類の蛍光についてですが遷移の仕方として電気双極子と磁気双極子遷移があるということが分かりました。その名前の由来などなぜそのような名前なのですか?
- また、それが遷移確率を級数展開し、その一項目と二項目ということも分かったのですがスピン軌道相互作用を考えずLS結合だけの場合、軌道角運動量子数L、
スピン角運動量量子数S及び全角運動量量子数Jがどのように変化した場合でしょうか?
例としてイッテルビウムイオン(Yb3+)は2F7/2から2Fsub>5/2への遷移ということがディーケダイアグラムからわかりましたがこれは電気双極子遷移ですか?
- イッテルビウムイオン(Yb3+)についてです。ディーケダイアグラムでは2F7/2と2Fsub>5/2の二つの準位しか記述されていません。
電子配置では2D5/2の準位もあると思うのですがなぜでしょうか。遷移しないから書いてないのか、そもそもそんな準位がないのでしょうか?
- 磁場中の蛍光についてです。磁場を印加した状態で蛍光を測定すると準位がゼーマン分裂を起こすと考えているのですが実際に蛍光スペクトルは分裂するのでしょうか。
または、結晶場とスピン軌道相互作用によって既に準位が開裂しているため蛍光スペクトルは分裂などせずに位置が変化するなどしか起こらないのでしょうか?
- 一成分で強磁性体であり蛍光を示す物質は多々あるのでしょうか。私自身論文を調べましたが磁気特性、蛍光特性及びその相関を調べたものは見つかりませんでした。もしご存知なら教えて頂くことはできないでしょうか?
Date: Mon, 2 May 2016 23:40:51 +0900
A1: K君、佐藤勝昭です。 質問が膨大で、光物性の教科書を数冊分の内容です。短い回答でどの程度わかって頂けるか自信がありませんが、手短に説明します。 あなたは機能材料工学専攻なので、量子力学の基礎知識があるものとして説明します。 参考になるサイト:
新潟大学佐藤研究室のHP
名古屋大学の授業サイト
- 電気双極子遷移と磁気双極子遷移
光学遷移とは電磁波と物質の相互作用によって基底状態に励起状態が部分的に混じることと解釈できます。
電磁波は電界と磁界が互いに直交して振動している伝搬します。
電磁波の電界成分Eと相互作用するのは、電気双極子モーメントPです。相互作用のエネルギーは、P・Eであらわされます。
この摂動を受けて基底状態に励起状態が部分的に混じると電気双極子遷移が起きると解釈されます。
i番目の電子の位置ベクトルをriとすると、
P=-eΣri で表されます。
一方、電磁波の磁界成分Hと相互作用するのは、磁気双極子モーメントMです。相互作用のエネルギーは、M・Hで表されます。
この摂動を受けて基底状態に励起状態が部分的に混じると磁気双極子遷移が起きると解釈されます。
磁気双極子モーメントMは軌道角運動量の量子liとスピン量子siを使って
M=βΣ(li+2si) で表されます。
電気双極子遷移は強い遷移です。磁気双極子遷移の振動子強度は電気双極子遷移のそれの1万分の1位しかありません。
従って、電気双極子遷移禁止の場合にしか観測されません。
- 電気双極子遷移と磁気双極子遷移の量子条件
希土類イオンの4f電子間の遷移はパリティが同じなので基本的には電気双極子遷移が禁止されています。
Yb3+は4f13なので、f軌道に1個ホールがある状態です。Hund則に従うと基底状態は、L=3、S=1/2となります。more than halfなのでJ=L+S=7/2です。
軌道はラッセル-サンダース項ではL=0,1,2に対応してS, P, D, Fと書きます。
左肩にはスピン多重度 2S+1=2x(1/2)+1=2 を 書きます。2Fです。J=L+S=7/2ですが、Jz=7/2, 5/2 これは、Lz=3, Sz=±1/2に対応します。
これがDieke Diagramの2F7/2と2F5/2に対応します。
ΔJz=1なので、磁気双極子遷移ではないかと思われますが、磁気双極子遷移は弱いのでほとんど光らないはずです。
一般に希土類イオンが、結晶内におかれたときに何らかの理由でパリティ禁止が解ければ電気双極子許容になります。
私どもの研究ではCuAlS2:Yb3+で2F5/2→2F7/2の強い赤外発光スペクトルを観測しています。CuAlS2は中心対称性がないので、電気双極子遷移が見られたと考えています。
T.Nishi, Y.Kimura,K.Shimizu, K.Sato: Infrared Photoluminescence Studies of Rare Earth Doped CuAlS2 Single Crystals; Inst. Phys. Conf. Ser. No. 152, pp. 369-372 (1998)
- Yb3+の励起準位2D5/2が書かれていない理由
2F5/2→2D5/2は40,000cm-1位の紫外域に来ることが下記の書物にあります。
D.S.McClure: Electronic Spectra of Molecules and Ions in Crystals Part II Spectra of Ions in Crystals; Solid State Physics Vol.9 (eds. F.Seitz , D.Turnbull), p457 (1959)
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Ce3+(4f1)は電子1個なので、ホール1個のYb3+と同じようなスペクトルになると思いますが、Ce3+では4f7→4f6 5d1 というf→d許容遷移が可視に現れ2F7/2→2D5/2はf→d遷移に隠れて観測されません。
- 実際に希土類イオンの蛍光スペクトルはゼーマン分裂するか?
希土類ドープ半導体において、ESRが見られます。磁界によってゼーマン分裂した基底状態間の磁気双極性遷移がESRです。たとえば、私どもの論文を見てください。
I.Aksenov,Y.Kudo, K.Sato: Electron Spin Resonance of Tb3+ ion in CuAlS2; Jpn. J. Appl. Phys. 31 L1009 (1992)
またEuドープCaSにおいて、蛍光の磁気円二色性(MCE)が見られます。
これはゼーマン分裂した4f7→4f6 5d1遷移のゼロフォノン線のゼーマン分裂を見ていると考えています。私達の論文です。
S.Kijima, K.Sato, T. Koda: Spectra of magnetic circular dichroism of absorption and luminescence of Eu-doped CaS single crystals; J. Luminesc. 55 187 (1993)
- 強磁性体であり蛍光を示す物質
強磁性半導体EuSは、赤色の蛍光を示します。キュリー温度以下で波長が磁気シフトします。
たとえば
G.Busch,P.Streit,P.Wachter:Effect of magnetic ordering on the photoluminescence of EuS and EuTe; Solid State Commun. 8 1759-1763 (1970)
をお読みください。
Date: Fri, 06 May 2016 19:16:53 +0900
Q2: 佐藤勝昭先生へ
ゴールデンウィーク中にも関わらずメールのご回答ありがとうございました。
現在確認することができる論文と先生の説明について考えましたがまだ分からな いことが多いため、もう一度勉強し直してみたいと思います。
それでもまだ解決できないことがあれば再度先生にご質問したいと考えています。
その際にはお手数かと思いますがよろしくお願いします。
長期休暇の中色々な事を教えて頂きありがとうございました。
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Date: Fri, 6 May 2016 22:12:52 +0900
A2: 君、佐藤勝昭です。
ジャッド=オーフェルト理論(英: Judd-Ofelt theory)をご存じですか?
本来は禁制遷移である4f軌道間の電気双極子遷移が、配位子場の対称性が 崩れることで一部だけ許容化されることを定量的に説明した理論です。
Judd, B.R., Optical absorption intensities of rare-earth ions, Phys. Rev. 127, 750-761 (1962).
Ofelt, G.S., Intensities of crystal spectra of rare-earth ions, J. Chem. Phys. 37, 511-520 (1962).
しかし、YAG:Yb3+の発光に関してはJudd Ofeltでは十分説明できないとされ、理論的に検討されています。
G. G. Demirkhanyan: Intensities of inter-Stark transitions in YAG-Yb3+ crystals;
Laser Physics, Volume 16, Issue 7, pp 1054-1057 (2006)
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Date: Mon, 09 May 2016 13:36:36 +0900
Q3: 佐藤勝昭先生へ
ジャッドオーフェルト理論は名前しか聞いたことがなかったため先生から教えていただいた論文で勉強したいと思います。
前回のメールの内容に戻ってしまうのですがLS項は電子の入り方という認識なのですが間違っているのでしょうか?
先生から頂いた論文(希土類のスペクトルと磁性)から電子が二つの場合配置方法が91個のパターンがあると書かれています が、現れる多重項としては7パターンです。
縮退している事も書かれていますがL=4,S=0とL=4,S=1は縮退しているということでよろしいのでしょうか?
またなぜ縮退するのでしょうか?同じ軌道角運動量でもどの軌道か及びでの向きのスピンかで全ての準位は開裂すると私自身は考えています。
お手数かと思われますがよろしくお願いします。
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Date: Thu, 12 May 2016 01:02:11 +0900
A3: K君、佐藤勝昭です。
添付図はf電子が2個ある場合のL,Sの様子を示しています。
基底状態は(1)の3Hですが、L=5 の場合の多重度は
Lz=5,4,3,2,1,0,-1,-2,-3,-4,-5の11とおりが同じエネルギーを持ちます。
また、S=1のスピン多重度は
Sz=1,0,-1の3通りが縮退しています。従って、軌道の11通りと スピンの3通りで11x3=33通りが同じエネルギーを持ちます。
このあたりは、原子中の電子の量子状態の基礎です。
なんでもQ&Aに頼るのではなく、教科書を1から読み直してください。
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Date: Mon, 16 May 2016 10:58:02 +0900
AA: 佐藤勝昭先生へ
初歩的なことばかり質問してしまい申し訳ありませんでした。
もう一度最初から勉強し直そうと思います。
また先生から教えていただいた論文についても理解を深めたいと考えています。
今回の数多くの質問に回答して頂いた事、さらに論文まで教えていただいた事にとても感謝しています。
また先生にお会いする機会がありましたら再度お礼を申し上げたいですが、今回はこのメールでお礼を申し上げます。誠に有難うございました。
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1365.金属の色の物理的起源について
Date: Tue, 10 May 2016 11:47:59 +0900Q: 佐藤先生 恐れ入れます。初めまして。
S社Kと申します。
金属の色の物理的起源を読みました。
非常に役に立ちまして有り難うございます。
内容中、光子エネルギーを用いた方が、電子の集団運動や電子遷移を表すのに適しているからであるという内容があります。
この意味の説明をお願い致します。
背景としては、
銀蒸着し、反射率を測定する際、蒸着フィルムを用いてエージングすることによって、b値が下がり、反射率が若干高くなる現象が発生しております。
ご検討をお願い致します。
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Date: Tue, 10 May 2016 21:22:35 +0900
A: K様、佐藤勝昭です。
「光子エネルギーを用いた方が、電子の集団運動や電子遷移を表すのに適している」 の意味ですが、光の吸収は、物質中の電子が基底状態から励起状態に遷移することで 表され、両状態のエネルギー差に相当する光子エネルギーをもつ光を吸収するからです。
波長λ(nm)とエネルギーE(eV)の関係はE=hc/λ=1239.8/λで表されます。波長を使うと逆数なので面倒くさいでしょう?
また、電子の集団運動を特徴付けるのはプラズマ周波数ν_pですが、プラズモンのエネルギーE_pとプラズマ周波数ν_pとの間にはE_p=hν_pの関係があります。
そういうわけで、波長より、エネルギーを使う方が、物理現象をよく記述できるのです。
ご質問「銀蒸着し、反射率を測定する際、エージングすることによってb値が下がり、反射率が若干高くなる現象」については、詳細が書かれてないのでよくわかりませんが、 一般に、蒸着したばかりの銀薄膜は、島状に銀粒子が付着しているため、b値(光散乱)が大きいですが、数百度、数日の熱処理で、島と島が凝集して、平坦になり、散乱が減 り反射率が上がるのだと存じます。
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Date: Wed, 11 May 2016 10:32:42 +0900
AA: 佐藤様
御連絡を頂いて有り難うございます。
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1366.ナノ粒子の液相分離
Date: Thu, 26 May 2016 17:29:22 +0900Q: HPの方を拝見して質問させて頂きました。参考にさせて頂いております。
私はM*大学・理工学部・電気電子工学科に所属している4年のI*と申します。匿名でお願い致します。
以前、3年生の時に液中プラズマについて質問させて頂きました。その節はありがとうございました。再度、質問したいことがありますのでお願い致します。
実験で、液相還元法で作製したナノ粒子の溶液(均一に分散されています)の回収方法として吸引ろ過を採用しているのですが、 濾過した後メンブレンフィルターには膜状のもの(SEMで見ても膜状になっていてナノ微粒子は確認できません)になってしまいます。
論文などのきれいな粉末は得られず、濾過方法までは記載されていません。やはり洗浄(エタノールなど)などの作業をしていないことが原因なのでしょうか?
分かりづらくて申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。
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Date: Sun, 29 May 2016 00:12:48 +0900
A: I君、佐藤勝昭です。
同じ質問をGoo Q&Aにも出していますね。ベストアンサーはまだですか?
4年生なら卒論研究室の指導教員がいるはずです。ネットで調べる前に、指導教員に聞くべきでしょう?
私は、化学工学は専門ではありませんが、ナノ粒子の吸引濾過による完全分離は簡単ではないと思います。
論文を探してみましょうね。
ナノ粒子の液相分離法のうち等密度遠心法が優れているようです。
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Date: Tue, 31 May 2016 13:37:50 +0900
AA: 佐藤勝昭 様、Iです。
おっしゃる通りです。本来はネットではなく、担当教員に聞くべきでした。考えを改め直します。
資料を送って頂きありがとうございました。是非参考にさせて頂きます。
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1367.金属薄膜の表面プラズモンについて
Date: Tue, 31 May 2016 01:37:41 +0900Q: 佐藤勝昭先生
HPを拝見させていただきました。K*大学修士1年のT*と申します。Webへ掲載する名前は匿名でお願いいたします。
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以下、基板上に非常に薄い薄膜があることを想定させていただきます。
膜厚10 nm程度の薄膜に表面プラズモンが励起する場合、膜厚が非常に薄いために薄膜の上表面と下表面の両者に表面プラズモンが 励起して相互作用し合い、高周波数と低周波数の2つの励起モードが生じるという論文をいくつか見つけました。
こういった論文は電子エネルギー損失分光法(EELS)に関する論文で多く見受けられ、薄膜の横から100 keV程度の電子を入射した時 に生じる現象について議論しています。
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参考
E. A. Stern et al., Surface plasma oscillations of a degenerated electron gas, Physical review 20, 130 (1960).
また、その励起される表面プラズモンの波長などについては触れられていません。
そこで質問なのですが、
誘電体基板上の金属薄膜 (膜厚10 nm程度) へ強い光を入射させた場合、薄膜上表面と基板との境界面の両者において表面プラズモンが励起し、2つの励起モードは生じ得るでしょうか。
また生じる場合は、2つの表面プラズモンはどれくらいの波長を持っているのでしょうか。求め方等があればご教示頂ければと思います。
以上、お手数おかけいたしますが、ご返答頂けますと幸いです。
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Date: Wed, 1 Jun 2016 00:13:40 +0900
A: T君、佐藤勝昭です。
SiO/Si界面のプラズモンは、価電子プラズモンで、金属薄膜に見られる自由電子プラズモンとは異なり 6.5eV(波長190.7nm), 9eV(137.8nm)の紫外線領域に現れます。プラズモンは縦波なので、電子線では吸収 が見えますが、光では明確には見えません。
ご質問の金属薄膜/誘電体においても価電子プラズモンは見られますが、あなたの考えているのは近赤外 ~可視域に現れる自由電子プラズモンではないのですか?
表面プラズモンの干渉は、近接場を使うと見ることができます。例えば、
Li Jiang-Yan et al., Chin. Phys. B Vol. 22, No. 11 (2013) 117302 を読んで下さい。
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Date: Sat, 11 Jun 2016 01:27:49 +0900
AA: 佐藤勝昭先生
お返事遅くなり申し訳ありません。
早急なお返事をありがとうございました。是非、参考にさせていただきます。
誠にありがとうございました。
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1368.錫メッキ線とアルミカシメを画像処理で区別したい
Date: Mon, 1 Aug 2016 03:26:55 +0000Q: 東京農工大学 佐藤勝昭様、A社Hと申します。
始めて、メールをさせて頂きます。
先生の研究室に光を用いた金属の反射の資料が有る事をインターネットを介して知った事でメールしています。 現在、弊社ではコネクター端子のカシメの部分を画像処理を用いて出荷検査を行っております。
私共の悩みは、線材が銅からアルミに変わったことで端子の色(錫メッキ色)とアルミ電線の色の見分けが付かず 画像処理による出荷検査に手間取ってます。
そこで、検査する光の波長を変えることによって、うまく画像を読み取る事が出来ないかと思い、何か良いアドバイス を頂けないかと思い、不躾ですがメールをさせて頂きました。
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Date: Wed, 3 Aug 2016 23:24:21 +0900
A: H様、佐藤勝昭です。
高松に出張中だったため、お返事が遅くなり申しわけありません。
スズはありふれた金属ですが、私の手持ち反射スペクトルは半導体の灰色スズしかありません。
メッキで堆積した銀白色のスズは白色スズだと思われますので、下記論文を、長岡技科大の石橋先生にお願いして取り寄せてもらいました。
G Jezequel, J C Lemonnier and J Thomas, Optical properties of white tin films between 2 and 15 eV, Journal of Physics F: Metal Physics, Volume 7, Number 12
添付の図は左がアルミ、右が白色スズです。横軸EはeV単位で描かれています。光子エネルギーE(eV)を波長λ(nm)に変換するには、λ=1239.8/Eの式を使います。
図のように、AlとSnの反射スペクトルは非常に似ていますが、Alの方が全体に反射率が高くなっています。しかし、Al表面は酸化膜ができているので、反射率 は図のスペクトルより低く、スズとあまり変わらないと思います。
従って、スペクトルを詳細に測定しない限り、AlとSnを完全に区別することは不可能です。
あまりお役に立てなくて申しわけありません。
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AA: お忙しい中、ご連絡有難う御座いました。
実は、本件に付いては複数のテ゛ハ゛イスメーカーや画像検査メーカーに問い合わせを行っていましたが、何処からも 出来ないとの回答を受け大変困っていた所です。ご意見を頂いた内容で検討をして見ます。
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1369.アルマイト処理したアルミ表面の輻射率について
Date: Sat, 20 Aug 2016 23:05:02 +0900Q: 初めまして。N社Tと申します。
突然のご連絡にて大変恐縮ですが、ホームページを拝見し質問させて頂きたく存じます。
なお手数ですが、Webに掲載の際は、社名、氏名とも匿名にてよろしく御願いいたします。
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教えていただきたいこと
Q1:筐体の放熱設計を行うにあたり、
アルマイト処理後の表面に、油などの汚れが付着することによって
輻射率への影響があるのでしょうか?
アルマイトによる輻射率のアップは、表面粗さのために
反射率が低下することと、表面積が拡大するために起こると考えおります。
その際、細孔も輻射率の寄与につながっているのではないかと考えているため、
(封孔処理をしても、厳密には穴は塞がらないため、輻射率の低下は起きない?)
表面に油などの汚れが、細孔のなかまで付着してしまうことで、
表面のよごれを拭き取っても、輻射率がさがってしまうことがあるのでしょうか?
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私の輻射率に関する理解が間違って居る部分があれば、ご指摘いただければと思います。
お忙しいところお手数おかけいたしますが、ご回答いただければ幸いです。
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Date: Sun, 21 Aug 2016 17:20:16 +0900
A1: T様、佐藤勝昭です。
はじめに輻射率emissivityについて考えましょう。T>0Kにおかれたすべての物質は熱輻射をします。
熱輻射の大きさは、それぞれの温度、輻射光線の波長において、輻射率に依存します。
輻射率は、物体の表面から輻射されるエネルギーと、同じ温度・波長・観測条件における黒体輻射の エネルギーとの比で表され、0(完全反射)と1(完全輻射)との間をとります。
輻射率は、物質に依存するだけでなく表面の性質に依存します。
よく研磨したアルミニウムの輻射率は0.02(25℃), 0.03(100℃)と非常に小さい値です。アルミニウム を陽極酸化(アルマイト処理)すると、表面にほぼ垂直に無数の細孔があくとともに、その細孔壁は、 Al2O3膜に覆われています。Al2O3の輻射率は0.4程度なので、確かに多少の輻射率の向上があるでしょう が、輻射率の一覧表に載っているアルマイト処理した値の0.77にはなりません。
(アルミナ粉末の輻射率は0.8-0.9と大きいですが、これは粒界面での多重反射によると考えられ、 今回の場合には当てはまらないでしょう)
おそらく陽極酸化したアルミに入射した光は細孔壁で何度も反射を受け強い吸収を受けるのではない でしょうか。理想的にはすべての光が吸収される黒体になりますが、通常のアルマイトではそこまで ではなく77%位吸収されます。逆に、ある温度に置かれたアルマイト処理したアルミからは、黒体の77% くらい光を輻射すると考えられます。
封孔処理では、水和アルミナAlO(OH)で細孔を埋めます。正確には細孔壁の酸化皮膜を覆います。
アルミナと水和アルミナは屈折率が近いので輻射率にはあまり影響がないと考えられます。
油の屈折率は1.45~1.55程度で、酸化アルミニウムの1.76に比べ小さいので界面での屈折が起きて 細孔からの輻射光線に多少の影響があるかも知れません。薄ければ問題ないと思いますが、油膜が 厚いと輻射率が低下すると考えられます。
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Date: Sun, 21 Aug 2016 23:43:53 +0900
Q2: この度はご丁寧なご回答を頂き、ありがとうございます。
やはり細孔による形状的な影響で、輻射率が上がっているということなのですね。
ただお答えをうけて、もう一点疑問が生じましたので質問させてください。
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油膜の厚みによって、輻射率に影響があるとのことですが、
あくまで、表面の汚れは拭き取った状態(細孔のみがつまった状態)では、
細孔はnmレベルの直径ですので輻射にはほぼ影響がないと
いうことで考えてよろしいでしょうか?
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よろしく御願いいたします。
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Date: Mon, 22 Aug 2016 06:47:22 +0900
A2: 別の見方をすると、細孔を含めたアルマイト表面の見かけの平均屈折率が空気の屈折率に近いほど、 輻射率は高いと考えてよいと思います。
細孔の空間が油で埋まれば、見かけの屈折率が高くなるので、輻射率は低下するのではないでしょうか?
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Date: Tue, 23 Aug 2016 22:16:18 +0900
AA: 度々のご返答ありがとうございます。
大変参考になりました。
お忙しいところ誠に有難うございました。
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1370.磁性体のヒステリシス損失の熱化メカニズム
Date: Tue, 1 Nov 2016 22:02:26 +0900Q1: 東京農工大学 佐藤勝昭先生
突然のメールで失礼いたします。N*高専・専攻科2年のK*と申します。(匿名でお願いします)
佐藤先生のHPをいつも興味深く拝見しています。
磁性体のヒステリシス損失に関して分からない点があり、ご連絡いたしました。
基本的な内容かも知れませんが、ご教示いただけると幸いです。
現在、変圧器用コアのヒステリシス損失について調べており、調査した多くの文献には 「ヒステリシス曲線のループ面積が1周期の損失となる」と書かれているのみで、どのような 仕組みで熱が発生するのか、見いだすことができませんでした。
そもそも、ヒステリシス曲線のループ面積には、ヒステリシス損だけでなく渦電流損も含まれ、 周波数とともに影響が大きくなってくるものと認識しております。
熱の発生原理として、バルクハウゼン効果に伴う急激な磁壁移動で発生する渦電流損、 電子スピンが向きを変える際に発生する摩擦熱?など、様々考えていますが、実際に静磁 エネルギーから熱エネルギーへの変換プロセスがどうなっているのか、よくわかりません。
可能ならば具体的なイメージとして現象をとらえたいと考えていますが、量子論の十分な 知識がないとなかなか理解できない領域なのでしょうか。
お忙しいところ大変恐縮ですが、何卒、助言をくださいますよう、よろしくお願いいたします。
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Date: Wed, 2 Nov 2016 00:07:24 +0900
A1: K君、佐藤勝昭です。
するどい質問ありがとう。
永久磁石のヒステリシス曲線のループ面積は磁石が蓄えている静的な磁気エネルギーです。
一方、交流磁界でヒステリシスを一周する場合は、磁性体内部で磁気モーメント(スピン) がそろっている状態(磁気エネルギーが蓄えられている状態)と磁気モーメント(スピン) がバラバラ(多磁区)になる減磁過程(磁気エネルギーを失う過程)が繰り返されます。
この減磁過程で磁気モーメントのエネルギーが格子振動(フォノン)に伝えられ熱になる と考えられます。
実は、スピンダンピングの素過程はよくわかっておらず、現象論的に扱われているのが現状です。
3d遷移金属の軌道磁気モーメントはほとんど消滅しているのですが、多少は残っていることが放射光 を用いたXMCDの研究からわかっています。
磁気エネルギーはスピンからスピン軌道相互作用を通じて軌道に伝達され、さらに電子軌道は格子に 付随していますから伝達されたエネルギーは、格子に伝えられ、格子振動(フォノン)を励起する のではないかと私は考えます。
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Date:Fri, 04 Nov 2016 16:46:05 +0900 Q2:東京農工大学 佐藤 勝昭 先生
お世話になっております。N高専のKです。
お忙しい中ご返事をくださり,ありがとうございます。
やっと磁気ヒステリシスによる熱についてイメージが湧きました。浅学で理解の追いついて いないところがあり,以下の疑問が残りました。
1)磁気エネルギーがスピン軌道相互作用を通じて格子振動に変換されるのは、スピン
の向きによって結晶格子が歪む磁歪現象と同様と考えてもよろしいでしょうか。
2)減磁過程において,磁気エネルギーが格子振動のエネルギーに変換されるのは,わ
かりました。ただ,磁気エネルギーが蓄えられていく過程でもスピンの向きが変化し,
格子振動を生むのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。
3)一般的に可逆的と言われている初透磁率磁化範囲や回転磁化範囲でもスピンの
向きが変化し,ということは格子振動へエネルギーを伝えていると考えることができます
が,この場合,不可逆作用になってしまい矛盾が生じます。不可逆変化と言われる
バルクハウゼン効果のような急激な磁壁移動でのみ,格子振動を生むのでしょうか。
お忙しいところお手数をおかけしますが,何卒,ご助言をお願い申し上げます。
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Date: Sun, 6 Nov 2016 01:04:00 +0900
A2: K君、佐藤勝昭です。
1) 基本は、スピンが格子に結びつくのは磁歪と同じですが、スピンのゆらぎによるエネルギ ーの散逸が格子の揺らぎを励起するということなので、磁歪よりもう少し動的な現象ではないでしょうか。
2) スピンの変化と格子の振動はカップルしています。いまの場合そろえ合うとき、エントロピー の減少をともなうので、むしろ、格子系を冷やすのかもしれませんね。(自信はありませんが・・)
3) 磁壁はどこにあってもポテンシャルエネルギーは同じです。従って移動にはわずかなエネルギーしか 使いませんので、多少摩擦があっても、格子系に渡すエネルギーはあまり大きくありません。
散逸は非常に少ないので、非常に速い速度で動きます。 磁壁がどこか(欠陥など)に引っかかると、そのポテンシャルエネルギーを超えて動くには大き なエネルギーが必要です。これが、バルクハウゼン損失になります。
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Date: Mon, 7 Nov 2016 00:12:14 +0900
AA: 東京農工大学、佐藤 勝昭 先生
いつもお世話になっております。N高専のKです。
また,今回の細かな質問に関して,一つ一つ丁寧かつ分かりやすいご説明,誠にありがとうございました。 ヒステリシス損失に関して,かなり深い部分まで理解することができました。
さらに理解を深めるため,スピンと結晶格子に関する文献等の調査と内容の整理を一旦行ってみよう と思います。
今後とも,ご指導のほどよろしくお願いいたします。
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1371.シリコンナノドットの発光寿命
Date: Mon, 14 Nov 2016 22:31:26 +0900Q1: 佐藤勝昭先生、K*大学四回生のY*と申します.
(申し訳ありませんが,HPアップ時は学校名,氏名とも匿名でお願いします。)
インターネットでいろいろ調べているうちに先生のHPにたどり着き,メールで 質問をさせていただくことにしました。
現在,半導体でケイ素ナノ結晶の文献を読んでいます。
文献を読んだり、書籍で調べているのですが、電子ー空孔の光励起が起こる際の減衰速度を求める式を用いるとき、無放射再結合の求め方がわからず、メールいたしました。
実験的に求める際にはどのような計算をするのか、理論的に求めているのかなど、教えていただけないでしょうか。
突然のメールで申し訳ありませんが,よろしくお願い致します。
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Date: Tue, 15 Nov 2016 01:06:49 +0900
A1: Y君、佐藤勝昭です。
一般に、発光の減衰はレート方程式という微分方程式を解くのですが 発光再結合の確率と非発光再結合の確率の比率で発光寿命が決まります。
非発光再結合は粒子の表面状態で決まるので実験で決めるしかありません。
周りに金属粒子があると表面プラズモンなどが関与する場合もあり、 簡単ではありません。
あなたの読んでおられるSiナノ結晶の文献を紹介いただけませんか?
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Date:Tue, 15 Nov 2016 09:38:47 +0900
Q2: 返信ありがとうございます。
先生がおっしゃられたように、周りに金ナノロッドがあり表面プラズモンが関与している論文になっています。
タイトルは plasmon-enhanced emission rate of silicon nanocrystals in gold nanorod composite です。
よろしくお願いします。
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Date: Tue, 15 Nov 2016 16:38:52 +0900
A2: Y君、佐藤勝昭です。 神戸大の杉本さんがBoston大で行った研究成果の論文ですね。
ACSの論文はダウンロードできませんでしたが、神戸大の紀要に収録された同じ内容の論文を読みました。
これによれは、Siナノ結晶ー金ナノロッドの系におけるフォトルミの減衰の増強は、Purcell因子による増強と、金ナノロッドの吸収に よるものとして説明でき、シリコンナノ結晶内の非発光再結合レートの金ナノロッド近接効果によるものではないと結論していますが、非発光 再結合レートの導出には触れていません。
4年生なら卒論の指導教員がおられるはずなので、詳細は、指導教員におたずねになってはいかがですか?
註:パーセル効果とは、蛍光分子の自然放出レートがそれの置かれた環境によって増強される効果(1940年代にEdward Mills Purcellが発見)です。
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Date: Tue, 15 Nov 2016 17:11:33 +0900
AA: Yです。お忙しい中返信ありがとうございます。
担当教員の先生ともう一度話してみようと思います。丁寧に教えてくださり感謝いたします。
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